鞍馬寺「阿吽の狛虎」 皐月満月のウエサク祭へ
五月の満月、鞍馬のおまつりへ
昨年の春、帯状疱疹に罹りました。
身体(顔面)の痛みだけでなく、気持ちの面でもかなり参ってしまい、心身ともにうまく整わない日々が続いていました。
季節が初夏へ向かうころになって、少しずつ、
「外へ出て、気持ちを切り替えたい」そう思うようになりました。
そんな折に知ったのが、京都・鞍馬寺の五月満月祭、いわゆるウエサク祭。
我が家には、茶トラのみっちゃんと黒猫のきーちゃんがおり、私ともども、皐月生まれ。
※みっちゃんは四月生まれらしいですが、生後の詳細不明につき、公的書類上は五月生まれとしています。
「五月の満月の夜に行われる祭り」
その響きに、心惹かれるものがありました。
鞍馬寺のウエサク祭
ウエサク祭は、毎年五月の満月の夜に行われる祭礼です。
鞍馬寺では、五月の満月の夜、すべてのものの「目覚め」と「平安」を祈る行事として伝えられています。公式サイトでも、五月の満月の夜に清水を供える秘儀が行われてきたことが紹介されています。
「ウエサク(Wesak)」という言葉は、サンスクリット語の「ヴァイシャーカ」、つまり5月に由来するとされています。 東南アジアなど南伝仏教の国々では、お釈迦さまの誕生・悟り・入滅が、5月の満月の夜だったと伝えられており、その日を祝う大切な行事として受け継がれてきました。 鞍馬寺でも、五月の満月に清水を供える秘儀が行われてきたとされ、戦後に「ウエサクさい」として広く知られるようになったそうです。
神獣の虎を擁する鞍馬山という磁場
鞍馬寺は、京都市左京区の鞍馬山にある、鞍馬弘教の総本山です。その歴史は古く、宝亀元年、鑑禎上人が毘沙門天を祀ったことに始まると伝えられています。現在の鞍馬寺公式サイトでは、鞍馬山には古神道・陰陽道・修験道などの山岳宗教の要素も含まれていると説明されています。
鞍馬寺を訪れると、仏教寺院でありながら、山そのものが祈りの場であるような空気を感じます。

本殿金堂、金剛床、奥の院へ続く山道、鞍馬山霊宝殿。
霊宝殿には、国宝の毘沙門天三尊像なども収蔵されています。
本殿金堂前にたたずむのは、ネコ科最大の動物である「虎」。狛犬ではなく、鞍馬寺ではご本尊の一柱である毘沙門天のお使いである一対の虎、「阿吽(あうん)の虎」が迎えてくれます。
毘沙門天の出現が「寅の月、寅の日、寅の刻」、虎は神獣とされています。
口を開いた「阿」と、口を閉じた「吽」。
「阿吽」は宇宙のすべてを包含するものとされています。
満月の夜にこの虎たちと向き合う。それだけでも行く価値がありそうです。
平安の帝が愛した黒猫レポート
鞍馬山といえば、天狗や牛若丸の伝説が残る霊山でもあります。
山岳信仰の気配が濃く残る場であり、虎を神獣とする寺。
そこには、そこはかとなく、おそれ多い何かの存在を感じます。
調べていくうちに、帝の御代とも重なる何かが見えてきました。鞍馬寺では、寛平年間、東寺の峯延が鞍馬寺の別当に任じられたとされます。平安朝の寛平年間とは、まさに宇多天皇の時代です。宇多天皇による別当任命は、鞍馬寺が「一地方の寺」から「国家を護る重要な霊山」へとステップアップするきっかけとなった重要な出来事でもあります。
宇多天皇は、現存文献上で「日本最古級の愛猫レポート」を残した人物。『寛平御記(かんぴょうぎょき)』(『宇多天皇御記』)には、寛平元年(889年)2月6日、黒猫についての記述が残されています。この日記の原本は現在残されておらず、諸書に引用された逸文として伝わります。

国立国会図書館デジタルコレクション所収
六日。朕閑時述猫消息曰。驪猫一隻。大宰少弐源精秩満来朝所献於先帝。
愛其毛色之不類。余猫猫皆浅黒色也。此独深黒如墨。為其形容悪似韓盧。長尺有五寸高六寸許。其屈也。小如秬粒。其伸也。長如張弓。眼精晶熒如針芒之乱眩。耳鋒直竪如匙上之不揺。其伏臥時。団円不見足尾。宛如掘中之玄壁。其行歩時。寂莫不聞音声。恰如雲上黒竜。性好道行暗合五禽。常低頭尾著地。而曲聳背脊高二尺許。毛色悦沢盖由是乎。亦能捕夜鼠捷於他猫。
先帝愛玩数日之後賜之于朕。朕撫養五年于今。毎日給之以乳粥。豈啻取材能翹捷。誠因先帝所賜。雖微物殊有情於懐育耳。仍曰。汝含陰陽之気備支竅之形。心有必寧知我乎。猫乃歎息挙首仰睨吾顔。似咽心盈臆口不能言。
黒猫の毛色や姿、ふるまい、与えていた食べものまでが細やかに記されています。千年以上前の人が、一匹の猫をどれほど大切に見つめ、愛おしんでいたのかが、今も伝わってきます。
叡電で出会う、旅を見守る猫
鞍馬寺へ向かう道中にも、印象的な猫がいます。
叡山電鉄「茶山・京都芸術大学駅」のホームに設置されている、現代美術家・ヤノベケンジ氏の作品《SHIP’S CAT(Tower)》です。
旅を見守る猫。これから山へ入っていく旅人を、そっと送り出してくれているようにも見えます。
2026年のウエサク祭、そして吉田猫
今年の鞍馬寺の五月満月祭、ウエサク祭は、5月31日(日)午後7時より、
鞍馬寺本殿前で奉修予定と案内されています。
鞍馬寺公式サイトのお知らせにも掲載されています。
鞍馬寺の本尊は「尊天」です。鞍馬寺では、尊天を宇宙的な生命力・光明・活動力を象徴する存在として信仰しています。だからこそ、ウエサク祭も一般的な年中行事というより、鞍馬寺独自の山岳信仰や宇宙観が色濃く表れた祭礼といえそうです。
また、本日までですが、『吉田猫 in 鞍馬』展も開催されているとのこと。
会場は、京都市左京区鞍馬・鞍馬寺 修養道場です。
吉田猫は、京都の陶芸家・吉田一也氏が手掛ける、神社仏閣の装飾や西陣織から着想を得た神秘的で愛らしい猫の陶芸作品です。
五月の満月。
鞍馬の虎。
旅を見守る猫《SHIP’S CAT》。
そして、吉田猫。
不思議なのですが、強力で濃厚なネコ科のたたずまいが感じられます。
それは偶然なのか、それとも鞍馬山に呼ばれたのか。
次回は、昨年の満月の夜、ウエサク祭当日のことを綴ります。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ、応援よろしくお願い申し上げます🐈 「ねこバル」にて飼い主のお客様たちへご提供している猫おみやに還元させていただきます。