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俺の靴下が片方ないっ!!【第18話】地底人と靴下

口切から明かされる、地底の現状。
ついに語られる、百束の靴下が必要とされた理由とは――。



「地底人!?」


突然出てきた言葉に、思わず眉をひそめてしまう。


何を言ってるんだ?


もしかして……俺を騙そうとでもしているのだろうか。


「ええ。馴染みがないかもしれないけれど」


「馴染みがあってたまるか!」


反射的に漏れた言葉にムッとする口切。


「こっちのセリフよ!」



まずいな――


ん?


いや、地底って最近絵本で読んだな。


「えーっと、なんだったかな……」


刺々しい空気をなんとかしようと、思い出した単語を冗談交じりで口に出す。


「あ、もしかして――エナトスって呼ばれてたりする?」


「は?!」


目を白黒とさせて固まる口切だったが、今度は訝しむような眼に変わった。


「……何故知っているのかしら。こちらの世間一般には認知されてないハズよ?」



「……えぇ?」


正解してしまった。


つまりあの本に描いてあったことは……


いや、そんな馬鹿な。まだ証拠も何も無い。


「ちょっと、答えなさいよ。何で知ってるの?」


ぺしぺしとテーブルを軽く叩く口切。催促が飛んでくる。


「……絵本で読んだ」


「絵本!?」


「あぁ」


腕を組み背もたれに寄りかかると、目を瞑ってしまった。


「地上への持ち込みは禁止されているはず。いや、そもそも地上に持ち出されたからと言って、読めやしない」


考えている事が、すべて漏れている。


「日本語で書いてあったけど」


「なによそれ!じゃあ誰かが翻訳したって言うの?」


顔を上げ、キーッと怒り始めた。忙しいやつだ。


「めぐるちゃん、どうどう」


いつの間にか傍に来ていた店長さんが、口切をなだめる。


「……すみません、取り乱しました」


うんうんと頷き、店長さんが口を開く。


「誰かが翻訳したか、地上に来ているエナトスが書いてしまったか。でしょうね〜」


口切の様子からすると一大事のようだが、店長さんはいつも通りだ。


「ちなみに百束くん、その本はどちらで読まれたんですか?」


「小春が小学校で、友達から借りてきて……」


「友達……ですか。また今度、小春ちゃんにお話を聞いてみないといけませんね」


「はぁ」


「地底の法規に引っかかっているかもしれませんし」


「えっ!?」


「地底の監獄に収監される地上人なんて初めてじゃないですか?なごみさん!」


にやりと笑いわざとらしくこちらを見る。


「やめなさい」


「はいっ」


「……そもそもね、めぐるちゃん。地上じゃこの程度は話題にもならないと思う」


「話題にならない……?」


店長さんの糸目がこちらを向く。


「――百束くんはその絵本の話を、信じた?」


「全然」


ほらね、と言わんばかりに視線が口切へと戻る。


「……じゃあお話の続き、ね。めぐるちゃんはカッカしないように」


ニコリと笑うと、店長さんはテーブルを離れていってしまった。



「……悪かったわね。で、その絵本に大樹って出てきた?」


頭をひねり、読んだ内容を思い出す。


「大きな木……テリ、テリコス?」


「テリコプロトス、ね。ああもう、本当になんなのよその本。ムカつく」


「俺にもわからんって」


「まぁいいわ。――地底では、今まさにテリコプロトスに問題が起きているの」


……枯れかけてますってか?


その樹が枯れた時、世界も滅ぶとかなんとか。


「問題って?」


「枯れかけてるの」






――絶句。




「……本当に?」


「こんなことは、エナトス史上初だった」



歯噛みする口切。



――演技には見えない。



「ああ、ヌン神……」


――ヌン神?それがエナトスの神様?


「こほん……そこで私達は大樹を元に戻すべく、調査に踏み切ったの」



「そうしたら」


「そうしたら?」



「――何もわからなかったわ」


「はぁ」


「『ピストス』と呼ばれる、地底におけるエネルギー資源。――ずっと、大樹から得ることで生活をしていたから」


「文字通り、死活問題になるのか」


深く頷く口切。


「私達は、少ない手がかりを追って地上へ上がってきたのよ」



「なるほど……それで、俺の靴下にどういう因果があるんだ?」



「……あなたの靴下から、ピストスが検出されたの。ふけ……不本意だけど」


「本当になんで?」


ごそごそと鞄から何かを取り出す口切。


そっとテーブルに置かれたのは、手のひらサイズのキレイな四角錐。頂点近くに眼がついている。


「ピラミッド?……クララが以前見せてくれた雑誌に、似たようなイラストがあったような」


「プロヴィデンスの眼、って呼ばれてるんでしょ?地底内にはそっくりの生物がいるのよ」


「これはその……何?」


「生物をモチーフに改造した、昔の採掘用機械だそうよ」


口切がピラミッドの頂点を押しこむと、何やら全体が青白く光り始めた。


やがて眼の部分に集まった光が直線となり、テーブルへと突き刺さる!



「……なに?」


「テーブルの下」


ちょいちょいと下を指さす口切。テーブルの下を覗くと――



光は俺の左足へと伸びていた。


「うわ!なにこれ!」


足を動かしても青白いレーザーがついてくる。


「分かりやすく言えばピストス探知機ね」


「じゃあ、今こっちの足に光が当たってるのは――」


「左足からピストスが出てるってこと」



「……なんで?」



「こっちが聞きたいわよ」


徐々に光を失うピラミッドをしまいこみ、コーヒーカップを傾ける口切。



情報の洪水。頭が痛くなってきた。


でも。


――それでも聞かないといけないことがある。


「じゃあ、本題なんだけど……なんで強奪するような真似を?」


「それは……」


「最初から話し合ってたら、協力したのに」



眼を泳がせていたが、観念したように口を開く。


「ラフタラ。つまりあなたたち地上人のことが嫌いだったの」


「……悪かったわね」



――やっぱりというべきか。そんな気はしていた。


「嫌いな理由とか……聞いてもいい?」


「靴下なんていう蒸れるばかりで不衛生なものを好んで身に着けるっていうのがまず1つ――いえ、この話は今必要ないわね」


おい。


「とにかく。現状、テリコプロトスとあなたからしかピストスが採取できないの」


「靴下以外にやり方はないのか?」


「あるにはあるわよ?私達のために、研究材料として地底へ来てくれれば――」


「却下!」


地底人のモルモットにされるってことだよな?恐ろしすぎる。


「拉致しましょうって提案したんだけど、なごみさんに却下されちゃって」


ありがとう店長さん――まともな人でよかった!



「それで?今後、靴下は提供してくれるのかしら?」


「条件次第だ」


「なによ?……1つくらいなら聞いてあげるけど」


「俺の許可無く靴下を持ち去ったりしないでくれ。あと、渡した分の靴下は支給してくれ」


「1つって言ったんだけど?――まぁいいわ、それで使命を果たせるなら」


使命、ねぇ。


「……ちなみに、絵本には『木が枯れたら地球が滅ぶ』って書いてあったけど?」


「エナトスの伝承と同じね。あなたも滅びたくなかったら、ちゃんと協力しないとね」


貼り付けたような笑顔。


世迷言だと思いたいが、冗談で言っているわけでもなさそうだ。


「わかった、これからよろしくな」



「……案外あっさり承諾するわね。そもそも地底人なんて言って、すぐ信用しちゃうの?」


「信じるしかないだろ。……いや、疑ってるけど」


とりあえず飲み込んでおく方が、円滑に進みそうだし。


「どっちよ。ま、いいけど」


「それじゃあ、あらためて――」


握手をしようと手を出す。


「……しないわよ?」


悲しいなぁ、と思いながら手を引っ込める。


「それよりも――今日の分の靴下、置いてって?」


「早速かよ!」


慈悲もない。




ジロジロと見られながら靴下を脱ぐのが恥ずかしい。


「あんまり見つめないでもらえると助かる……」


「はぁ?!見つめてなんかないわよ!」


言いながら顔をそらす口切。やっぱり見てたんじゃないか。



「ほら、脱いだぞ」


「ありがと」


そういってトングと袋を構える口切。


「そんなに汚物扱いしなくてもよくない?」


「汚物は汚物よ」


俺の靴下をつまみ、袋へシュート。


「でも、あなたも災難よね。あんな物好きの変態につきまとわれて」


「ん?誰のことだ?」


「あの青水ってラフタラ。あなたの靴下を嗅いで興奮してるんでしょ?」



「なぜそれを!?――お前やっぱりストーカーみたいなことを」


「た、たまたまよ!たまたま!聞こえてきちゃったのよね〜」


白々しいな!


……でも、青水のおかげで俺の容疑は晴れたのか?


だから変態呼ばわりも無くなったのか。


「頼むからあんなやつに靴下取られないでよね。下手したら地球が滅んじゃうんだから」


「めぐるちゃん、そろそろいいかしら?」


店長さんがニュッと姿をあらわす。


「なごみさん、ありがとうございました。協力を取り付けることに成功しました」


姿勢を正した口切が、報告口調でそう答える。


「そう、よかった。……百束くんもありがとう。一緒に地球を守りましょうね〜」


地球を守る、か。そう言われるとなんだか不思議な気分だ。


「……やっぱり店長さんもエナトス、なんですか?」



「あ、馬鹿!なごみさんは――」


「いいんですよ〜」


口をふさがれた口切がムームーと抗議しているが、店長さんはおかまいなしだ。


「ではあらためて。私は染色なごみ。めぐるちゃんと同じ、エナトスです」


「地球を守るため、地上に拠点を立てた第一人者なんですよ〜?」


「そうだったんですね」


「です。……さて、早速ですが靴下を頂戴しますね?」


靴下の入った袋を、口切からそっと受け取る店長さん。


「これからこの靴下を地底へと転送するんです。――百束くんさえよければ、ご覧になりますか?」


「なごみさん!?」


口切から暗い視線を感じるが、店長さんが良いと言っている以上、強く出れないようだ。


「お願いします」


せっかくだし、自分の靴下がどうなってしまうのか……見届けよう。



案内されてカウンターの中へ入ると、店長さんが何やらスイッチを押したらしい。


ニュインという小さな機械音とともに、喫茶店に似合わない、無機質な階段があらわれた。


――地下室への階段。


なるほど。ここを降りていたから、店長さんがカウンターへ沈んでいくように見えたのか。


「こちらです〜」


後を追って緩やかな螺旋階段を降りていくと、教室1つ分程度の、割と広い部屋にたどり着いた。


パチッ――と明かりがつくと、おびただしい数のコードやモニターが部屋中に設置されている。


……冷蔵庫やベッドなどの家具が設置されているところを見るに、寝泊まりもできるようだ。


――だが、何より目を引くのは、部屋の片隅に鎮座している大きな機械。


「あれは……?」


「目ざといですね〜。アレが百束くんの靴下を地底へと転送する、自慢の装置なんです」



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