ジャズ記念日: 6月25日、1961年@ビレッジバンガードNY “My Foolish Heart”by Bill Evans
June 25, 1961 “My Foolish Heart”
by Bill Evans, Scott LaFaro & Paul Motian
at the Village Vanguard, NYC for Riverside (Waltz for Debby)
マンハッタンの六月の雰囲気を味わいたければこのアルバムです。緑の息吹が際立つこの爽やかな季節のジャズクラブだからこそ生まれたと考える屈指の名演。ビルエバンスのトリオも新緑の活力を感じていただろうし、観客も昼の公演ということもあって、少々騒がしいが、それが結果として本作のリアルなライブ感を演出しています。
マンハッタンにある名門ジャズクラブ、ビレッジバンガードの数ある録音の中でも最高峰の一つに位置付けられる傑作です。その際の現場でのトリオの写真が以下の通り残っていて、この時の写真は、今でも誇らしげにビレッジバンガードの壁際に飾られています。

名アルバムの冒頭曲、弾き始めから35秒間のトリオ演奏による展開に心が鷲掴みされます。ピアノのエバンスによる、アドリブ控え目の、この上無く美しい主旋律主体のメロディー、それを引き立てるドラム、ポールモチアンによる耽美なブラシとシンバルワーク、硬めのトーンでメロディアスに自由にリズムを刻みながら味わいを付けるスコットラファロのベース、現代ピアノトリオの完成形のお手本のような演奏で、包まれるようなトリオの音楽にずっと浸っていたいと思います。
この曲と演奏のテーマは、歌詞に沿った「迷い」と「自制心」だと考えています。恋に落ちたいけれど、それでうまくいくのか迷ってしまって踏み切れない葛藤が、背景にあって、それは演奏的には解放したい気持ちを抑制する表現につながっていると推測します。具体的には盛り上がりそうなところで、堪えて平静を装うという、3:15からのモチアンのドラムがスイングしかけたところで突然我に返ったように手を休める、といった演奏に象徴的に表現されていると思います。
このトリオは、それまでの予定調和的な演奏から一歩脱却して、各個人がコード進行に沿って自由度の高い演奏を繰り広げ、ジャズの発展に多大なる影響を及ぼしています。因みに、この曲は、かっちりとした構成美によって生まれているものの、ベースラインの取り方が、メロディー的な役割も担っているところが、当時においては斬新なスタイルになっています。
誰しもが悦に入る超有名盤でありながら、奥が深く、聴きどころも多いため、味わい深さは噛み締めるほどに堪能できるスルメのようです。そのために名だたるジャズ評論家が躊躇無く、お勧め盤として取り上げているし、そこに異論の余地はないと思います。
演奏以外でも例えば、昼間のライブ録音で、よく耳を澄ますと観客による咳、会話や食事の食器の音の臨場感は察知出来ますが、会場が地下で昼間の収録ということもあって、地下鉄が通過する度に、その振動が録音機材に伝わり、「モコっ、モコっ」という重低音として記録されているところまでは、なかなか認知出来ないと思います。それは、0:57以降と、2:52過ぎの2回に渡って各六秒ほど登場しますが、イヤフォンやオーディオシステムでも通常の音量では分からないので、それなりのシステムで音を大きくして耳を澄ませて皮膚を含めた身体で感じ取らなければ分かりません。それでも聴こえないとするならば、再生能力と低音分解能がオーディオ的な課題となります。
ステレオ的には右にピアノ、左にベースとドラムが配置されています。このアルバムで如何にビレッジバンガードの雰囲気を再現できるか、が究極的なオーディオ課題になるかと考えます。

本曲は、ジャズスタンダード曲を多数生み出したヴィクターヤングが手掛けた同名の映画からのタイトル曲で邦題は、「愚かなり我が心」です。1949年にリリースされてイギリスで11週間に亘ってチャートNo.1を記録、アカデミー賞にもノミネートされています。
録音は以下ライブ盤の翌月の収録で、ジャズ全盛期のこの頃のマンハッタンにタイムスリップしたくなります。
アルバムジャケットはリバーサイド後期に多数手掛けたケンデアドフによるもの。本アルバムジャケットには演奏者すら登場せず、淡いパステル調の背景に女性の抽象的なシルエットという当時としては、かなり冒険的で斬新です。この独特の雰囲気が作風に絶妙にマッチして名盤の大きな一つの構成要素となっているようです。因みに写真に手を加える技法をフォトモンタージュといって、写真の組み合わせや写真と絵を組み合わせる、政治家が登場するプロパガンダに良く使われた技法だそうですが、それを敢えて抽象的にぼかして、横と斜め正面を向く女性のシルエットを重ね合わせて活用するというアイディアも、すみれ色の背景とのバランスも素晴らしいと思います。
このデザイナーは、エバンスファンにはお馴染みの名盤も幾つか手掛けています。その特徴は、楽器や演奏とは無縁でアルバムジャケットを見てもジャズの要素が無いことで、セールス的にかなり挑戦的な取り組みと言えますが、その逆張りのアプローチが奏功したのかもしれません。




こういったジャズとは一見無縁のアルバムジャケットのアイディアは、現在のひとつの潮流にもなっています。例えばエバンスに影響を受けているブラッドメルドーのこちら。
最後に、耽美なエバンスに更に浸りたい方は、こちらのフルートを交えた名曲もどうぞ。
