「選ばれる側のぬいぐるみ」



選ばれる側にも、選ぶ権利がある

ここはパンダの単独ステージだ。みんな、ぼくを見に来ている。

棚のど真ん中、センター。一番かわいい角度は十五度。

やたらと見つめてくる。照明が目に刺さる。まぶしい。首が固い。誰か揉んでくれ。

店員が近づいてくる。

くるり。
十五度。

この人だけは分かっている。
ぼくの一番かわいい角度を。

小さいやつが来た。しゃがんで、ぼくと目を合わせる。気に入った。母親の手に引っ張られて消えた。

五分後。
戻ってきた。

「まだいる!」

当たり前だ。
ここが職場だ。

次はオヤジだ。
タグを見てる。ぼくを見てない。引きつってる。比べている。

顔じゃない。
値段だ。

レッサーパンダを小脇に抱えていった。そいつはパンダじゃない。尻尾だ。

左のウサギが売れた。朝から隣にいたやつだ。何も言わずにいなくなった。

……元気でな。

またあの店員が来る。

手がゆっくり伸びてくる。耳が伸ばされる。腕が戻される。腹が叩かれる。

「よしよし。今日もかわいいね」

知ってる。
ぼくを贔屓してる。悪くない。

さすってくれ。
さすってくれ。

お尻が重い。まずい。ずっと同じ角度だ。

「これにする!」

急に持ち上がる。比べられる。戻される。また持ち上がる。

右の耳が死ぬ。やめろ。

抱き心地を確かめるな。
押すな。
つぶすな。
まだ、他人だ。

「惜しいね」
惜しいって何だ。

「これ優勝じゃない?」
勝手に戦わせるな。

_

顔面わしづかみされる。
ビニールの中。

シューッ。
鼻がつぶれる。

……まだ、かわいい?

よし。
待ってろ。

ただ、揉んでくれ。






【この後、待ち構えていたのは】


いいなと思ったら応援しよう!