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俺の靴下が片方ないっ!!【第19話】転送機と靴下

口切と店長さんは地底人だった。
一応の約束を取り付け、靴下を提供することになったが……?

喫茶店の地下で待っていた、謎の転送機とは――。



転送機に近づいていく店長さん。


排熱ファンとクーラーが出す、大きな音。


絶えず動き続ける、各モニターの文字列。


「どうしました?」


「いや、なんでも」


入口で立ち止まっていた俺を不思議そうに一瞥したあと、再び転送機の元へと歩き始めた。


「ほら、早く行きなさいよ」


「おう」


背後から口切に急かされ、早歩きで店長さんの元へと進んでいく。



「フローマちゃん、おはよう」


店長さんが機械に向かって話しかけると――



『前方にラフタラを確認』


どこからともなく声が聞こえた。


すぐ後ろにいた口切に話しかける。


「しゃべったぞ。音声アシスタントかなにか?」


「しゃべるくらい地上のヘボAIだってできるでしょ?」


「そうだけどさ」


「はぁ……この子はエナトス産の自立型AIよ。地上のソレとは比べ物にならないんだから」


「どのへんが?」


「学習して自分で考えるし、笑ったり怒ったりもするわ」


「……マジ?」


『はじめまして。ここで転送作業の担当をしています、フローマと申します』


ばっと振り返るが、どこに顔を向ければいいのかも分からない。


ひとまず転送機の上の方を見ながら――


「どうも……その、百束睦季です……」



丁寧な言葉と驚くほど流暢な喋りに、つい頭を下げて挨拶してしまった。


『そうだろうと思っていました。どうぞよろしく』


「よろしくお願いします……?」


『挨拶がしっかりできて好印象ですね、モモツカ』


「どうも……」


AIに第一印象を判断される日が来るとは。



「さ。自己紹介も済んだところで、今日も靴下を送っちゃいましょうね〜」


店長さんが転送機の天板に靴下入りの袋を置いた。


コンソールを軽く叩いてから、そっと離れる。


「フローマちゃん、おねが〜い」


『かしこまりました。転送シークエンス、スタート』


フローマの音声とともに靴下が小さい光に包まれ、機械の中で浮かび上がり始めた。



『――5秒前。4、3、2、1』



『GO』



どこからともなく吹いた、生暖かい風。


まばゆい光が収まると――



靴下は跡形もなく消えていた。



『転送完了しました』


「ありがと〜フローマちゃん」


くるりとこちらを向いた店長さん。


「どうだった?」


「え〜っと……」


まさか感想を求められるとは思っていなかった。


「めっちゃすごかったです」


地底の技術力が。


理屈がさっぱり分からない。


「喜んでもらえて何より。ね〜フローマちゃん?」


『はい。これからの転送作業のモチベーションが向上しました』



……適当にした返事だったが、喜んでもらえたようだ。



「なごみさん。用も済みましたし、早く店に戻りましょう」


「そうね。ディナータイムの仕込みもしなくっちゃ〜」


『またお会いしましょうモモツカ』


「ええと……フローマさん?」


『フローマで結構です』


「ありがとう、またねフローマ」


『はい、また』



様子をみていた店長さんはクスッと笑うと、先に店へと戻っていく。


フローマが気になり、きょろきょろと部屋の中を見ていると――


「ほら、さっさと戻りなさい」


「いいじゃん。ちょっとくらい」


「ダメ」


無情。


渋々階段を上がり、店へと戻る。



「はい、これ」


店長さんから、唐突に封筒を渡された。


「なんですか?これ」


「今日までもらった分の靴下代。あと、この前追加で購入してたでしょ?その分も」


「あ〜!ありがとうございます!」


ついに、ついに帰ってきた……!


「協力してもらうんだから当然よ〜」


そうだよなぁ、わざわざ追加で買ってきたんだもんな。


「……ん?なんで買ったの知ってるんですか?」


「うふふ〜」



答えるつもりはないようだ。



……心当たりがあるとすれば。



振り返ってみると、そっぽを向いている口切。


「なあ」


「報連相は義務よ」


「どの口が言うんだよ、それ」


〜♪


……口笛を吹き始めた。


こういう時の口笛は、下手くそがお約束――


のはずだが、妙に綺麗な音で腹が立つ。


「まぁまぁ。これはめぐるちゃんのお給料から出てますので、許してあげてください」


「え!?聞いてないです!」


素早く振り返ると、青ざめた表情。おまけに口が波打っている。


「安心してくださいね。今回の『おいた』に関して、というだけですから」


「あぁ〜……」


蚊が鳴くような声を出しながら、うなだれる口切。


罪は罪。しっかり懲りてもらおう。



「じゃ、俺は帰ります」


「気をつけて帰ってね〜」


「……あ!」


ひらひらと手を振っていた店長さんが、突然冷蔵庫を漁り始めた。


「これ。小春ちゃんと一緒に食べてくださいね〜」


ずいっと差し出されたタッパー。


中には――エビチリが入っていた。


「わぁ、エビチリですか!ありがとうございます!」


「お店の試作品なの。あとで感想教えてね〜」


なんでも作れるんだなぁ。


「……ここのメニューって和洋中、品数も多くないですか?」


「地上の料理って美味しいものばかりだから……増えちゃうのよねぇ」


「全部メニューに入れてたら仕入れとか大変ですよ」


「そこは……ねっ?」


どういう意味だろう。



「まだしばらくかかる……」


うなだれている口切がぼそりとつぶやいた。


「ん?何が?」


「あぁ、アンタは気にしないで。……ほら、弟が待ってるんでしょ」


ろくにこちらも見ないまま、テキトーに手を振っている。



「……じゃあ店長さん、今日もありがとうございました」



踵を返し、店の外へ出ようと扉を開けたところで――




「あー、百束」


「ん?」


「……改めてよろしく。あと、その――」


「今日はありがと」



振り返ると、口切は店の奥へ消えていこうとしていた。


「――おう!」


聞こえるように大きく返す。



……初めてちゃんと呼んでくれたな。


店長さんと目が合う。


嬉しそうに口を隠して笑っている仕草が、とても綺麗だった。



***



夕食。もらったエビチリを早速おかずにいただく。



「おいし〜い!エビでっかい!!!!」


「うん、美味しい美味しい。俺たちの感想次第で喫茶店のメニューに追加されるかも、だってさ」


「へぇー!また食べたーい!」


まだ食べてる最中だろうに。


「……まあ、これだけ美味しかったらレギュラーメニューに加えてほしいな」



あっという間に2人で平らげ、交互に風呂を済ませる。



髪を拭きながらリビングに戻ると、今日もカリカリと何かを描いている小春。



あ、そうだ。


「小春、絵本の続きってありそう?」


「んーとね……ちょっと待っててほしい、んだって!」


他の友達にでも貸しているのだろうか?


「そうか、わかった」


ソファーに腰を下ろし、スマホをチェックする。



KINEの通知を開いてみると、『なごみ』『めぐる』『フローマ』から個別にトークが送られてきていた。


「連絡先を交換した覚えはないんですけど!?」


「にいちゃん?」


「あ、すまん。なんでもない」



――おそるおそる、店長さんのトークから開いていく。


『百束くんとの連絡が取れないと不自由なので、今後はこのツールでもやり取りさせていただきますね』


確かに、お店まで行かなくとも会話できるのはありがたい。



――だが。


電話番号もIDも教えていないのに、何故俺のアカウントが分かるんだろう。



口切からのトークは……



『あ』


のみ。


大方、登録しておけという意味なんだろう。



フローマからは……


『私にも直接インストールしてもらえました。よろしく、モモツカ』


……そんなことできるの?


ちょっと怖いよエナトステクノロジー。



店長さんとフローマに挨拶を返し、口切には『あ』とだけ返しておいた。



ついでに店長さんへ、絵本を一緒に読んでいた人がいると伝えてみる。



『その方が私たちについて考察を立てるのは問題ありません』


『ですが、くれぐれも『実在する』なんてことは公言しないようお願いします』


よかった。また地底の法規とやらに引っかかるのかと思った。


『ちなみに。言ってしまったら』


「言ってしまったら?」


『皆さん揃ってエナトス「ご招待」しないといけなくなってしまいますので〜』



ぞわっ。



……すまんクララ。どれだけ頑張って考察しても、知らないふりをさせてもらう。



だが、甘太郎には多少誤魔化す必要があるだろう。


犯人は口切、って伝えちゃったしな。


「さて、なんて説明するかな……」



ボソリと呟きながらテレビを点けると――


甘太郎が面白いと言っていた、バラエティ番組が流れ始めた。


言い訳を考えようとしていたのは最初だけ。



テレビを観ながらケラケラ笑っていると、


「にいちゃん、ちょっとうるさーい」


小春に怒られてしまうのであった。



***



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