「そこまで求めてないんだけどな」と言われた日。
開業して5年くらいの頃、顧問先のA社長に、丁寧に資料をまとめて説明したことがあります。
「このままだと労基署に指摘されるリスクがあるので、就業規則をこう見直しましょう」
自分では、A社長の会社のことを考え抜いた提案のつもりでした。ところが返ってきたのは、こんな一言でした。
「いや・・・そこまで求めてないんだけどな」
一瞬、頭が真っ白になりました。何が悪かったのか分からない。むしろ「これだけ丁寧に準備したのに」という気持ちの方が先に立ってしまう。
「相手のためを思って」提案したはずなのに、相手にはまったく違う形で届いている。相手の立場に立って考えていたつもりが、実は自分の考える「相手にとっての正解」を押し付けていただけだった。そんな経験です。
「なぜですか?」が、対話を閉じてしまう
こういうすれ違いが起きたとき、私たちがつい使ってしまうのが「詰問型」の問いです。
「なぜ、そこまで求めていないんですか?」
「なぜ、そう感じられたんですか?」
一見、相手の意見を聞こうとしているように見えます。でも実際には、この問いの奥には「あなたの反応はおかしい」という前提が透けて見えてしまいます。
詰問型の問いを受けた相手は、自分の考えを説明するというより、自分を正当化する準備を始めます。対話ではなく、防御が始まってしまうのです。
相手の立場に立つというのは、相手の反応を「正す」ためのものではありません。相手がなぜそう感じたのか、その背景そのものに興味を持つことから始まります。
ここを間違えると、どれだけ丁寧な言葉を使っても、対話は閉じたままになってしまいます。
問いを、こう置き換えてみる
同じ場面でも、問いの形を変えるだけで、相手が話し始める扉が開くことがあります。
【これまでの問い】 「なぜそこまで求めていないんですか?」
【置き換える問い】 「今回の件で、社長が本当に気にされていたのはどんな点でしたか?」
▶実務応用(顧問先との打ち合わせ):
労務リスクを説明しても反応が薄い社長に対し、リスクの話を続ける前に、社長自身が今どこに一番エネルギーを割きたいのかを尋ねてみる。すると「実は資金繰りの方が先に気になっている」など、本当の優先順位が見えてくることがあります。
【これまでの問い】 「それ、前にも説明しましたよね?」
【置き換える問い】 「今回、伝わりにくかった部分はどこだったと思いますか?
▶実務応用(部下・スタッフとの業務整理):
何度説明しても同じミスを繰り返すスタッフに対して、「なぜ覚えていないのか」を問うのではなく、伝わらなかった箇所を一緒に探る形にする。相手が「実はあの手順の意味が分かっていなかった」と話し始めることがあります。
【これまでの問い】 「もっと早く言ってくれれば良かったのに」
【置き換える問い】 「言い出しにくかった理由は、何かありましたか?」
▶実務応用(顧問先との打ち合わせ):
問題を後出しで相談されたとき、責める前にこの問いを挟む。「実は前の社労士に相談したら怒られたことがあって・・・」など、相手固有の事情が見えてくることがあります。
相手の立場に立つとは、答えを想像することではなく、問いを相手に返すこと。
今日の問い
今日誰かと話がかみ合わなかったら、責める前にこう聞いてみませんか?
「その背景には、どんな事情がありますか?」
内省で終わらせず、ぜひ今日、目の前の誰かに実際に投げかけてみてください。
明日も、こんな「言い換えの問い」をひとつ置いていきます。よければフォローして、また覗きに来てください。
質問力実践ラボ、はじめています
今回のような「問いの置き換え」を、もっと実務に落とし込んで練習できる場所を用意しています。顧問先や部下との対話で立ち止まったとき、その場で使える問いを一緒に磨いていくメンバーシップです。
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今日も一日元気にいきましょう!
