【応募作品】 ふるさとに立つと、私が私に戻っていく 伊藤洋子さん(虹色創作部)
帰省は、ただの移動じゃない
帰省ってね、ただの移動じゃないんです。
切符を手にして、電車やバスに乗る。
その行為自体はシンプルなのに、
心の奥の方で、何かがふわっとほどけていく。
そんな、特別な時間なんです。
「帰る」という言葉には、不思議なあたたかさがあります。
どこか遠くにいても、その言葉を口にするだけで、
胸の奥に小さな灯りがともるような感覚になる。

五感が目を覚ます瞬間
普段の慌ただしさから少し離れて、
ふるさとのやわらかな空気を胸いっぱいに吸い込むと、
身体の中に張りつめていた糸が、するするとほどけていきます。
手のひらをすくうと、ひやりと冷たく澄んだ水。
足元をわたる土の感触。
ふいに頬をなでていく、あの懐かしい風の匂い。
目で見て、耳で聴き、肌で感じ、鼻で嗅ぎ、舌で味わう。
五感がじんわりと目を覚まして、
「あぁ、帰ってきたんだな」って教えてくれるんです。

変わってしまった景色と、変わらない時間
昔よく遊んだ公園や、友達と笑いながら歩いた通学路。
あの頃は広く感じた道も、いま歩いてみると驚くほど短かったりして。
家や店が変わってしまって、少し寂しく感じることもあります。
でも、そこに流れている時間や、胸の奥にしまっていた記憶は、
変わらずにそっと呼びかけてくれるんです。
「ここから、あなたは始まったんだよ」
その声は、耳ではなく、心が聴く声。

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編集部から一言コメント
でも、そこに流れている時間や、胸の奥にしまっていた記憶は、
変わらずにそっと呼びかけてくれるんです。
「ここから、あなたは始まったんだよ」
その声は、耳ではなく、心が聴く声。
ずっと変わらない場所に帰る場所があるって、素敵なことだよなと思います。
転勤族だった幼少時代。「出身地はどこなの」と聞かれると「どこなんだろう」と思ったりしていました。でも、ある意味でいろんな場所が故郷とも言えるように思います。この場所ではあんな時間を過ごしたな、あの場所ではあんなことをしていたな、といろいろ思い出せる場所があるのも、素敵なことなんじゃないかなと、今では思ったりします。(馨)
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