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【AI小説】『Imlíne(イムリーネ)』 第0章 前日譚 停戦線の向こう

停戦線の向こうでは、また何かが壊れた。
こちら側の部屋では、誰も立ち上がらない。
壁一面の要約だけが明るくなって、西境という名前が消える前に刻印が光る。

七年、と誰かが言う。
長い、と別の誰かが重ねる。
地図は映さない。
詳細は今は不要だ、という文型が、いくつもの拠点で同じ間隔で繰り返される。

署名。
検証。
意味は追わない。

停戦線の向こうの煙は、一秒遅れてぼける。
血の色だけが、先に消える。
編集、という小さな字が、隅に残る。
フィルタか、編集か、どちらも同じ仕事のように見える。

監視室の背中が並ぶ。
誰の顔も映らない。
向こうの爆発は、こちらの明るさ調整より遅い。
停戦線は、線のように見える。
線の向こうだけが、毎日少しずつ薄くなる。

契約の部屋では、紙の匂いが新しい。
戦後、感受性、再び現場へ。
言葉はきれいに並べて、誰の写真も載せない。

「壊れた者を、戦場に戻せないから、なんですよね」

担当者が言う。
言い方は穏やか。
隣の欄には、教養、身体、再生、という並びだけがある。

もう一枚の紙には、戦争の話はしない、とだけ書いてある。
休むところ、とだけ書いてある。
第三の場所、とだけ書いてある。
読む人の名前は、欄に入れない。

霧の向こうで、白い箱が並び始める。
戦場でも病棟でもない、第三の場所、と案内文にだけ書いてある。
窓は大きい。
雲はまだ貼られていない。
畑の形だけが、均等すぎる距離で刻まれている。

クレーンの音が霧の中で消える。
消えたように聞こえる。
同じ音が、少し遅れてもう一度鳴る。
鳥の声は、まだ録音されていない。
枝だけが、等間隔に並んでいる。

入庫の通路では、番号だけが流れる。
名前は端末に留めない。
損傷、代替、修理、稼働。
枝、という区分が点滅する。
説明はされない。

技師は手袋の音だけ立てて、同じ歩幅で歩く。
歩幅が揃っている。
誰もそれを問題にしない。
壊れた単位は、静かに並べ替えられる。
並べ替えの音だけが、通路に残る。

夕方、共同室のフロービューが古い色で点く。
純粋種の生き残り、英雄、遠い戦争。
映像は暴力を一瞬だけ映して、すぐにぼける。
戦争は遠い箱庭みたいに見える。
同時に、部屋の消毒液の匂いとどこかで混ざる。

誰もいない椅子が二脚、画面の前に置かれたまま。
追悼端末は、ずっと稼働中と表示される。
来る人はいない。
来ない前提で、椅子の間隔まで整えられている。

記者らしい人が、マイクを下ろす。
「今日は定点フロービュー控えめにしておきますね」
と言う。
言い方は穏やか。
カメラは、停戦線の向こうを映さない。

夜になると、低い音が複数の床下で同時に鳴る。
配線か、同期か、聞こえない人がほとんどいる。
看護師どうしは首を振る。
医師は聞こえない顔をする。

音は止まらない。
止める担当も、向こう側にはいない。
ランプだけが、同じ色で点滅する。
点滅の間隔が、歩幅と同じ。

もう一つの白い部屋が、完成する。
天井の明るさが少しずつ上がる。
整えられた匂い。
透明な枠の据付位置。
左側だけ、布を置く位置が空いている。
右側だけ、硬い枠の穴が開いている。

「おはようございます」

声がする。
顔は見えない方向から。

「お名前は…」

答えは、まだどこにもない。
名前を聞く声だけが、同型の部屋に複製されていく。

停戦線の向こうでは、また何かが壊れている。
こちらでは、きれいな天井だけが先に光る。
壊れる音より、明るさの方が早い。
それだけが、今日の順番だった。


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『Imlíne(イムリーネ)』 | TALES 物語・小説


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