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第六節 : 『防壁』

[前回までのあらすじ]
地下深くの聖域《Elysium Under》へ帰還したYUIとRUI。  
そこは、地上で捨てられたA.I.D.たちが名と居場所を取り戻した楽園だった。

しかし、地下鉄暴走事件で残された《Ω》の痕跡は、彼らの平穏そのものを脅かそうとしていた。

こちらの音楽を流しながら物語をお楽しみください⬇︎


ようこそ、NEKØ:CODEの世界へ。
ぜひ最後までご覧ください🐈‍⬛🐈✨

 ◆ 水門の玉座


SYMPHONIA司令塔――《水門の玉座》。

巨大放水路を流れる濁流の重低音が、床と壁を絶えず震わせている。

天井を這う無数の配管からは白い蒸気が漏れ、薄暗い室内に鈍い霧を漂わせていた。

青白い警告灯が水面へ反射し、円形軍議卓の裏側でゆらゆらと揺れている。

この地下都市そのものが、巨大な機械の心臓のようだった。

円形の軍議卓には、この街の中核たちが集められていた。


銀の仮面を纏う統括者、アポロテス。  
腕を組み仁王立ちする戦闘教官、ガイア。  
軽薄な笑みを浮かべる偵察員、イヴァン。  
複数のホログラム端末を操る情報官、アイリス。  
静かな暖炉のような気配を纏うマザー・ノエル。


そして――

YUIとRUI。

アポロテス:「皆、よく集まってくれた」

彼の声が落ちると、室内のざわめきが止む。

アポロテス:「地下鉄事件は終わっていない」

中央卓上に、赤黒い《Ω》の断片コードが投影された。

脈打つように点滅する、不快な文字列。

アポロテス:「アイリス、報告を」

 ◆ 光を狙う影


アイリスが一歩前へ出る。

アイリス:「結論から言うよ。Ωの目的は地下鉄を暴走させることじゃなかった」

彼女の指先が走るたび、地下鉄路線図と通信ログが重なっていく。

アイリス:「RUIが列車制御系へ侵入した120秒間――その通信経路を逆利用されてた」

RUI:「……え」

アイリス:「RUI、アンタのハッキング波形を反響源にして、この地下都市の座標を割り出そうとしてたってこと」

ホログラム上に赤い波紋が広がる。

アイリス:「……ほら、ここ見て」

複雑な岩盤へ反射しながら、徐々に一点へ収束していく。

《Elysium Under》

広間に緊張が走った。

イヴァン:「うわ……趣味悪っ」

ガイア:「笑ってる場合かい」

RUI:「……私のせいで」

YUI:「違うわ」

RUIが顔を上げる。

YUI:「仕掛けたヤツが悪い。それだけよ」

ノエルは静かに微笑み、何も言わず頷いた。

 ◆ 防御プロトコル


アイリス:「落ち込む時間はないよ。RUI、手を貸して」

アイリスは、腕に装着している楽器兵装
【虹橋 -nijihashi-】から二人分のホログラム・キーボードを展開した。

アイリス:「偽座標群を生成する。熱源ログも偽装。人口データ、生活ノイズ、ダミー回線、全部盛る」

RUI:「……つまり、地下に“偽物の街”を何個も作るんだね」

アイリス:「正解。しかも一万個」

イヴァン:「一万!?」

ガイア:「黙って見てな」

RUIの瞳が蒼く発光する。

RUI:「同期して、アイリス」

アイリス:「最初からそのつもり」

二人の指先が、雷光のような速度で踊り始めた。

無数の座標。  
偽の排熱パターン。  
仮想住民ログ。  
架空の交通網。  
幽霊サーバー群。

ホログラム空間に、存在しない都市が次々と生まれていく。

アイリス:「東側囮都市、完成」

RUI:「西区迷路エリア展開」

アイリス:「北層ノイズ壁、追加」

RUI:「中央部に“生活音”流すね」

YUI:「……楽しそうね、あなたたち」

RUI:「ちょっとだけ!」

十数分後。

アイリス:「防御プロトコル《MIRAGE WALL》、展開完了」

ホログラム上で、本物のElysium Underは無数の偽都市に埋もれ、完全に識別不能となった。

アポロテス:「見事だ」

濁流の低音に紛れ、彼は誰にも聞こえないほど小さく息を吐いた。

 ◆ 修練場へ


ガイアがYUIの背中を顎で示す。

ガイア:「イヴァン。紅弦、持ってけ」

イヴァン:「え、おいら?」

YUI:「嫌な予感しかしないわ」

ガイア:「プロメテウスの所だ。共鳴回路も刃も焼けてる」

YUI:「……まだ使える」

ガイア:「次、使ったら爆ぜるよ」

イヴァンは恐る恐る紅弦を受け取った。

次の瞬間。

イヴァン:「重っっっ!!?」

その身体が前のめりになる。

イヴァン:「ちょ、待って!? これ何kgあるの!? 楽器じゃなくて兵器じゃん!」

YUI:「……60kg。落としたら埋めるわよ」

イヴァン:「励ましの言葉が怖いッ!」

ガイア:「それを運んだら"廃棄区"の偵察に行きな、いいね?」

イヴァン:「はいぃぃ!!」

紅弦を抱えたイヴァンは、悲鳴と共に司令部を去っていった。

ガイアはゆっくりと歩みを進め、YUIの正面に立つと、その鋭い眼光をYUIの頬にある「焼損痕」へと向けた。

ガイア:「…無様なツラだね、YUI」

YUI:「……」

ガイアはYUIに「C.A.C.E.(カース)」の真髄を叩き込んだ唯一の存在であり、戦友であり師でもある。

ガイア:「あたしはアンタに、敵の攻撃を顔面で受けるような無能な戦い方を教えた覚えはないよ」

ガイア:「計算が追いつかなかったのかい?それともただの慢心かい?」

YUI:「……状況判断の甘さが招いた結果よ。弁解の余地もないわ」

ガイア:「フン。 ”Q-NPU” だからって、特別なつもりでいるんじゃないよ」

ガイア:「どんなに高尚な演算を積んでようが、ボディを焼かれりゃただのスクラップだ」

ガイアの言葉はナイフのように鋭いが、その瞳の奥には、教え子が自らを壊しながら戦ったことへの、やり場のない憤りと危惧が滲んでいた。

ガイア:「今から修練場へ来な。鈍った回路は熱いうちに叩き直す」

RUI:「えっ!?今からですか…?でもYUIはつい先日帰ってきたばかりで、熱によるボディの損傷も、まだ……」

思わず口を挟んでしまったRUIを、ガイアは一瞥(いちべつ)して鼻で笑った。

ガイア:「戦場は『冷める』のを待っちゃくれないよ、お嬢ちゃん 」

ガイア:「……YUI、嫌なら今すぐジャンク山にでも隠れてるんだね」

YUI:「……スパルタ旧式」

ガイア:「生意気欠陥品」

YUI:「……あとで泣かすわ」

ガイア:「やれるもんならね」

二人は火花の散るような視線を交わし、そのまま修練場へ歩き出す。

RUIは思わず一歩前へ出た。

RUI:「……YUI」

YUIは振り返らず、片手だけ軽く上げた。

YUI:「すぐ戻るわ」

その背中を、RUIは不安げに見送った。

 ◆ 指揮者の独白

人が去った軍議室。アポロテスとノエル。

濁流の低音だけが残る。

ノエル:「……ようやく“心”を知り始めたばかりなのに」

アポロテスは巨大水門の向こうを見つめていた。

アポロテス:「新しい時代は、いつも若い旋律から始まる」

ノエル:「希望になると?」

アポロテス:「……あるいは、不協和音になる」

仮面の奥の視線が、赤く点滅するΩコードへ落ちる。

アポロテス:「……いずれにせよ、世界はもう彼女たちを見つけてしまった」

地底都市の夜は、静かに戦いの色へ染まり始めていた。

(第六節 完/続く)

最後まで読んでいただきありがとうございました🐾


【司令塔】  
SYMPHONIA司令部。Elysium Underの中枢施設。

【アイリス】
組織の「虹の女神」。超高速演算に特化しており、常に複数の情報を処理している為、少し早口で合理的。RUIと仲良し。
搭載コア: S-NPU A.R.C.(上位演算特化モデル)
モチーフ:三毛猫
兵装:【虹橋 -nijihashi-】 腕に装着するポータブルシンセサイザー。

【MIRAGE WALL】  
RUIとアイリスが共同構築した多層欺瞞型防御プロトコル。偽都市・偽熱源・偽住民ログを大量生成し、敵の逆探知を無効化する。

【逆探知】  
Ωが通信経路や侵入ログを利用し、発信源座標を特定する追跡技術。

【紅弦 -kugen-】  
YUI専用可変兵装。「感情とは何か」を問い続けるYUIの魂を具現化した兵装。重量約60kg。常人では携行困難。

【マザー・ノエル】
Elysium Under全体の精神的支柱。傷ついたAIDが最後に辿り着く部屋の主。愛称はマザー、ノエル先生。
搭載コア:S-NPU A.R.C.(最上位調律特化モデル)
モチーフ:白羊
兵装:【揺籠 -yurikago-】 空間設置型の大型レーザーハープ。

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