HYPE! という処方箋
本稿の意図
本稿は観戦記ではなく、東京女子プロレスのハイパーミサヲ選手によるプロデュース興行について思うところを、半分くらいネタバレ気味にまとめたものです。
東京女子プロレスとHYPE!
東京女子プロレスは心の栄養、と私は何かにつけて祝詞を唱えている。
今回は、ある興行に焦点を当てて思い巡らせてみる。
ハイパーミサヲプロデュース興行「HYPE!」である。
2023年に第1回興行が行われて以来、年1回ペースで開催されている。
スケジュール調整の壁に阻まれ、私は実際に会場に足を運んでおらず、後日の配信映像で観た。
これがまあ、面白い。
プロレスと演劇の中間とか融合とか、様式を表す言葉はそういったものに当たるだろう。その様式だけなら、全く新しい試みというわけではない。
岸田國士戯曲賞をも見据えるハイパーミサヲ選手のプロデュース手腕があってこそ、東京女子プロレスだからこそできる面白さが詰まった興行だ。
ハイパーミサヲ選手
ハイパーミサヲ。またの名を、東京女子プロレスの愛と平和を守るニューヒーロー。
初めて東京女子プロレスでミサヲ選手を観た時、そうコールされて入場し、真っ先にマイクアピールというだけでもインパクトはあったが、その言葉も印象的だった。
「女の子だってヒーローになれるというところを見せたい」
ヒロインじゃなくて、ヒーローになるのだという確固たる信念を持ち、様々なルールを提案し、時にはアイシングスプレー等の小道具(凶器)を使い、マスクが外れてもなりふり構わず闘う。
一度見たら忘れられないプロレスラーである。
HYPE!
そんなハイパーミサヲ選手によるプロデュース第1回興行は、事前に発表された対戦カードが3試合あった。
・2代目ハイパーミサヲオーディション 鈴芽、渡辺未詩、上福ゆき、宮本もか、らく、HIMAWARI(時間差バトルロイヤル)
・スペシャルシングルマッチ ヨシヒコ vs 中島翔子
・メインイベント『THE FIRST HYPE!』 辰巳リカ&遠藤有栖 vs 愛野ユキ&桐生真弥
ミサヲ選手がやりたいこと、見たい試合、見せたいドラマをぎゅっと詰め込んだ興行だ。
中でも、メインイベントに盛り込まれたドラマは、ドラマの枠を用いて「桐生真弥選手のプロレスへの思い」をかなり赤裸々に表出させている。
プロレスラーが思いを言葉にする場面は、実は散在している。
リング上、バックステージコメント、メディア取材、SNS等々……情報を目にする対象や機会を増やす意味でも、散在は当然のこと。とはいえ、1人のプロレスラーの思いをとことん知ろうと思うと、情報を受け取る側が能動的に情報を集める必要がある。
『THE FIRST HYPE!』は、リング上での演劇展開と試合の中で、真弥選手がプロレスラーを志した理由やプロレスへの思いが吐露されていく。
真弥選手の思いも胸に響く上に、ミサヲ選手が真弥選手を主役に据えた理由も語られて、ミサヲ選手の演出力・プロデュース能力の更なる展望が気になる幕引きだった。
HYPE! 2
第2回興行は、対戦カードの発表はなく、ほとんど演劇と呼べるスタイルで展開する。
らく選手が記憶喪失の主役となり、エンターテインメントが持つ力・エンタメネルギーを集め使えるアーティストヒーローがいる世界を巡って記憶を取り戻し、夢から覚めるために夢のような試練たる試合をする。
この世界観がまたミサヲ選手ならではの切り口であり、登場する選手たちの役どころが最高(特に桐生真弥選手、凍雅選手、風城ハル選手による男装ホストクラブは定期的に摂取したい仕上がりだ)。
ミサヲ選手自身が骨折により役者としての登場がなかったものの、脚本家・演出家としての飛躍を予感させる興行だった。
HYPE! 3
第3回興行も、演劇寄りのスタイルではあるものの、設定が「東京女子プロレス学園」! プロレスラーを目指す女の子たちのわちゃわちゃで少女マンガな日常と、そこに迫る危機を描くエンタメ超大作である。
台本が書けないと苦悩するミサヲ選手の姿が映し出されるメタ描写から始まり、プロレスラーが国家資格になったというトンデモ設定が語られ、東京女子プロレス学園という舞台に引き込まれる。
主役は愛野ユキ選手。脚本に仕込まれていた数多の少女マンガギミックを使いこなし、学園の危機を乗り越え、物語は大団円を迎える。
出演した選手たちがリング上に揃ってご挨拶、の場に、ひとり遅れて姿を現したミサヲ選手は、憔悴した表情。
タッグベルトのチャンピオンになった後に負傷し、HYPE! 3の台本に自信をなくし失踪までしたとミサヲ選手が激白。ユキ選手は、断れない状況で主役の話が来たと苦笑いしながらも、プロレスラーだった姉への思い、演劇への思い、プロレスへの思いを口にし、ミサヲ選手を激励して試合を申し込む。
愛野ユキ vs ハイパーミサヲ の試合は、両者一歩を譲らぬ激闘の末、時間切れ引き分け。
主役の選手だけでなく、プロデュースするミサヲ選手の思いも胸を打つ興行だった。
HYPE! という処方箋
東京女子プロレスには、プロレスを楽しみ、女子である自分を楽しみ、そのための努力を惜しまない女子プロレスラーたちがいる。
その姿に勇気と元気をもらえるけれど、プロレスを楽しむに至った彼女たちの思いに触れるなら、HYPE! を見よう。
そんなことを思う今日この頃である。
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