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[ 春が止まらない ]:シロクマ文芸部(花びらを)

─ あなたの春にも、届きますように ─

↑こちらのお題に参加してみました。
久しぶりのシロクマ文芸部で、ファンタジーなお話ができました。
大きな心で読んでいただけると幸いです😊♪


画像:ChatGPT


[ 春が止まらない ]


 花びらを、いっぱい吐き出した。
 直ぐに手に包んで、バッグに入れる。
 鼻のムズムズが、もう一発くることを知らせていたからだ。

「ハックション…」

 街の中だから、口と鼻を押さえて、なるべく小さくクシャミをする。
 手の中の花びらをバッグに入れて、

「ハァ〜」

 と、息を吐く。
 ため息はちゃんと、空気だけが出てくるのに、なぜか、あたしのクシャミは唾液や鼻水ではなく「花びら」が出てくる。
 鼻から花びらって、ダジャレか! と真面目にツッコミたいそんな気分。

 昨日の朝、目覚めた瞬間に出たクシャミが最初だった。
 目の前で桜の花びらが舞っていたから「あれ、また窓を開けっぱなしで寝てたのかあたし」と思って窓を見たけど、鍵もカーテンもちゃんと閉まってた。
 またクシャミが出て、また桜の花びらに包まれて気づく。
 クシャミで花びらが舞う──、と。
 これでは流石に大学には行けない。
 大学と言っても学生でも先生でもなく、庶務の職員。
 サボる理由が見つかって、喜んで休みをもらった。

 一日中、クシャミも花びらも止まらず散々だった。
 去年のボーナスで買ったルンバくんが大忙しで動き回っていたけれど、やがて力尽きた。
 おかげで部屋は、桜の花びらに埋もれてさぁ大変。
 明日は特別な日だから、さすがに出社しないといけない。
 花びらの対処法を考え、とりあえずクシャミを両手で覆い、花びらを大きめのトートバッグに入れるという練習を繰り返した。
 これでなんとかなるか、と、思い「明日はクシャミが出ませんように、出たとしても花びらは出ませんように」と祈りを込めて就寝した。

 普段からお祈りなんてしてこなかったのだから、にわかな神頼みなど通じず、寝起きで放ったクシャミで、朝から部屋に桜の花びらが舞った。
 その綺麗さに、もう、なんか楽しくなってきて、気分よく支度を整え、家を出た。

 昨日の練習の成果か、今の所、一片の花びらも漏らすことなくバッグに隠すことに成功している。
 とは言っても、歩きながらこの作業を繰り返すのも大変だ。
 自転車通勤じゃなくてよかった、と思いながらも、目の前には最大の難関の入り口、駅の改札が見える。
 電車の中でも、無事に過ごせるようここでもとりあえず祈っておく。

 今日は特別な日なので、いつもより何本も早い電車に乗る。
 それほど混んでなく、座れなかったけど、ドア横のスペースを確保できた。
 クシャミが出ても、ここなら、さほど影響はない。

「ハクション」

 小さくクシャミ、花びらを少し握ってバッグに入れる。
 完璧だ。
 と、勝ち誇っていると、ふと誰かの視線を感じた。
 女の子がこっちを見てる。
 なに、なんか気づいた?
 すると女の子は、

「お姉さん、ステキな香り」

 と、言った。
 ステキな香り!
 女の子の手をお母さんらしき人が軽く引き、女の子の視線もお母さんの方に向けられた。
 あたしは自分の袖や襟の匂いを嗅いでみた。
 うん、よく分からない。
 でも、ステキな香りなら、この症状も悪くないかもね。
 女の子にお礼をしなきゃと思ったけと、次の駅でお母さんと一緒に降りてしまった。

 なんとか大学に着く。
 よく考えたら、最大の難関はココだったといまさら気づいた。
 バッグを持ったまま勤務できるのか?
 と、考えながらトボトボと歩く。
 えーい、考えてもしょうがない、みんなにはちゃんと言おう。
 日々、個性的な学生や先生たちと交流している大学職員なら、少しのイレギュラーは受け入れてくれるだろう。
 いや、これは果たして少しのイレギュラーなのか?
 まぁ、最悪、手品かなんかだと思ってくれたらそれでいい。
 ドキドキしながら部署のみんなに報告すると、最初はポカンとしていたけど、直ぐに状況を受け入れてくれて、あたしの周りには、箒や塵取り、ゴミ箱が置かれていった。
 そんな中、よく面倒を見てくれる先輩が、

「あ、一緒に来て、その症状、めちゃ役立つよ!」

 と、手を引かれたので、慌ててバッグを掴み、先輩について行った。

 外に出ると、いつもは閑散としている事務局が入る本部棟前に、人垣ができていた。
 そう、今日は合格発表の日。
 だから、あたしも、いつもより早めに出勤したのだ。
 先輩が掲示板の前に立つ。

「はい、こっち持って」

 と、あたしは紙の端を持つ。
 先輩は紙を広げながら移動する。
 掲示板に、合格の受験番号が書かれた紙が貼り付けられた。
 人垣が、ザワつき、やがて歓声が上がる。
 ふと見ると、指をさして喜んでいる人の姿が見えた。
 受験票を両手に持ち、呆然としている女の子。
 その肩をつかみ、笑顔で揺らすお父さん。

 そんな風景を、ボーっと、眺めていたら、クシャミが出た。

「ハッ、クショーーーン!!」

 不意だったから、大きなクシャミになってしまった。
 両手が塞がっていたから、クシャミとともに大量の桜の花びらが宙を舞った。

 受験番号が張り出された掲示板の前。
 悲喜交々の人々。
 そこに舞い踊る、桜の花びら。
 あたしが作った風景。

 ちょっと幻想的な風景に、思わず見とれてしまった。
 
「あ──……。」

 あたしはなんとなく、誰かの想いに寄り添ってる気分になった。

 もう一度、派手にクシャミをする。
 桜の花びらが舞う。
 合格発表に集まった人々。
 喜びのはなむけ、ううん、応援のはなむけにもなってくれたらいいな。
 なんて思った。
 ふと、先輩の顔を見ると、イタズラっぽい笑顔を返してくれた。
 
 あたしはもう一度、思いっきりクシャミをした。
 たくさんの桜の花びらが舞う。
 いつまで続くか分からないヘンテコな症状だけど、とりあえず、今日だけこのままでいいかなーと思った。

「ハックションーーー!!!」

 掲示板の前は、ステキな春の香りに包まれた。


おしまい。

#シロクマ文芸部
#花びらを

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