見出し画像

ブラキオサウルスはブラキオサウルスじゃなかった?│ギラファティタンの姿を借りた有名恐竜の真実

はじめに

「ブラキオサウルスの頭ってなんであんなに出っ張ってるの?」

きっかけは息子のそんな質問でした。子供は純粋で着眼点が鋭いです。
張り切って調べ始めたところ、本題に行く前に驚きの事実に行き当りました。

私達がイメージするブラキオサウルスは、実はブラキオサウルスではなかったのかもしれません。
何を言っているのか分からないかもしれませんが、解説していきたいと思います。



第1章:一般的なブラキオサウルスのイメージ

前脚が長く、腰から肩にかけて斜めにそびえる背中、長い首、そして頭の出っ張り。映画「ジュラシックシリーズ」などの作品でも描かれたブラキオサウルスは、誰もが知っている恐竜の代名詞的な存在の一つでしょう。最近見た映画「クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記」の中で、風間くんがブラキオサウルスのことを「気品のある佇まい」と表現していましたが、言い得て妙だなと思いました。
(ちなみに私のアイコン画像のモデルもブラキオサウルスです。)

しかし、多くの人が持っているであろうブラキオサウルスのそのイメージは、実は別の恐竜のものかもしれません。 その恐竜はギラファティタンと言います。


第2章:アメリカ産ブラキオとアフリカ産ブラキオの関係

ブラキオサウルスは1903年にアメリカ・コロラド州で化石の一部が初めて発見され、Brachiosaurus altithorax(ブラキオサウルス・アルティトラクス)と命名されました。

アメリカ産ブラキオの骨格復元図。
超有名な恐竜の割に、発見されている化石は意外と少ない。

その後、1914年にアフリカのタンザニアで、非常に保存状態の良い竜脚類の化石が発見されました。それはブラキオサウルス属の一種と考えられ、Brachiosaurus brancai(ブラキオサウルス・ブランカイ)と命名されました。

アフリカ産ブラキオ(現ギラファティタン)の骨格化石標本(ベルリン自然史博物館)

アメリカ産のブラキオサウルスは断片的な化石しかなかったのに対し、アフリカ産はほぼ全身の保存状態の良い骨格が揃っていました。そのためアメリカ産ブラキオサウルスの復元にはアフリカ産の標本が参考としてよく用いられました
これが現在私たちがイメージするスリムで肩の位置が高いブラキオサウルス復元像のベースとなっています。

しかも、このアフリカ産ブラキオサウルスの標本は、その美しさと保存状態の良さから、展示・図鑑・映像作品などでも多用されました。その結果、アメリカ産ブラキオサウルスの復元には、アフリカ産のブラキオサウルスの特徴が色濃く反映され、学術分野だけでなく一般社会にも広まっていくことなりました。


第3章:アフリカ産ブラキオの分類見直し─ギラファティタン誕生

しかし、1980年代からアメリカ産とアフリカ産のブラキオサウルスの特徴の違いが指摘され始め、2009年の詳細な解析が決定打となり、アフリカ産のものはブラキオサウルス属とは異なる独立した属と見なされることになりました。その結果、アフリカ産ブラキオサウルスのBrachiosaurus brancai(ブラキオサウルス・ブランカイ)は、 Giraffatitan brancai(ギラファティタン・ブランカイ)へと再分類・改名されることになりました。


これは人間に例えると、同じ親(属)から産まれたよく似た兄弟(種)だと思われていたものが、実は祖父母(科)は共通だが親(属)は違う「いとこ」ぐらいの関係だった、という感じになります。

またブラキオサウルスとギラファティタンの関係は、アフリカゾウとアジアゾウの関係に似ています。両者は同じ「ゾウ科」に属し、外見も似ていますが、よく見ると体格・頭骨の構造・耳の大きさなど、様々な部分で違いがあります。そのためアジアゾウとアフリカゾウはそれぞれ別の「属」に分類されています。


また、ブラキオサウルスの化石は断片的なものに限られてはいるものの、近年の研究でブラキオサウルスとギラファティタンの違いついて明らかになってきていることもあります。

  • 脚:ギラファの方がブラキオより後脚に対して前脚が長い。また、ブラキオの方が脚が太く、ギラファは細長い。

  • 腰〜背中:ギラファの方が背中の傾斜が強く、ブラキオのほうが傾斜が緩い。

  • 胴体:ギラファよりブラキオの方が胴が太く長い。

  • 尻尾:ギラファよりブラキオの方が尾が長い。

  • 全体的な印象:ブラキオはガッシリとした体格で横に長く、ギラファはスリムな体型で縦に長い(キリン的な体型)。

以下に簡単な比較図を作成しました。パっと見はよく似ていますが、よく見るとプロポーションが異なります。
皆さんのブラキオサウルスのイメージはどちらでしょうか?ギラファティタンの方が近いと感じる方が多いのではないでしょうか?

※本比較図は異なる出典の復元図を並べて作成したものです。(記事末のクレジット参照)両者は異なる作者・異なる手法で描かれており、骨格要素や姿勢の表現、肉付けの厚みなどに差異があるため、厳密な比較には限界があります。両者の体型の大まかな違いを示す参考図としてご覧ください。

このように学術的にはブラキオサウルスとギラファティタンは違うものとして見直されつつあるにも関わらず、一般的な図鑑や映像作品、グッズなどのブラキオサウルスは、全体のプロポーションはほぼギラファティタンに的に描かれている場合が多いと思います。

これは長年にわたってギラファティタンをブラキオサウルス復元のモデルにせざるを得なかった歴史的経緯や、学術的には誤りと分かっていながらも、本当のブラキオサウルスがはっきりと分からない以上、いざビジュアルを描こうとすると確実性が高いギラファティタンに寄せざるをえない、といった事情によるものと考えられます。


第4章:頭の出っ張りもギラフィティタンがモデル

「盛り上がった頭部」というブラキオサウルスのアイコン的なイメージもまた、ギラファティタンを参考に復元されたものです。
ブラキオサウルスは頭部についても断片的な化石が見つかっているのみで、その限られた手がかりから、ギラファティタンよりも若干頭頂部の盛り上がりが小さく復元されています。
(竜脚類の頭骨はとても脆いため、保存状態が良い化石が発見されるのは非常に稀です。)

ところが2024年の10月、アメリカで新たにブラキオサウルスのほぼ完全な頭骨化石が発見されたとのニュースがありました。まだ正式な論文発表はなく、詳細は待たなければなりませんが、これが本当にブラキオサウルスのものであれば初の完全な頭骨標本ということになります。
https://www.instagram.com/p/DBM7acoPgLB/

公開されている写真を見る限り、頭頂部は現在のブラキオサウルスの復元のようなはっきりとしたドーム形状ではなく、かなり控え目な形状に見えます。今後ブラキオサウルスの頭の形は大きく見直されることになるかもしれません。


おわりに:ブラキオサウルスの未来

恐竜の復元はその多くが断片的な化石から導き出された推測に基づいています。ギラファティタンのように多くの情報を与えてくれる全身の骨格が見つかるのはまさに奇跡です。そのため一見よく似たブラキオサウルスの復元の手がかりとして使われてきたとしても無理はありません。

今後研究が進むにつれて、図鑑などではブラキオサウルスは正しい復元に書き換えられ、現在我々がブラキオサウルスとしてイメージしている恐竜は、いつの日か「ギラファティタン」と正しく呼び直されていくのかもしれません。
私達のイメージするブラキオサウルスがブラキオサウルスでなくなるのは寂しい気もしますが、まだまだ先の話でしょう。

さて次回の記事では、当初の息子からの質問の本題であるブラキオサウルス、もといギラファティタンの頭の出っ張りについて考えてみようと思います。


お願い

面白いと思っていただけたら、スキやフォローでそっと教えてもらえると嬉しいです😊
スキを押すと、その記事をあとで読み返しやすくなります。フォローすると、新しい記事がマイページやトップに表示され、見つけやすくなります 。
スキやフォローは他の人には見えないのでご安心ください。
気軽なひと言コメントでも大歓迎です。


ブラキオサウルス後編です👇️

名前やイメージの入れ替わり現象は、以下の記事の「トウモロコシ」にも通じるところがあるかもしれません👇️

メディアが知名度やイメージに与える影響についてモササウルスとの共通点が感じられます👇️

・記事見出し画像:
生成AIによる

・ブラキオサウルスの復元図:
Brachiosaurus Composite Skeletal.svg by Slate Weasel, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

・ギラファティタンの骨格標本写真:
Museum für Naturkunde (36556352434).jpg by Shadowgate, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0

・ギラファティタンとブラキオサウルスの比較図:
1. Giraffatitan brancai Skeletal.png by Gunnar Bivens, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0
2. FIGURE 7. Skeletal reconstruction of Brachiosaurus altithorax by Mike Taylor, https://www.miketaylor.org.uk/dino/brachio/extras.html?utm_source=chatgpt.com#gsc.tab=0, 科学記事での使用許諾あり
 改変内容:1と2から復元図をトリミング、縮尺を合わせて並べて表示

いいなと思ったら応援しよう!