見出し画像

ジャズ記念日: 3月14日、1968年@ニューヨーク “Windows” By Chick Corea

Mar. 14, 1968 “Windows” By Chick Corea, Miroslav Vitous & Roy Haynes
At A&R Recording Studios, NYC for Solid State (Now He Sings, Now He Sobs)

同年3月6日のハービーハンコックの紹介曲から8日後、同じニューヨークでピアノトリオ作品の大傑作が生まれています。そのハンコックと同世代のイタリア系白人ピアニスト、チックコリアが、超人的な技量を持つ欧州人ベーシスト、ミロスラフビトウスと、⻑年に渡って先進的な演奏でジャズ界の巨人達と最前線を駆け抜け続ける重鎮ドラマーのロイヘインズ(録音前日が43歳の誕生日)による従来のジャズの概念を覆す一枚を世に送り出すしました。

これ迄のジャズは、フリージャズを除き、何らかの形で土台となるコードや旋律、リズムがあって、それを前提として、リーダーを軸に合わせる演奏を繰り広げるフォーマットですが、このアルバムでは、決まり事はあるものの、テクニシャンの三人それぞれが、その前提の上で、お互いを意識しながら、赴くままに全力疾走してスレスレの線で調和する超人的な演奏を行い、インプロバイズして刺激的な展開をする凄みが超越しています。それは、五十年以上経った今でも、新鮮な響きがあります。予定調和が主体の演奏ではありません。

コリアが作曲してスタンゲッツが演奏するなどしてスタンダードとなった本曲、この演奏の土台はコリアの猛烈なスピードで疾走するピアノで、これに劣らぬ速さで伴走(奏)して、時には先回りする、ベースとドラムの⻤気迫る凄まじさが聴きどころです。僅か三分の短い曲だけに短距離走をするかのように密度が濃いので、聴いた後に充足感がどっと押し寄せます。

リーダーのチックの斬り込む牽引力、ビトウスのズンズンと縦横無尽に絡み付く追随力、そして黒人清音派ドラマーの代表格、ロイヘインズによるダイナミズムに溢れる斬新な瞬発力の相性の良さが合わさって人気を博したため、その後も同トリオでアルバムが作られています。その一つが本作から十六年後の以下ライブ演奏で、新鮮味に溢れてアグレッシブな本曲とは異なる成熟した内容となっています。

さて、テナーサックスの巨匠スタンゲッツによる、コリアを従えたバンドとのバージョンは、こちらをどうぞ。

ドラムのロイヘインズの特にずば抜けている凄いところは、そのテクニックは勿論のこと、音楽的な想像力と順応性です。約七年前の2月23日の演奏は、リズムの取り方など従来のジャズスタイルの域を出ておらず、革新的な本演奏とは愕然たる開きがあります。

同作品から七年の間に、モードジャズがあり、フリージャズがあり、ロックがメインストリームに躍り出ました。ヘインズは持ち前の順応力で、それらを吸収、消化した上での演奏ではないかと推測します。

そしてその間、世界情勢的にはベトナム戦争の激化がありました。

ここからは個人的な独断と偏見に過ぎませんが、まさにこの録音の前後に、ベトナム戦争泥沼化の様相が明らかとなり、10万人が参加したというペンタゴン反戦デモのような形でアメリカにおける反戦運動が激化、世論が二分されています。感度の高いアーティストだけに、そういった混沌とした社会情勢の影響を受けて、カオス寸前で何とか均衡が保たれるという、スレスレの緊張感を持った類稀な演奏につながったのでは無いか、と勝手に解釈しています。

因みに、この前年にビートルズの反戦歌”All You Need Is Love”が、この翌年にプラスチックオノバンドの”Give Peace a Chance”がリリースされているというと、上記の時代背景が伝わるかもしれません。

本作直前の3月6日収録のハービーハンコック作品はこちらからどうぞ。ハンコックはコリアとは対極のアプローチで、世界情勢の緊張感を緩和するような、予定調和に溢れるヒーリング音楽的な音楽を創出しています。

本作のレーベルはプロデューサーの重鎮、フィルラモーンがロサンゼルスで共同創設した”Solid State”。そのラモーンが手掛けたニューヨークのA&R Studioでの収録となっています。

コリアは、この頃のマイルスデイビスのバンドへの参加を含めて、ジャズの最前線で50年以上の長きに渡って活躍しました。

最後に、コリアと同じイタリア系アメリカ人の「ギターの達人」、ジョーパスによる本曲のソロギター演奏を味わってくださいませ。

いいなと思ったら応援しよう!