第16回牧水・短歌甲子園の歌
今年も宮崎の牧水短歌甲子園に来ました。台風でフェリーが欠航して危ないところだった…
吉田は特に関係者でもOBでもなんでもないのですが、毎年現地まで行ってウォッチャーしています。
例年通り、配布されてる対戦歌一覧から、これはと思った歌を何首から引きました。
⚪︎8日・一次リーグ
先をゆくゴンドラへ手を振り返し時々晴の「時々」は今
第一試合、岡山朝日。題詠『時』のなかでは読みこみが複層的で一番良かったです。ゴンドラの連続性と、天気の時間軸を瞬間的に重ねることで(手を振り返す)シーンの一回性を切り取ってみせる。下句の表記そのものは推敲のバリエーションありそう。
ランドルト環の隙間を見る時の目で君のこと見つめられ
第二試合、尚学館。ランドルト環ではなく、その「隙間」であるというところが眼目で、そこを掘り下げて行った味方の評も良かった。尚学館は質問に対する応答も含め、チームの連携がきっちりできている印象でした。
いま笑う時じゃないよと言う君の口元すでに春の三日月
第二試合、星野高校。星野は毎年歌がエキサイティングで良い。黒田さんの歌への援護射撃としては、シチュエーションの共感性も勿論あるけれども、結句の飛躍をもっと押し出しても良かったかも。
きみの声聞いたひと時 帰る空マカロンみたくぱっと色づく
第三試合、宮崎北。宮崎北は、お互いの歌をちゃんと読み合ってる感じがして良かったです。しかしこの試合は海城のディベートが強かった。自チームの良さを活かすなら、語感としてマカロンの選択をもっとPRする方向もあるかも。
ドライバーの方へおねがい 見つからないように時間を運んでください
第三試合。海城高校。海城はチーム全体の火力が高いけど、中でも下谷さんの詰め方が的確で良かった。俵さんのフレーズに徹してみては?という提言は、レベルの高いオーダーを引き出してみせたという意味で作者の功績だと思う。下谷さんは「踊」の歌も良かった。
したいことリストは時効 1、君と水族館にワニを見に行く
第四試合、仙台高校。仙台は披講、評ともにアピールプレーが出来てる。笹さんが嬉しがるのは良いチーム。関係が時間によって変化している、という読ませ方が良かった。宮崎商業の提示したワニの必然性に対して、下句の音感をちゃんと説明したところとか、攻守ともにいいラリーを見られた。
急ぐ背を見送るだけの放課後に時計の針を指で止めたい
第四試合、宮崎商業。この歌も、シチュエーションの共感性だけでなくて、四句目までと結句の身体性が変容しているところに注目したい。前田さんはディベートでもチーム全体のフォローしていてよかったです。
朝霧に鈴の音響くお社で踊る私を神木は見る
第六試合、宮崎大宮。宮崎大宮は作品のバランスが良い。題詠「踊」は比喩表現として使う選手が多い中、今西さんの歌は実際に自分の踊りに引き付けて詠んでいるところが目を引いた。結句で視点が入れ替わるところも神事らしくてテクニックが効いています。
踊り字のように誰かに添いたくて「いしいも〻え」と名前を告げる
第七試合、光陵高校。この海城対光陵が初日のベストバウト。お互いの質問と応答が歌の良さを引き出していく、理想的な試合運びでした。石井さんの歌は、歌合で自分が披講することで良さを最大限発揮できるタイプ。会場で聞けてよかった。
集合写真あなた以外を消してゆく。これこそ僕の恋のやり方
第九試合、宮崎西。宮崎西と名古屋、ディベートの攻勢が強い2校。各々のスタンスがぶつかり合って白熱していました。負けちゃったけど宮崎西の方が3人の役割分担ができてたかな。作中の感情の強さについて指摘された白石さんの「本望でございます。」はカッコいい返しでした。
こわい恋 破れてるのに溶けてるのにまだ掬えちゃう金魚みたいな
第九試合、名古屋高校。題詠「恋」の負荷がいい感じに機能した結果。初句で大上段で構えてハードル上げていったところを、しかも直喩で締める。難しいところを堂々やり切っていたのが、美学を感じてとても良かったです。ディベートで踏ん張っていくスタンスもカッコよかった。
雨上がり道から恋慕溢れ出す水面に映る君を見るたび
第十二試合、日向高校。敗退してしまったけれど、仙台の猛攻を頑張って凌いでいました。大口さんも褒めてたけど、相手への質問も良かった。田原さんの歌は題詠「恋」から敢えて熟語にしたところに注目したい。三句目「溢れ出す」を二句目に掛かる読み筋と、四句目に掛かる読み筋を分けた上で説明できたら良かったかも。
全12試合、お疲れ様でした。決勝トーナメントの様子はまた明日に。→更新しました!
⚪︎9日・決勝トーナメント
ラムネ氏も彼氏もいない安吾忌のボトルキャップにゆれるビー玉
準決勝第一試合、尚学館。気合の入った題詠。名古屋からは要素の多さを言及されていたけど、作り込みと積極性を買いたい。笹さんから安吾忌はラムネ的にはオフシーズンでは?って指摘もあったけど、これも説明次第ではポジティブに捉えられると思う。
ばぁば作ポテサラサンド頬張ってチャッピーだけが安心じゃない
準決勝第二試合、仙台高校。初日にも「他人事の恋しか知らない チャッピーと恋の定義を語る丑三つ」(宮崎西・杉田芽依)って歌があったけど、一年でここまで普及したんだなって興味深い。どちらも身体の無い他者として扱われている。「だけ」の限定が効果的。
理科越しの世界は光で満ちていて私ホモ・サピエンスになるね
光陵高校。決勝用作品では一番良かったと思う一首。個人の学問への興味から出発して、ホモ・サピエンスという学名に捨象されることへの肯定感へ繋がる流れがすばらしい。
汝いた傘投げ捨てよいま我の巨き外套に閉ぢこめられよ
名古屋高校は男子三人チーム。題詠「恋」ではなく自由題なのに、決勝で敢えて三首とも恋の歌をぶつけてくる気合いが素晴らしかった。どの歌もやりたいことがちゃんと成功している。冨田さんの歌もあえて文語旧仮名でやりました、って矜持を言語化されていてよかった。俵さんの「古い文体に引っ張られて古い考えになってはいけない」(意訳)は金言。

⚪︎講評でしゃべったことなど
二日目の全試合終了後、授賞式の前に井口さん、廣野さんと登壇して少し喋る機会をいただきました。当日お話ししたことを簡単にまとめておきます。
まずはテーマ、題を踏まえて作者の意図を汲み取る、チームプレイとして、その良さをアピールして、押しだしていくことが大事で、みなさん素晴らしいやりとりをされていたとおもいます。
個人的にはその上でもう一歩先、読者にとっての歌の景や解釈を想像して掬い取ることを目指してみてほしい。もちろんまずは作者、自分自身や仲間のイメージが大事なんだけど、そこから踏み込んで、相手チームや審査員、会場の読解力を想像して、信じることができれば、もっと豊かなやり取りができるのではないかと思います。
これはとてもむずかしいんだけど、歌会や歌合をやっていると、作者と読者の読みが噛み合う奇跡みたいな瞬間が時々ある。そういう瞬間を今後もこの大会で見てみたいと思います。
今後の皆様のご健詠と、大会のますます発展をお祈り申し上げます。
選手の皆様、審査員の皆様、運営の皆様、お疲れ様でした。あと、みなとのみなさんと今年も歌会できてよかったです。
昨夜は題詠「恋」で歌会をし、トップ評で恋マスターになりました。恋マスターとは。
— Дая@『フェイルセーフ』『光と私語』 (@nanka_daya) August 8, 2026
和菓子屋の恋人がいて、和菓子屋で恋人の売ってる恋みくじ
今年の井口さんの記事
https://note.com/ugetsunasuharu/n/n2c55dbe08170%0A
⚪︎去年までの記録
⚪︎広告欄
普段は短歌を作っています。
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