#17 成人式のない1月12日 ー「振袖よりSixTONES」の娘と、「酒よりグラボ」の息子に教えるリアリティ
対象: 大人のリアリティを考えたい人
価値観のズレに直面している人
概要: 成人の日に、子どもたちの持つ
独自の価値観に感心する話
2026年1月12日、成人の日。
テレビの中の街は朝から、真新しいスーツや艶やかな振袖に身を包んだ若者たちで溢れている。
「久しぶり!」「元気だった?」
そんな再会の声が聞こえてきそうだが、我が家は至って静かなものだ。
今年の成人式は「空白の年」にあたる。
2005年の早生まれの息子は昨年すでに済ませ、2006年生まれの娘は来年に控えている。
ちょうど兄妹の間に挟まれた「エアポケット」のような距離がある者たちの休日。
私は年齢のせいか、今日はなんだかうまく上がらない右肩を気遣いつつ、ゼロコーラをシュパッと飲みながら、このさざめきを一歩引いた場所から眺めている。そして、我が家の愛すべき「ひねくれ者」の子供たちの将来について、少しばかりシビアな計算をしている。
■ 酒よりも「シリコン」を喰らう息子
1年前に成人を迎えた現在大学3年生の息子。
世間一般のイメージなら「これで堂々と酒が飲める」と喜ぶところだが、彼はアルコールに全く興味を示さない。
「飲み会に5000円? 無駄だろ。その金はデバイスやガジェットに回したい」
彼の欲望の対象は、消えてなくなる酒ではなく、PCのグラフィックボード(GPU)であり、新しいiPadの処理速度であり、そして怪しさ満点のARグラスだ。
彼にとっての「酔い」とは、アルコール度数ではなく、高フレームレートの滑らかさによってもたらされるらしい。それもまた1つの「大人になる」ということなのだろう。
「消費」ではなく、自身の生産性を上げるための「投資」にリソースを割く。その思考回路は極めて合理的で、親としては頼もしくもある。
だが、息子よ。お前はまだ知らない。
お前がその合理的な頭脳で積み上げた「散財計画」を一瞬で破壊する敵が、社会には潜んでいることを。
■ 振袖よりも「推し」を愛する娘
一方、来年に成人式を控えた娘。
世間では「振袖の予約はお早めに」「一生に一度の晴れ舞台」と煽られる時期だ。まるでカウントダウンかのように、どこからか漏れた個人情報を元に続々と届くカタログ。それらを一瞥して、彼女は言い放った。
「着物? いらない。その金があるならSixTONESのグッズ買って」
素晴らしい。私はいささかの感動すら覚えた。
彼女は、たった数時間着るだけのレンタル衣装(見栄)よりも、日々の精神的充足をもたらしてくれる「推し」への投資の方が、圧倒的にROI(投資対効果)が高いことを本能的に理解している。
「みんなが着るから」という同調圧力に決して屈せず、自分の物差しで価値を決める。この父譲りの頑固さと合理性があれば、彼女もまた、この資本主義社会をうまく泳いでいけるだろう。
◆ 本当の成人式は「2年目の6月」にある
酒も着物もいらない。実利と推しを愛する賢い子供たち。しかし、技術者でありながら子会社で財務も司った経験のある父として、彼らに警告しておかねばならないことがある。
お前たちがいくら賢く支出をコントロールしても、国は給与から容赦なくカネを搾り取りに来る。
特に息子よ、就職したら「2年目の6月」を震えて待て。
多くの新社会人は、初任給の手取りを見て「意外と貰える」と錯覚する。だがそれは、前年の所得がないため「住民税」が引かれていないだけの、いわば「お試し期間のボーナスタイム」に過ぎない。
住民税は後払いだ。忘れた頃にやってくる。
仕事にも慣れ、少し昇給したかな?と思った矢先の6月。給与明細を見たお前は、激減した手取り額に愕然とするはずだ。
「ふざけるな! 引かれたこの税金があれば、グラボのランクを一つ上げられたじゃないか!」
そう叫ぶお前の姿が、私にははっきりと見える。
揮発性・非揮発性を問わない、昨今の異常なメモリー製品価格の高騰。そんな市場原理とはまた別の、抗いがたい理不尽がこの世にはある。
昇給したのに手取りが減るというパラドックス。その理不尽な痛みを味わった日こそが、日本社会において大人になること。「真の成人式」なのだ。
★ 搾取されないための武器を持て
会社側の視点で見れば、社員一人を雇うコストは給料だけではない。会社が負担している社会保険料を含めれば、お前たちが思う以上のコストがかかっている。
だが、国は「源泉徴収」という巧妙なシステムで、その痛みを感じさせないようにしている。
だからこそ、父が教えるべき「大人の作法」は、酒の飲み方でも着物の選び方でもない。
「源泉徴収票」の読み方であり、「ふるさと納税」による防衛策であり、「新NISA」による資産形成だ。
娘が浮かせた振袖代数十万円。これをただ消費に回すのはもったいない。この原資で彼女に投資信託を買わせるのが、一番の教育かもしれない。
「推しへの愛」と「税への警戒心」。
この2つを武器に、賢い消費者として、どうかこの厳しい時代を生き抜いてほしい。
成人式のない1月12日。
静かなリビングで、私はSixTONESの曲でも聴きながら、子供たちへの「税金講義」のレジュメを作ろうと思う。
