今日のジャズ: 11月7-9日、2010年@アメリカーナ “Shenandoah”by Brian Blade & The Fellowship Band
“Shenandoah”
by Brian Blade & The Fellowship Band (Jon Cowherd, Myron Walden, Melvin Butler and Chris Thomas) at Blade Studios, Shreveport, LA for Blue Note (Landmarks)
現在ジャズドラマーの最高峰の一人、ブライアンブレイドは、ウェインショーターやチックコリアといったジャズレジェンドのサイドマンとしても活躍しつつ、盟友を従えた1997年結成の自身のバンド”The Fellowship Band”でも、聴くと独特の世界観の物語が展開してアメリカーナ的な情景が浮かぶ旅に誘うような作品を創出しています。その物語の一幕として中盤に差し込まれているのが、僅か二分足らず本曲、アメリカの伝統的なフォークソング”Shenandoah”です。

本作は同バンドのデビュー作品から四作目にあた日ますが、どの作風も一貫して内省的で、どこか懐かしい哀愁に満ちた感じから、秋の季節に手に取って、しっぽりとした環境で耳を傾けたくなります。本アルバムは、二曲がオレゴンでの11月録音、それ以外がブレイドの故郷のルイジアナにおける2月の録音の演奏で構成されています。
このバンドはブレイドとキーボードのジョンカウハードによるオリジナル曲が中心ですが、本アルバムでは、珍しくトラディショナルなフォークソングを取り上げて郷愁感に溢れる、古き良きアメリカを彷彿とさせる作風で演奏しています。こういったアメリカのフォークソングが彼らの作品の源流にあって、”Shenandoah”は、その象徴として採用されたのかもしれません。
同メンバーによるシアトルのラジオ局向けの同曲の演奏がこちらです。ブレイドは一切ドラムを触らずに寡黙に他メンバーによる演奏に耳を傾けていますが、そこにはブレイドの魂が宿っているように聴こえます。それは同バンドのトータルコーディネーターとしてのブレイドの存在感と、長年の密な付き合いでお互いを知り尽くしているバンドメンバーだからこそ成せる芸当だと思います。
”Shenandoah”とは、諸説あるものの、ジョージワシントンと面識のあったネイティブアメリカン部族イロコイ族の酋長の名前という説が多数を占め、歌詞はその娘に恋焦がれる内容となっています。初めて耳にする方には以下の動画がお勧めです。因みにバージニア州には同名の国立公園があります。
この”Shenandoah”を自分が初めて意識して聴いたのは、ブレイドと同様にアメリカーナの感性をふんだんに演奏に盛り込む鬼才ジャズギタリスト、ビルフリゼールによる1999年リリースのアルバム”Good Dog, Happy Man”からの一曲でした。
この曲を随分昔に個人的に馴染みのあるカナダのフランス語圏、ケベック州に休暇で向かう機内でアメリカとカナダに想いを寄せるかのように何度も聴いていました。この演奏のアメリカーナ度合いが特に際立っているのは、ライクーダの参加に因るところが大きいと感じます。
今回取り上げるにあたって、曲について調べてみると、16世紀にネイティブアメリカンとの毛皮交易のためにカヌーを使ってミズーリ川を行き来したフランス系カナダ人、通称Voyageurs(ボヤジュール、運び人)が航行しながら歌ったものに起源があり、歌い継がれて原型が成り立ち民謡として定着したものだそうです。

出典: https://balladofamerica.org/shenandoah/
アメリカ合衆国のフォークソングと思っていたら、その建国前のフランス統治時代にまで遡った歴史を持つ曲で、特に個人的に親しみを感じるのは、カナダ滞在時にラジオでよく耳にしたフレンチカナディアンの音楽に何処か通じる所があるからなのかもしれません。因みにケベック州ではカナダのコンテンツとフランス語を保護する目的において公共放送による放送時間が法律で定められていて、例えばラジオ局はカナダのコンテンツを35%、フランス語で65%の放送が義務付けられています。欧州大陸から米州大陸に渡り、カナダ北東部のセントローレンス川から米国中部のミズーリ川を経てミシシッピ川に連なる南部にまで航行した当時の冒険家的なフランス系カナダ人、ボヤジュールに想いを馳せながら本曲を聴くと感慨深いものがあります。ミシシッピ川の河口がまさにジャズ発祥の地、ルイジアナ州のニューオリンズ(フランス統治時代は「ヌーベルオルレアン」)で、ここに到達したボヤジュールによって居住地区であるフレンチクォーターが築かれ、ネイティブアメリカンとの混血「クレオール」が生まれ、ジャズ誕生の構成要素の形成に寄与したからです。

青色がフランス所有地域で南北に通じている
出典: Wikipedia
本曲の歌詞には、中部を流れるミズーリ川が”Across the Wide Missouri"という表現で登場しています。この歌詞で思い起こされるのは、パットメセニーとチャーリーヘイデンによるデュオ演奏の名作、“Beyond the Missouri Sky”です。ミズーリ川にちなんで名付けられたメセニーの故郷ミズーリ州を引用したアルバムタイトルですが、何処となく本曲の歌詞を意識しているかのようです。

このヘイデンとメセニーが演奏している”Shenandoah”を、本記事をご覧になられた息切れじじいさまからご紹介頂きましたので追記します(いつも貴重なコメント、有難うございます)。ヘイデンの出身地はアイオワ州の”Shenandoah”で、その地名は本家バージニア州の”Shenandoah”に似ていることから入植者によって命名されたものだそうで、縁あってこの曲を取り上げたものと想像します。アルバムの締め括りの曲としてヘイデンが珍しく歌声を披露しているこの演奏もアメリカーナです。
先のフリゼールの演奏曲名には「ジョニースミスに捧ぐ」とあるため、ギターの名手スミスの同曲の演奏を調べたところ以下の作品がありました。ブレイドの演奏と同様に二分程の短いソロながら深い趣が感じられるのと、フリゼールがこの演奏を意識、オマージュしている事が分かります。スミスには「ヴァーモントの月明かり」というアメリカーナなスタンダード曲もあります。
そして、フリゼールがサイドマンとして共演している、現在86歳にして精力的な活動を続けるジャズテナーサックスのレジェンド、チャールズロイドによる演奏も有ります。ネイティブアメリカンの血を引いているという自身に照らし合わせるかのように、ロイドの紡ぐ旋律は味わい深いものがあります。因みにこのアルバム名”I long to see you”は、”Shenandoah”の歌詞の中にあります。
味わい深いと言えば、キースジャレットによるソロピアノ演奏も、心に平穏を与えてくれます。これらのどの演奏からもアメリカンフォークミュージックの強い影響が感じられます。
最後に、もう一人の著名なキース、ローリングストーンズのリチャーズが加わっているトムウェイツの演奏がフレンチカナディアン的で、無骨ながらユーモアな風情があって個人的な好みなので紹介いたします。
素敵な週末をお過ごしください。

(モントリオールは毛皮交易の主要拠点だった)
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