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レモンの香りと黄色い花に、溶けていく不安


あなたの次の旅が、
もっと鮮やかに輝きますように...。


思いがけない出会いと、
ふとした瞬間に心が解き放たれた、
忘れられない旅の記憶を辿ってみました。




………今日はもう、
行かないほうがいいんじゃないかな………。


出発の朝…。


窓を抜ける日差しは、
いつもより少しだけ白く、
冷たい気がしました。


テーブルの、
コーヒーから上る湯気を、
ぼんやり眺めていた……


……その時、
空気を裂くように震えた、
スマートフォン。


画面に浮かび上がったのは、


取引先からの、
仕事のトラブル連絡。


…楽しみにしていた、
旅の始まり……。


それなのに…。
頭の奥が、冷たい鉛のような重さに、
ずっしりと覆われてしまいます…。


家のカギを手にしたまま、
玄関で立ち尽くす私…。


そんな私を救ってくれたのは、
家族でした。


…大丈夫だよ。海風にあたれば、
きっと気分も変わるから♪


その言葉にすがるように、
私たちは予定通りに出発しました。


……でも……………。


胸のざわめきは、
車のエンジン音に混じって、
…しつこく…わたしに…
付きまとうばかりでした……。



⑴ 緊張をじんわり溶かす、常連客の温かさ


海岸沿いを進んで
辿り着いたのは、
海を一望する高台の
美味しそうな、
磯の香りが漂う海鮮処。


ドアを開けると、
活気のある店員さんの声が、
響き渡ってきます。


窓際の席に案内されると、
窓いっぱいに陽の光を浴びて
キラキラと輝く海…。


遠くに聞こえる波の音と、
店内の活気。


ここにいるだけで、
少しだけ、胸のつかえが
下りるような気がしました…。


運ばれてきた海鮮丼は、
ふわりと香る温かな酢飯と、
器からこぼれそうなほど
艶やかな魚介が、たまらなく
食欲をそそります。


美味しいね♪と、
家族と顔をほころばせていた、
まさにその時です。



……だから、食器を下げるのが
先だって言ってるでしょ!!!



厨房の奥から、
突然響いた鋭い声。


声の主は、
お店を切り盛りしている、
母と息子とおぼしき、
2人の店員さんでした。


テーブルを整える手順。
お客さんを案内する順番。


忙しさがピークに達して、
些細なボタンのかけ違いから、
つい感情がこぼれ落ちて
しまったのでしょう…。



こっちを先に片付けてって言ったでしょ!!
分かってるよ!今やってるじゃないか!!



……お客としては、
どうにも声をかけづらい、
ヒリヒリとした空気が
店内に流れます……。


せっかくの美味しい料理も、
味がよくわからなくなって
しまいそうになっていた……
その時でした。


……小上がり席で1人、
刺身をつついていた
恰幅のいい中年の男性………。


………おそらく昔からの
常連さんなんでしょう………。


箸を置いて
ゆっくり立ち上がると、
のんびりとした声で
口を開きました。


ごちそうさま!
いやぁ、今日も
とびきり美味しかったよ。


ピタリと止まる言い争い。
男性は、少しだけ目を細めて
ニッと笑います。



……それにしても、
今日の試合はずいぶん白熱してるねぇ。
でもお母さん、あんまり熱くなると、
冷たい刺身まで煮付けになっちゃうからさ。
続きはじゃんけんでどう?


一瞬ポカン、と口を開けた
親子の顔が、次の瞬間、
ふふっ。と吹き出すような、
穏やかな笑顔に変わりました。


……もう、しょうがないねえ。
すいませんねぇ、お騒がせして……。


張りつめた空気が、
春の雪どけのように、
じんわり溶けていきます。


どこにでもある家族の風景と、
やさしく見守る常連客の温かさ。


その温かさに触れたとき、
私の中のくすぶっていた
仕事の不安も、なぜか、
小さなものに思えてきたんです。


美味しいご飯に
すっかり満足した私たちは、
さらに足をのばして、
熱海の港へ向かいます。


⑵ 潮風とカモメが誘う、レモンの香る庭


熱海港からは、
「イル・ド・バカンスプレミア」という、
美しい高速船に乗り込みます。


目指すのは、
-相模湾に浮かぶ真珠-
といわれる、初島。


展望デッキに立つと、
視界をさえぎるものは、
何ひとつありません。


心地よい潮風の中、
船を追いかけるように、
真っ白なカモメたちが、
舞い降りては、
青空へはばたいていきます。


……すごい歓迎ぶりだね!……。


家族もまるで子どものように、
目を輝かせて喜んでいます♪


カモメたちの元気な姿と、
しぶきをあげて
進む船の心地よい揺れに、
身を任せていると、


陸に置いてきたはずの現実が、
どこか遠い世界のことのように
思えてきました。


………初島へ入ると、
そこはまるで別世界のような
ゆったりした空間………………。

舗装された道路の先へ続く、
土の香りがする小道を抜けると、
…ふっと木々が途切れて……。


次の瞬間、
秘密の扉が開いたように、
美しい庭があらわれたんです。

所々に植えられた
レモンの木からは、
爽やかな柑橘の香り…。


一面に広がる
青々とした芝生には、
白いハンモックが点々として、
風にゆったり揺れています…。


ハンモックに寝転がって
目を閉じると、
やさしく風に揺れる葉音。
その向こうには、
かすかな海の気配がしました。


……なんか…時間がゆっくり流れてるね……。


隣のハンモックから
聞こえる家族の声も、
いつもより少しだけ
トーンが落ちて、
深くリラックスして
いるのがわかります。


こんなにも何もしない時間は、
いつぶりだったでしょうか…。


…ここにあるのは、
陽の光を浴びて
葉を揺らす木々と、
風の温もりと土の匂い…。


とても贅沢で、穏やかな時間……。


忘れかけていた、
安らぎのひとときを
身体いっぱいに味わいながら、
ただ静かな余韻に
身を任せていました。


……やがて……、
太陽がほんの少し傾きかけた頃、
私たちは、初島を後にします。


そっと迎えてくれた、
真っ白な初島灯台。
遠ざかる潮風の中、
その柔らかなシルエットが
見えなくなるまで温かく
見送ってくれているようでした…。


⑶ 蒼い静寂を抜けて…黄色の光が包む砂浜へ


初島を後にして
向かったのは、
海岸線の先に佇む、
龍宮窟です。


細くて急な階段を下りていくと、
スッと、周りの気温が下がって、
ひんやりとした空気が肌を包みます。


そこは、長い年月をかけて
波が削り出した、天然の洞窟。

天窓のようにぽっかりと
開いた天井からは、
抜けるような青空……。


目の前には、
静かに引いては寄せる、
白く輝く波しぶき……。


岩の隙間の先には、
水平線が、かすかな
光を帯びていました。


さっきまでの初島の、
陽気な雰囲気とはまた違う、
その静寂な空間……。


途方もない時間が
作り上げたこの場所に、
包まれていると、
なぜか、焦りや悩みも、
ちっぽけな砂粒のように
思えてきたんです。


光の届く場所が限られた、
青く神秘的な、龍宮窟。


そこから地上へ続く
階段を上りきったとき、
目の前に広がったのは、
明るくまぶしい陽の光……。


そして、どこまでも続く……
白い砂浜と、さざ波の
やさしい音でした。


清々しい景色に
目を奪われながら、
少し休もうと、
ぽつんと置かれていた
小さなベンチに
腰を下ろします。


乾いた風が頬をなでた、
その時でした。


…鞄の中で、スマートフォンの震える音……
画面を見ると、朝と同じ取引先の担当者……。


一瞬、身体がこわばり、
朝の重苦しい記憶が胸を塞ぎます。
横に座る家族も心配そうに
こちらを見ています。
深く息を吸い込み、
震える指で、恐る恐る電話に。



………もしもし………。


あ、お休み中に本当に申し訳ありません!



電話口から聞こえてきたのは、
焦った声ではなく、
どこかホッとしたような、
弾むような声でした。


……今朝の件ですが、
こちらの協力先の支援で、
無事に解決しました!


…え……本当ですか?…よかった………!


それは、予想もしてなかった朗報でした。


何度もお礼を言い、
電話を切った後、
大きく息を吐き出し、
胸をなでおろします…。


朝からずっと……、
頭の奥で凝り固まっていた
重苦しい不安が、波音とともに、
静かに消えていくのを感じました。


……よかったね……。
微笑む家族にうなずき返し、
スマートフォンを鞄にしまおうと、
ふと、後ろを振り返ったときです。


目に飛び込んできたのは、
花弁をピンと反り返らせた、
明るく黄色い花々。


……それは、満開に咲き誇る、
………カタバミの花……………。


静かなビーチに映える、
ひとつひとつの花びらの鮮やかさ、
光を弾くようなまぶしさ。


風に揺れるその姿は、
まるで今日1日の
不安な道のりをねぎらい、
…よく頑張ったね…。と、
笑顔を向けてくれているかのような、
不思議な温かさがありました。


後から知ったことですが、
カタバミの花言葉には、


…前向きな未来……


という願いが込められているそうです。


逃げ出したいような
トラブルに対しても。
目の前の人に対しても。


そして自分自身の感情に対しても。


不器用ながらも、
向き合い続けた心に、
その黄色い花々は、
静かにエールを送ってくれて
いたのかもしれません。


重たい心をほどく、小さな風の通り道


…もし……、あなたが今……、


日々の生活に、
息苦しさを感じていたり、
トラブルに心がすり減って
しまっているのだとしたら。


まずは “風が吹き抜ける方” へと、
足を向けてみてください。


多少の不安や葛藤は、
そのまま鞄に詰め込んで、
とりあえず玄関のドアを、
思い切って開けてみるのも、
悪くないと思うんです。


ふと、立ち寄ったお店で交わされる、
些細な会話に耳を傾けてみる。


名前も知らない小さな道を歩いてみる。


そして、
ただ海辺のベンチに腰を下ろして、
寄せては返す波の音だけを聞いてみる……。


見知らぬ土地の風や、
思いがけず触れた人の温もり。
自然の豊かな景色に、
ただ静かに身を委ねてみたとき。


抱えていたはずの
重たい荷物は、
いつの間にか輪郭を失って、
すっと、空気へ溶けていくように
軽くなっているものです。


その先で待っている景色が、
あなたの心に寄りそう “答え” を、
そっと手のひらに
乗せてくれるはずですから♪



ここまで読んでいただいて、
本当にありがとうございました。


この旅だけでなく、
素敵なフォロワー皆さま方の、
出会いと物語、そこには、
また違う旅の情景が広がっています。
ぜひ、こちらの扉も開けてみてくださいね♪



きのうち まみさん
ポタージュスープの立ち上る湯気のように、
強ばった心がほどけていく。
世代を超えて巡る、温もりのエッセイです。


VOID_404さん
ため息をつく夜、その背中を強く温かく励まし、
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コニシ木の子さん
ひとつの言葉が居場所になり、
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素晴らしい物語です。


ゆうさん
完璧でなくてもいい。
自分自身への優しい肯定が、
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そこで心がふわりとほどけた時、
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ふみさん
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大切さを教えてくださいます。


ランタン親父さん
エッセイ、オリジナル楽曲、空想散歩の映像。
この3つがひとつの作品として輝く、
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ゆらさん
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Plumeriaさん
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その素晴らしさを教えてくださいます。


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