見出し画像

「細長い白いクマもどき」


愛される側にも都合というものがある。


スーツケースが開いた。まぶしかった。全身がよじれてる。ぼくのしっぽは、お菓子の箱に挟まってる。誰か揉んでくれ。

あの女は、“お土産よー“とはしゃいでいた。

受け取ったのは、ちびっ子だった。

ぼくを見た瞬間、そいつは言った。

「なんでシロクマ。しょんぼりしてる。」

シロクマ。
ぼくはパンダだ。揉んでくれ、それだけ考えていた。

---

毎朝、彼女は出かける前にぼくをグリグリする。

ぼくがいないと落ち着かないらしい。

仕事にのめり込んで泣いた夜も、うれしくて飛び跳ねた日も、ぼくはいつも彼女の腕の中で潰されていた。おかげで、ただでさえ細長かったぼくは、もっと細長くなった。

--

10歳になった。記念に、高級スパへ行くことになった。

丁寧に梱包されていく。VIPである。

ペタンコだったお腹が、フカフカになって帰ってくる予定だった。

彼女は泣くかもしれない。

「帰ってきた!」とか言うかもしれない。

そろそろ喋れるようになるかもしれない。

ウィンクだって。

さて、お披露目だ。

--

「なんか、デカくない」

隣の奴が言った。首をかしげながら。

うるさい。いつからカレシづらしてんだ。

ここ、ぼくの席だ。

新参者が。

ぼくは決めた。毎晩にらむことにした。

彼女はホッペをプーッと膨らませた。

ぼくのお腹をつついた。押した。担いだ。置いた。また担いだ。

「前より重くなったね。本当に命が詰まってきたのかな」  

--

10年、黙ってた。もう限界だ。

喋れるようになったら、まずあいつに言う。

「お前、臭いぞ。」

彼女には、別のことを言う。




【まだ棚にいたころのぼく】


いいなと思ったら応援しよう!