【きのころチャレンジ】続きは読めない
きのころさん、note投稿300日達成!おめでとうございます!
300日ってすごいです! わたすの記録はたしか、、、わすれました!!
30日くらいだったカナ。。。なので、300日のすごさ、身に染みてわかります。
そして、きのころチャレンジに、わたすも参加しようと思います♥♥
気合を入れて書いたら、5,000字を超える大作になってしまった。
時空が歪みすぎました。
我ながら、なげーよ!!どんないやがらせだよ! って感じです。暇で暇で、しかたないときだけ読んでください。ほんと、謝罪しかございません!!!
今朝、郵便受けに入っていた一通の手紙。
差出人の名前はない。
胸騒ぎに、震える手で封を開ける。
中に入っていたのは、
途中まで書かれた私の遺書。
覚えはない。
だが、間違いなく私の筆跡だ。
日付は明日になっていた。
うわっ、明日かぁ。やだなぁと半ば怯えながら、私は冷凍庫にしまってあるブルトンヌのクッキー缶を取り出す。このビスキュイはホワイトデーにツカダくんからもらった宝物。思い出すだけで甘酸っぱくて胸が高まる。心臓が止まらなくてびっくりするの。ツカダくんは私の青春そのもの。ちなみに、現在進行形。
中を開くと、もう何十通と同じような手紙が入ってる。今日届いたやつをポンっと投げ入れて蓋を閉めた。
この缶のペールグリーンの色もだいすきで、そこにあるだけで顔がニヤけてしまう。ツカダくん、私がペールグリーンをすきだって知っててくれたのかな。私はツカダくんの凛とした王子様フェイスを思い浮かべて、キャーっと1人、ダイニングテーブルに置かれた缶を見ながら、自分の顔を両手のひらで包んでいる。
未来の日付で遺書が届くようになったのは、もう随分前からだ。
何日か連続で届くこともあれば、1週間空くこともある。ひどいときなんて半年くらい空いていた。遺書が届いた翌日はたいてい碌なことがない。おそらく未来で「過去の自分に手紙を送れる装置」なんてものが発明され、きっと私がせっせと書いているんだと予想してる。遺書は決まって途中で終わっていて、それも私っぽい。たぶん、途中で飽きたんだろうな。それか、めんどうくさくなったんだろう。だって手書きだもの。
最初に手紙が届いた翌日は、たしかツカダくんの前で思いっきりズッコケた。顔から火が出るくらい恥ずかしくて、私は顔から血を出していた。
ツカダくんは「笹木さん、大丈夫?」と心配して、綺麗にアイロンがけされた真っ白なハンケチを差し出してくれたけど、ツカダくんの真っ白なハンカチーフに、私なんかのドス黒い血を付けるわけには絶対にいかないから、私は必死で後ろの髪の毛を前に持ってきて顔を隠して「大丈夫!」と元気ハツラツ、ニッコリ笑って走り去ったの。すれ違うカップルが私をみて、「ヒィッ!!貞子!!!!」と叫んでいたけど、私はまだホラーのがマシだと思ったの。
そして家に帰ってきてから、その遺書を思い出して、あぁそうか。昨日のうちに死んどけってことだったのか、と気づいたの。
でも、2通目が届いたのはそれから1ヶ月後。私はなんか既視感を抱いたけど、もうすっかり忘れていたの。頭のなかはツカダくんのことでいっぱいだったから、つまらないことはわすれてしまうの。小さいことは気にしない性分だし。
その2通目の手紙が届いた翌日は、文化祭だった。私は手芸サークルで、目下ツカダくんのマスコットを作っているんだけど、その手芸部の模擬店はクレープ屋さん。私はちょうど、テントの奥で苺をカットしてるところだった。そのとき、「クレープひとつください」という聴き慣れすぎた素敵なボイスが、私の右耳に入ってきたまま、左耳から抜けようとしなくて、つまりは「クレープひとつください」が延々と私のなかでループ再生されている。なんだけど、その声を聴いた瞬間、たぶん「クレープ」の「レー」あたりで気づいた私は、ロケットよりも高速に、テントにあらわれたお客の姿を首だけ動かして見たの。あまりの速さで首だけを動かしたから、びっくりした首は、ぐっきりとそのまま動かなくなった(なんか首の血管が何本もブチッといってた気がする)。そのあまりの痛さで、手にしていた果物ナイフは苺を貫通して私の指にぶっ刺さった。まな板の上に血がボトボトと垂れ始めた。向き合ってバナナをカットしていたミヤコが大声で「まみっちょ、大丈夫!!?」と叫んだ。私は、ミヤコが私のことを「まみっちょ」と呼んでいることを、ツカダくんにだけは聴かれたくなかった。なのにミヤコの叫びで半径3メートルにいたひとたち全員の視線がテントの奥の私に注がれたの。もちろん、それはクレープを注文したツカダくんにも。私はさらに興奮して、指から血がドクドクと溢れた。そしてミヤコはまた叫んだ。
「まみっちょ!!!血!!!血ぃーーー!!!」
家に帰ってシャワーを浴びたあと、包帯を巻きなおしながら、私は思い出した。ダイニングにそのまま置かれた手紙。昨日受け取った私の遺書。そして、1か月前の頭の怪我のことも。私はスタディコーナーへ移動して、袖の引き出しを開けた。あった。無造作に入っていた。1か月前に届いた手紙。中の便箋を取り出す。どちらも、「私なんて生きていく価値がない。もう消えてしまいたい」という書きだしから始まっていた。いまの私の気持ちをそっくりそのまま物語っている。偶然には、思えない。なにかの呪いなのだろうか。ツカダくんをすきなほかの誰かが、私に呪いをかけてきたのだろうか。いやいや、でもこの字はまちがいなく私の字。私の筆跡。そして、こうして現実に私は翌日、瀕死状態に陥っている(主にツカダくんに対しての恥で)。
私は怖くなって、気を紛らわそうとテレビをつけた。
放映されていたのはSF的な深夜アニメだった。30年後の未来では、過去の自分に手紙が送れるらしい。でも30年後の未来ではデジタル化が進みすぎて、人々はすっかり自ら手を動かすことをしなくなっていた。だから過去の自分に送れるのは、手書きの場合のみ。なぜなら、想いが乗るから、と眼鏡で白髪、なのにてっぺんだけがツルツル頭の博士が得意げにしゃべっていた。
私はすっかり影響された。きっとこれだ。未来の私は、翌日にツカダくんの前で恥をかくことを警告してくれてるんだ。
しかし、直接的にそれを書かないところがなんとも私らしい。本人はきっと未来にいて結果がわかっているから、現在の私にも伝わるだろうという前提でいるの。でも、過去にいる私には伝わるわけないがないの。だって、私はまだ知らないんだから。私は30年後の私が相変わらず愚かであることに、かなしくなったと同時に、少しホッとした。
それから不定期で手紙が届くようになって、私はいつもその翌日に細心の注意を払うようにした。でもなぜかことごとく失敗し、いつもツカダくんの前で恥ずかしい思いばかりを重ねている。そして決まって私は流血する。
ツカダくんは心配してくれて、私の血液型を訊いてきた。輸血の準備までしてくれてるんだと思う。
そこからいつ手紙がくるのか怯えながら過ごしていたのに、待てど暮らせど手紙はこなかった。だいたい、なぜ前日に送ってくるんだ。せめて2週間くらい猶予を用意してくれない? と未来の自分に憤ったけど、2週間後には忘れてる可能性のが高いから、賢明な判断だと未来の私を絶賛した。
そしてバレンタインは平穏に終わり、安堵していた。ツカダくんは、私の用意した高級チョコを嬉しそうに受け取ってくれたの。こんなにうまくいくなんて。わたしは小躍りした。
しかし、その一ヶ月後。ホワイトデーの前日にポストに届いたそれをみて、私は富士の樹海への行き方を検索した。
生きた心地のしないまま、当日を迎えると、ツカダくんが小講堂の授業で、私の隣に座ってきた。その時点で私の胸はドキドキドキドキはずんで、そしてそれは便意へと姿を変えた。ギュギューっとお尻の穴からなにかが猛烈に飛び出したいと疼いている。お昼に食べたグリーンカレーが辛すぎたのだ。信じられない。このタイミングで。せめてツカダくんの逆側から出ようと右を向くと、大柄な男子学生が机に突っ伏しで寝ているではないか。これでは通れない。机をくぐって前の席もしくは後ろの席から抜け出すか、などと考えても、かがんだ瞬間ピンチを迎えてしまうかもしれない。漏らすよりはマシ、と私は覚悟を決めて、ツカダくんに両手を合わせて、通路に出させてもらった。
そこからはトイレにまっしぐら。授業中だからひとも少ないだろうと安心して盛大にモヨオシタ。音姫などでは到底消せなかったかもしれないエフェクト音。私はハンカチを咥えながら手を洗い、スッキリした顔で女子トイレを出た。
小講堂に繋がる外階段にツカダくんの姿を見つけた瞬間、背筋が凍った。私の効果音、ぜったい聴こえてたと思うの。そんな私の心配をよそに、ツカダくんは私を見るとにっこり笑った。
「顔色わるかったから、ちょっと心配になって追いかけてきちゃった。でもスッキリした顔をしてるから安心した。なんか俺、きもちわるいよね」
わたしは目に涙を浮かべながら、ブルンブルンと顔を横に振った。フィッシュボーンにした2つのおさげがブランブランと私の身体にぶつかる。
「そっ、んな、わけがない」
私は否定するのでいっぱいいっぱいで、しかも声が上擦ってうまく言葉にならない。
「わたっ‥わっ、わっ、わたすのほ、ほうが、えと、きっきっきも、きもちわっわっるいし」
全然聞き取れなかっただろうに、ツカダくんは安堵したようにクシャッと笑って言ったんだ。
「笹木さんがきもちわるいなんて一度も思ったことないよ。笹木さんてさ、いつも笑顔でへこたれないよね。笹木さんが大怪我してるところに遭遇するのが結構あって、俺はいつもとても心配になってた。でもそれでも明るく笑ってる姿に、俺は結構救われてる。ってなんか不謹慎な言い方だよね。そうじゃなくて、笹木さんはどんなときも笑っていて、その。なんていうか、いとおしいと思ってるんだ。笹木さんがしあわせでいてほしいと願わずにはいられないんだ」
ものすごく意味のわからないことを言われるので、わたしは目眩がした。日本語が理解できなくなってしまった気がする。だって、ツカダくんの言ってる意味がまったくわからないんだもの。
私が驚きすぎてなにも答えられないでいると、ツカダくんはあわてて言った。
「あ。ごめん、迷惑だったよね。わすれて」
かなしそうな、でもそれが返ってツカダくんの麗しい容姿を引き立てていて、私は見惚れて余計に何も言えなくなった。心の中で、ちがう、ちがう、そうじゃない、と精一杯叫んだけど、声にはならなかった。
ツカダくんは「笹木さん、いらないかもしれないんだけど、これ、バレンタインのお返し」と私にブルトンヌの紙袋を差し出して、硬直した私の手首にかけた。そして、さわやかにその場を去った。
私は身体が硬直して1ミリも動けないでいた。あまりにも長くそこにいるから、石像にでもなったのではないかと、校内で噂になったのか、気づけば何人もの学生に取り囲まれていた。その中に、ミヤコの姿もあった。
「ぎゃ!!! ほんとに石像がいる!!!! てか、まみっちょだし!!!」
私を見てギャハハと笑っている。
私はそのまま石になって本当に動けなくなった。
___
と、こういう言い伝えがあります。
教授は淡々と説明した。
確かに、なんでそんなところにあるの、というような中途半端な場所に、その乙女の像は建っていた。
「石になった乙女」
作者はかの有名なアーティスト、レンジ ツカダ。この大学の卒業生だ。
教授は、スライドを次に送った。
スクリーンいっぱいに、その像の写真が映し出される。
白い石でできた少女。両手は胸の前で、なにかを握りしめるように固められている。そして、左手の手首には紙袋が下げられていた。
後ろ髪は左右に分けられ、細かい編み目が石の上に丁寧に刻まれている。フィッシュボーンだ。すごく繊細なその表現にうっとりとする生徒もいた。
その石像の顔は、泣いているのか、笑っているのかはわからない。ただ、なにかを言いそびれた瞬間だけが、永遠に保存されている。
教室のあちこちから、小さなどよめきが起きる。
「この作品は、不遇の芸術家レンジ ツカダの初期作品のひとつとされています。彼の数奇な人生は、ある女性との恋愛によって始まったとも言われているの。そのモデルが、この女性だったという説もある」
教授は感情を交えずに言った。
「彼はのちに、“未完成の感情の保存”をテーマに数多くの作品を残しましたが、その原点がこの像だと言われています。でも彼はこの作品に膨大な時間を割きすぎた。よほど執着していたのでしょう」
スライドが切り替わる。
像の台座のアップ。
そこには、小さな文字が刻まれている。
――まみっちょ
教室の後ろのほうで、誰かが笑った。
「変なあだ名」
「モデル、彼女だったのかな」
「石にしちゃうの、ロマンチックー」
私は、笑えなかった。
中途半端な場所に建っている、あの像。私はいつも、その前を通るとき、なぜか少しだけ息苦しくなる。理由はわからない。
ただ、通り過ぎるとき、ポケットのあたりが、少しだけ重くなる気がしていた。
教授が言う。
「面白いのは、この作品に関する一次資料がほとんど残っていないことです。制作動機も、モデルの身元も、すべて不明です。ただひとつ、彼の日記に、短い一文だけが残っています」
教授は、原稿を読み上げる。
「――あの日、彼女は、なにも言わなかった」
教室が静まり返る。
「私は、彼女の“言えなかった言葉”を、永遠に残すことにした。やっと、完成した」
その瞬間、私のポケットの中で、紙が、こすれる音がした。知らないはずの感触。でも、知っている感触。私は、おそるおそる手を入れる。折りたたまれた便箋。真っ白な封筒。差出人はない。震える指で開く。
中の文字は、私の筆跡だった。
『ツカダくんを不幸にしたのはわたし』
心臓が、止まる。
『だから私は、ここに残ることにした』
インクが、少しだけ滲んでいる。まるで、石になる直前に書かれたみたいに。
私は顔を上げる。
スクリーンの中の石の乙女が、まっすぐこちらを見ていた。泣いているのか、笑っているのか、それとも、私に何かを告げたいのか。
ただその視線の先に、制作者、レンジ ツカダの若かりし日の綺麗な姿があるような、気がした。
もしお気に召していただけたなら、こちらもぜひ!
