医師国家試験の思い出
医師国家試験について、
試験前にこう言われていた。
「三日間、座っていれば受かる」
乱暴な言い方だし、
当時はその意味がよく分からなかった。
実際に受けてみて思った。
あれは、知識を競う試験というより、
壊れずに三日間そこに居続けられるかを見る試験だった。
医師国家試験は、9割が受かる試験だ。
落とすための試験ではない。
ここまで来た人間を、
確認するための試験に近い。
二日目になると、会場には空席があった。
昨日までは、確かに誰かが座っていた席だ。
理由は分からない。
体調かもしれないし、
1日目の出来が悪く、心折れてしまったのかもしれない。
ただ一つ確かなことは、
座っていなければ、絶対に受からないということだった。
休憩時間、
某私立医大の学生が、
明らかに大腸カメラの画像について、
胃がんだという前提で話しているのを聞いた。
その瞬間、妙に冷静になった。
ああ、これは受かるな、と。
完璧じゃなくていい。
全部分かっていなくていい。
致命的なことをしなければいい。
難しい問題は、みんなと同じように間違えたって良い。
三日間、壊れずに座っていればいい。
二日目の夜、
夕食のときにビールを一杯だけ飲んだ。
周りは誰も飲んでいなかった。
祝杯ではない。
酔うためでもない。
二日目を終えて、
「もう無理をしなくていい」と、
体が理解したあとの一杯だった。
控えめに飲むビールはうまかった。
ちなみに、
私はもともと学年で下から20パーセントくらいの成績だった。
決して優秀ではなかったし、
苦手な科目では再試験にも引っかかった。
それでも、
医師国家試験の最終成績は、それなりに上位だった。
特別なことはしていない。
ただ、体力と気力を切らさず、周囲と同じように勉強し、
三日間、ちゃんと座っていただけだ。
大学受験や専門医試験も含めて、
これまでいろいろな試験を受けてきた。
でも、
ボリュームという意味では、医師国家試験が一番だった。
知識量も、時間も、精神的な消耗も、
あれを超える試験は、たぶんもうない。
だからはっきり言える。
二度と受けたくない試験だ。
三日間、座っていれば受かる。
今は二日間になったんだっけ。

