【劇評】ロロ新作公演『まれな人』|土佐有明
ロロ新作公演『まれな人』
脚本・演出
三浦直之(ロロ)
音楽
江本祐介
出演
亀島一徳(ロロ) 篠崎大悟(ロロ) 高野ゆらこ 長井健一 内田紅多 (人間横丁) 山田蒼士朗(人間横丁)
※本劇評はネタバレを一部含みます。
「個」の演劇から「関係」の演劇へ――。ここ最近のロロの作風の変化をそんな風に措定してみたいと思う。筆者がロロを観始めたのは第三回本公演『旅、旅旅』(2010年)以降だが、当時は登場人物が(主に異性に対する)「好きだ」という思いのたけを一方的に独白している印象があった。むろん、「好きだ」という心情の尊さや眩しさを作・演出の三浦直之は過剰なまでに慈しみ、それがロロの紋章として魅惑的な響きを帯びていたのは事実だ。『ボーイ・ミーツ・ガール』(2010年)、『LOVE02』(2012年)あたりがその代表例だろう。
関係への傾倒。その予兆はあった。今回、ロロは『まれな人の』公演前に作品のワンシーンを4篇、ポッドキャストで音声配信している。短いシークエンスは人間同士のコミュニケーションの面白さと難しさ(そして奥深さ)を伝えるものだ。例えば、直木賞作家の麦川(篠崎大悟)と担当編集者・郡内(高野ゆらこ)の電話越しの会話。郡内は打ち合わせの際に麦川にラリアットをかましてもいいかを尋ねる。唐突である。戸惑う麦川。どうしてラリアットなのか説明する郡内。
お互いに共通了解がとれておらず、会話がすれ違う様を描くあたりは、脚本家としての三浦直之の成長、いや、覚醒を感じさせる。三浦は高校演劇のフォーマットに則した「いつ高」シリーズを経ることで、ウェルメイドな会話劇を書くスキルを研ぎ澄ませてきたのだろう。あるいは、ドラマや映画の脚本を着実に手掛けてきたことも大きいのかもしれない。彼の脚本は明らかに精密さを増した。急速な進化と深化である。それは冒頭で述べたように、「個」で閉じない、「関係」に開かれた会話劇を書けるようになった、ということともイコールである。


先述の会話で郡内はラリアットにこだわっていたが、元ネタの『キン肉マン』に則して言うと、遂行すべきはラリアットではなくクロスボンバーである、ということが判明する。ふたりが同時にひとりにラリアットをかますのがクロスボンバーであり、それを成すにはもうひとり必要だという。そのために召喚されるのが麦川の中学時代の友人・図雲(亀島一徳)。図雲を探す過程で郡内は麦川の同級生・くま(内田紅太)に連絡を取る。郡内とくまのやりとりがまた絶妙だ。
くまの受け答えは、いつも少しずつ郡内が欲している答えとズレている。でも、くまははぐらしかしているわけではない。くまにはくまなりのテンポやトーンや言葉があり、それを投げているだけだ。ふわふわした発話も彼女なりのコミュニケーションの流儀なのだろう。それを誰も否定しないところが、またいい。肯定も否定もしないのが、とてもいい。
そして、図雲の消息について少しでも知りたい郡内はくまに誘われ、お互いそこまで興味があるわけでもない、プロ野球の2軍の試合を一緒に観る。2軍の試合、というのがまたぐっとくる設定だと思う。要するに、主役は試合の動向や選手の活躍ではない、ということだろう。あくまでもふたりで一緒に同じものを観る(=共有する)、ということが肝要なのだ。


同居しているヨネ餅(長井健一)と麦川のつかず離れずの関係もいい。ふたりの男性の対話は決して当意即妙ではなく、すれ違いやぎこちなさを含んでいるところにリアリティを感じる。中学時代の文化祭に図雲とフォーク・デュオを組んで出演したあけおめ(山田蒼士朗)との関係も同様だ。
三浦はおそらく、本作で緩やかなブラザーフッドを描きたかったのではないか。女性や同性愛者を排除するようなホモソーシャルでもなく、もちろんボーイズラブでもバディものでもない。その意味で、狙い通りというべきか、複数の男性同士の弱いつながりが胸を打つ作品となっていた。だが、だからこそ逆説的に、筆者には女性同士の友情以前のコミュニケーションが前景化して見えてきた。そう、先述した郡内とくまの対話のシーンである。


それにしても最近のロロは、演劇を観に行くことのハードルをなんとかして下げようと奮闘しているようで頼もしい。2011年には『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』のダイジェスト映像をYouTubeにアップしていたロロ。以降、公演のダイジェスト的な動画を頻繁に公開してきたし、『わたなべさんの夏休み』(2025年)では観客が稽古を見学したり打ち上げに参加できるチケットも用意した。
優秀な制作スタッフも含め、彼ら/彼女らはファンダムの重要性を知悉しているのだろう。また、公演が終わってしまえば作品を観られる機会が乏しかった、いわゆる「消えもの」であるところの演劇は、徐々にその様相を変えつつある。公演終了後に配信を行う劇団もずいぶん増えた。そうした潮流に早くから自覚的だったロロに、ようやく時代が追い付いたと言うべきかもしれない。



ロロ新作公演『まれな人』
日程:2025年9月25日(木)~10月1日(水)
会場:渋谷・ユーロライブ
※※配信視聴チケット発売中※※
10月10日 (金) 21:00 – 10月31日 (金) 23:59
筆者プロフィール
土佐有明(とさありあけ)。ライター。音楽評、書評、演劇評、映画評などを雑誌やWEBに寄稿。
単著『イカ天とバンドブーム論』が発売中。来年、日本のジャズのディスクガイドを上梓の予定。Xのアカウントは@ariaketosa
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