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「闘う」を選んだ人を見た日(2025年8月5日、HYPE! 3再演を見て思ったこと)

 本稿はHYPE!3再演のネタバレを含みます。

 HYPE!シリーズについてはこちらの稿もあります。

 再演は良い。
 板の上の人たち皆が、程よく肩の力が抜けて楽しんでいるのがすごく 伝わってくる。演劇における再演はそういう印象が強くて、私はかなり 好きだ。

 HYPE!という 東京女子プロレスの中でも異色であり独特な興行の再演もまた、ほどよく肩の力が抜けた部分と、深みを増した小ネタに時事ネタまで盛り込んでボリュームアップした細部はツッコミどころ満載で、笑いが止まらない場面が多々あった(終演後のサイン会で、凍雅選手は制服の下のTシャツを初演の青から赤に変え、天然さを増してみた、と自分なりの工夫をしたことを話してくれた。まさに再演ならではのエピソード。他の出演者もきっとそれぞれに考えて工夫したと思われる。試合とはまた異なる見せ方を考える機会が、さらなる成長にもつながると思うと楽しみで仕方ない)。

 意匠を凝らした枠組みの中で改めて語られる愛野ユキ選手の思いは、初演の繰り返しになってしまうのか。それがちょっとだけ気にはなっていた。

 結論から言うと、今回は成るべくして成った再演だった。

 再び、という意味では、確かに物語の展開はほぼ変わらず進んでいく。


気がついたらこんな応援ボードを作っていたのは、凍雅選手の魅力のなせる技
再演だからこそ、こんな応援ボードも用意できた

 大きく違ったのはクライマックス。初演では愛野ユキ選手の演劇やリング上で見せる(魅せる)ことについて多く語られ、かつハイパーミサヲ選手の迷いや不安も語られ、2人が1対1で戦うことで、お互いのプロレスへの思いを確かめられたのかな という印象がある。

 自信を取り戻した、あるいは自身の天才性に覚醒したハイパーミサヲ選手と、プロレスラーとしてさらに奮い立った愛野選手が、果たしてクライマックスで何を見せるのか。

 脚本家のハイパーミサヲ選手が何を見せたかったのか。いわばHYPE!3の真の姿が明らかになる瞬間でもあった。


 クライマックスで主人公たる愛野ユキ選手が立ち向かう相手として用意されたのは、男色ディーノ選手。

 想像の斜め上とかそういうレベルじゃないぐらい予想外のカードだった。

 これまでに接点も因縁も全くない相手、誰もこんな試合見たくない、と愛野ユキ選手が叫んでしまうほどのとんでもないカード。

 その叫びに対して、ハイパーミサヲ選手が絶叫する。

「私が見たいんだ!」

 これはもう、観客の心の声でもあったと思う。予想していなかったけれど、提示されたら絶対に見たい 試合。これすなわち、プロレスとしては最強のカードではないか。

 ここで愛野ユキ選手は対戦をすぐには承諾しなかった。

 相手へのリスペクト、戦うなら勝ちたいという気持ちももちろんあるけれど、男色ディーノ選手の方に「愛野ユキに勝ちたい」という気持ちは特にないでしょ、仕事で来たでしょ、と。

 そういう相手と試合をして熱くなれる、お客さんを熱い気持ちにさせる、ということができる気がしないから、このカードを受けられないというのが概ね愛野選手の主張だったと思う。

 これに対するディーノ選手の回答。

「愛野ユキを知りたい」

 だから戦う、という直球だった。

 闘いの動機付けは、そういうことでもあるんだなと、ちょっと目から鱗が落ちた気がした。勝ち負けが決まるから勝ちたいと思うのはすごく当たり前で分かりやすいことではあるんだけども、相手を知りたいからぶつかって闘うんだという選択ができるのは、実はプロレスラーならではという気がする。

 比喩的にぶつかる、感情的にぶつかる、言葉でぶつかり合う、は確かに成立するんだけれども、物理的にマジでぶつかり合う、本当に体ごとぶつかる、これができるのは、やっぱりプロレスラーだけだし、シンプルに「知りたい」と言われて「闘う」を選べるプロレスはすごいな、という感動がこの瞬間にあった。

 愛野ユキ選手は、言葉で語るのはあんまり好きじゃない、とも言っていたけれど、ディーノ選手のまっすぐな言葉に打たれて、うだうだ考えるよりぶっ倒す、と覚悟を固めて試合開始となった。


 東京女子プロレスの中で、愛野選手はパワーファイターの部類には入ると思う。それでも男子選手との体格差やパワーの差はやはりあって、いつもの試合より凄まじい音が響いていた。一発の重さが違いすぎる。それでも立ち上がる愛野選手に声援を送るしかできないのが悔しいぐらいに、憎たらしく攻めの手を止めないディーノ選手(これは大変にいい仕事をしてくださっていた)。

 愛野選手は何度でも立ち上がって ぶつかって行って、投げを試みてセントーンを決め、それでも投げられてまた倒されても肩を上げる。 諦めず 戦い続ける愛野選手の姿は、本当に熱くて、気がついたら「ユキー!」と叫び続けていた。

 3カウントを奪ったのは男色ディーノ選手。マイクを手にして、東京女子プロレスはいいね、こんな興行できるの東京女子プロレスだけだよ、と。そして、頑張ったら報われるとは限らないけれど、頑張ったらそれを見てくれる人はいる、それが東京女子プロレスだ、と。だから愛野ユキを頑張りなさい、自分自身を頑張りなさい、と。

 とても暖かく、心に突き刺さる言葉だった。


 それにしても、このカードを思いつくハイパーミサヲ選手の天才性。恐るべし。次は誰が主役になるのか、ものすごく楽しみだ。

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