犬の国へ会いに行く日|【Episode1】反抗期ビートル、まさかの大暴走
犬の国をテーマに活動して二十数年。
全国からワンコたちの家族が集まる会に、
夫と私は感謝と緊張を胸にビートルを走らせました。
……まさか、あんなスリリングな旅になるなんて。

10月11日。
夫と私は、ある会場に向かっていた。
そこは――私たちが二十年以上描き続けてきた「犬の国」の世界を愛する家族たちが集まる場所。
犬の国を舞台に書いた小説『ある日 犬の国から手紙が来て』は、
かつて少女漫画誌『ちゃお』で漫画化され、
長年、原作を提供してきた。
けれど、私の発病をきっかけに、
連載はいったんお休みとなり、今に至る。
そして今日。
山口、石川、福島……全国から、
Instagramで繋がった
犬の国で暮らすワンコたちの家族が集まる。
私たちは感謝とドキドキを胸に、
絵画やジオラマを車に積み込んだ。
「やっと会えるね」
そう言いながら、夫と私は車に乗り込む。
メールや手紙だけのやり取りだった人たちと、
ようやく直接会える。
嬉しすぎて、前の晩はほとんど眠れなかった。
幸いなことに、
出発の前日には車検から車が戻ってきた。
愛車のザ・ビートルは、まさに“反抗期”。
修理が間に合わなければ代車で行くしかなかったが、
その代車にはETCもカーナビもない。
カーナビがなければ、もう絶体絶命だった。
自動車屋さんが
前日に間に合わせてくれたことに、
感謝しかなかった。
(↓車検に至る経緯はこちらの記事で)
しかし、出発して間もなく――。
高速道路に入った瞬間、
車が「ガックン、ガックン」と揺れ始めた。
ギアがうまく切り替わらない。
スピードが出ない。
ふたりの顔から血の気が引く。
なんとか非常駐車帯に車を寄せ、
車屋さんへ電話すると、
あっさり「持って来てくれ」と言われた。
いやいや、今ここ高速ですよ?(笑)
しかも、会場には皆さんも向かっている。
私たちに引き返す選択肢はない。
「大丈夫なら、このまま東京へ向かいたいんです」
夫がそう告げると、
電話の向こうの声が答えた。
「多分、大丈夫だと思うんですが、今、担当が出てまして……しばらく待ってもらえますか」
待つ余裕なんて、ない。
夫は私の番号を伝え、
「今後は妻に連絡してください」
と言って、ハンドブレーキを下ろした。
車は震えるように、再び走り出した。
やがてやってきた東名高速の合流地点。
スピードが上げられなければ、
後続車が迫る。
しかも今日は連休初日。
“わ”ナンバーの浮かれドライバーたちが、
右から左からひゅんひゅん抜いていく。
額の汗をぬぐう夫の横顔を見ながら、
私の脳裏に「死」という不吉な文字がよぎった。
会話が途切れた車内。
窓ガラスが白く曇りはじめ、車内温度は上昇。
こんな肌寒い日に、
まさかクーラーをかけることになるなんて。
沈黙を破ったのは、夫だった。
「ちょっとコツがわかってきた」
どうやら――つま先だけでアクセルを細かく“チョンチョン”と踏むと、
ガッコンガッコンしながらも、高速ギアに切り替わるらしい。
その直後、車屋さんから再び電話。
しかし担当者ではなく、別の人がこう伝えてきた。
「多分、大丈夫だと言ってます」
……“多分”て。
心もとないにもほどがある。
と、強く抗議してみた。心の中で(笑)
やがて迎えた合流。
夫が発明した“つま先チョンチョン走法”で、
なんとか波に乗れた。
とはいえ、いつ何が起きてもおかしくない。
私たちは左端の定速運転車線をキープし、
いつでも端に寄せられるように慎重に進む。
私は万一に備え自動車保険カードを確かめ、
主催者に電話をかけた。
遅れることを伝えると、
「こちらは大丈夫ですので、どうか安全運転で」
と、優しい言葉をかけてくださった。
夫にそのことを伝えるが、
彼の耳に届いたかどうかはわからない。
表情には全く余裕がなく、
ただまっすぐ前方を見つめていた。
合流を越えたら終わり――そう思っていた私たちの考えは甘かった。
次なる試練は、料金所。
いったんスピードを落とし、再加速のときが、恐怖。
「ガッコン、ガッコン……」
車体が激しく縦に揺れ、
なかなか高ギアに入らない。
夫の華麗なアクセルワークにも、
もう限界がきたのか…。
後ろからは、プップーッ!と容赦ないクラクション。
ミラー越しに見ると
後続車の運転席の人の目が三角。
あきらかに怒ってる。
心臓が締めつけられた。
――もう、ふたりとも涙目だった。
そのとき、夫がぽつりと言った。
「……さっき、足がつった」
「え!? 大丈夫!?」と私。
「足がつってない、つってないぞ!って念じてたら治った」
……天才かもしれない。いや、天然か。
そんなやりとりで、
少しだけ張りつめていた空気がゆるんだ。
結局、会場には約束の1時間遅れで
――命からがら、たどり着いた。
あぁ、生きて着けた。
その安堵感は、今でも忘れられない。
でも、車内でするはずだった打ち合わせは
まったくできず、ノープランで会場へ。
とほほ。
次回予告。
突然のサプライズ演出!
なのに――私は動揺するばかり。
慣れてなくて、すみません。
嬉しいとか感動とか、
全部すっ飛んで、ただ「え? え? え?」状態。
……皆さん、本当にごめんなさい。
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