ミミ編 第3話:ベッドサイドで、クールな彼女が「考えたくない夜」を丸ごと任せてしまう。

バーに入った瞬間、
ミミは柔らかな照明と軽快な音に包まれた。

個室風の席は窓際にあり、
夜景がガラス越しに広がっている。

拓はミミを奥のソファに案内し、
自分は対面に座った。

「ワインでいいですか? 軽い赤を」
ミミは小さく頷いた。
グラスがテーブルに置かれる音が、
静かな空間に響く。

ワインを一口含むと、
渋みが舌に広がり、
胸の奥を温かくした。

拓はグラスを軽く掲げ、
微笑んだ。
「今日の夜景に」
ミミはグラスを合わせ、目を伏せた。

「今日の色合い……忘れられないです」
声が少し震えた。
拓は静かに頷いた。

「僕もです。ミミさんと一緒に見られて、
いつもより深く感じました」
ミミはグラスをテーブルに置き、
視線を窓の外に移した。
夜景がぼんやりと揺れている。

拓の視線が、ミミの横顔を優しく捉える。
ミミはそれを感じて、肩を少し縮めた。
拓はグラスを置いて、ゆっくりと言った。
「ミミさん、今日の夜景……
どう描きたいですか?」

ミミは少し間を置いて、答えた。
「……まだ、わからないんです。
青と紫のグラデーションを、
どう重ねればいいのか……」
拓は静かに身を乗り出した。

「僕もわからないんですけど……
ミミさんが描くなら、
きっとその色は、
優しく包み込むようなものになると思います」
ミミの胸が、また少し重くなった。
拓の言葉が、静かに心の奥に届く。

この人……本当にわかってくれる。
ミミはグラスを手に取り、もう一口飲んだ。
ワインの温かさが、頰に上る。

バーでの会話は、
ワインの温かさと音楽に溶けながら続いた。
ミミはグラスを傾け、
今日の夜景の色合いを思い浮かべた。

拓は静かに聞き、時折微笑む。
ミミの頰はワインのせいか、
それとも別のせいか、少し赤らんでいる。

ミミはグラスをテーブルに置き、
窓の外に目を向けた。
夜景がぼんやりと揺れている。
ワインの温かさが体に残り、
胸のざわつきが少しずつ静まっていく。
でも、どこかでまだ、
何かが足りないような気がした。

拓は静かにグラスを回しながら、
ミミを見た。
「もう遅いですね」
声は優しく、でも少し名残惜しげだった。

ミミは小さく頷いた。
「……そうですね。帰ります」
言葉が出た瞬間、
胸の奥に小さな痛みが走った。

このまま帰ったら、
今日の色合いがまた遠くに感じてしまう。
でも、もう十分すぎるほど、刺激をもらった。
これ以上は、
冷静でいられなくなるかもしれない。

拓は立ち上がり、
コートをミミに手渡した。
「駅まで送ります」

ミミは拒否する言葉を探したが、
出てこなかった。
「……ありがとう」

二人はバーから出た。
外は冷たい風が吹き、
ミミはコートの襟を立てた。

拓はミミの横に並び、ゆっくり歩き始めた。
駅までの道は、静かだった。
時折、拓の肩がミミの肩に軽く触れる。
ミミはそれを意識して、
視線を地面に落とした。
胸のざわつきが、再び少し強くなる。

駅の入り口が見えてきた。
ミミはバッグを開け、SDカードを探した。
「……ない」
ミミは立ち止まった。
「今日の写真……全部入ってるのに」
拓はすぐに反応した。
「バーに落としたかも。戻りましょう」

二人はバーへ引き返そうとすると突然、
雨が降り始めた。
コートの肩が濡れ、冷たさが体に染み込む。
胸のざわつきが、強くなる。
このまま帰ったら、
今日の色合いが消えてしまう。

店員に聞くと、
「忘れものは、ホテルロビーで
確認してください」 と言われた。
二人はホテルロビーへ向かったが、
突然の雨で避難してきた客で
ごった返していた。

スタッフは忙しそうに、
「今は対応できません。あと1時間程度後に…」 と取り合ってくれない。
ミミは唇を噛んだ。
「データが……」
拓は静かにミミの肩に手を置いた。

「このままでは冷えて体調を崩します。
僕の部屋がこのホテルにあります。
一旦乾かしながら待ちましょう」

ミミは雨に濡れた髪を指で払い、
胸のざわつきを感じた。
このまま帰ったら、冷えるし、データも……
ミミは小さく頷いた。
「……少しだけなら」

二人はエレベーターに乗り、部屋へ向かった。
部屋に入ると、窓から夜景が広がっていた。
照明は落とされ、
柔らかな光だけが二人を照らす。

拓はタオルを渡し、
ミミのコートを受け取り部屋の隅に掛けた。
拓は「座って少し待っててください」と言い、備え付けのコーナーへ向かった。
ミミはタオルで髪を拭きながら、
ソファに腰を下ろした。

ミミは濡れた髪を指で梳きながら、
窓の外を見た。
雨がガラスを叩く音が、静かな部屋に響く。
胸のざわつきが、まだ収まらない。
今日の色合いが、頭の中に残っている。
でも、それ以上に、
拓の視線と声が残っていた。
拓は温かいお茶を二つ持って戻ってきた。

「これで少し温まってください」
カップをミミの前に置き、
自分もソファに座った。
距離は、肩が触れそうなほど近い。
ミミはカップを両手で包み、湯気を眺めた。
温かさが、手から体に広がっていく。

拓は静かに言った。
「今日の夜景……本当に忘れられないですね」
ミミはカップを口に運び、ひとくち含んだ。
「……はい」
声が、少し震えた。

拓はミミの横顔を見ながら、
ゆっくりと言った。
「ミミさんの目で見た色合いが、
僕の目で見たものよりずっと深かった」
ミミはカップをテーブルに置き、
拓の目を見た。
この人……本当にわかってくれる。
乾きが、溶けていく。

拓はミミの髪を、指先でそっと梳いた。
濡れた髪を、優しく乾かすように。
耳たぶの近くを、軽く撫でるように。
びっくりしたけど、嫌じゃなかった。

ミミの体が、わずかに震えた。
拓は低く、耳元で囁いた。
「まだ冷えてますね……温めましょうか?」
ミミは目を伏せ、息を止めた。
耳たぶに触れる指先が、ゆっくりと円を描く。
触れるか触れないかの距離で、焦らすように。

ミミの息が、少し乱れた。
「ん……」
小さな吐息が漏れる。
拓は髪を優しく梳きながら、
首筋に指を滑らせた。

円を描くように、
ゆっくりと近づけるけど触れない。
ミミの体温が上がる。
耳たぶに息を吹きかけると、
ミミの体がびくんと震えた。
「はぁ……そこ……」
ミミの声が、かすかに震える。

拓は焦らず、
髪を指で梳きながら首筋を優しく撫でた。
ミミの肌は熱くなり、汗ばむ。
拓は肩に手を置き、背中を軽く撫で下ろした。
ミミの体がびくびくと震え、吐息が漏れる。
「気持ちいい……」
ミミは恥ずかしがりながらも、
拓の胸に顔を寄せた。

拓は低音で優しく囁く。
「いいよ。全部、俺に預けて」
ミミは目を閉じ、拓の胸に顔を埋めた。
体が熱く、息が乱れている。
部屋は二人の息遣いだけで満ち、
土曜の夜は溶け合っていた。

初めての夜は、
まだ始まったばかりだった。

——続きは、あなたの想像に任せるよ。

(ミミ編 第3話 終わり)

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