東京女子大学でのパイプオルガン演奏会
大学内のチャペルで聴くパイプオルガンの響きには、
コンサートホールとは一味違った魅力があります。
はたして、それは何でしょうか?
(答えは、この記事の後半で)
2026年6月に訪れた国際基督教大学(ICU)に続き、
7月には東京女子大学のチャペルで行われた
オルガニスト松浦光子さんのリサイタルへ足を運びました。
東京・西荻窪駅から路線バスで約7分。
大学の正門をくぐると、緑の中に建つクラシカルな本館が
真正面に見えてきます。


いずれもチェコ出身の建築家アントニン・レーモンドによる設計。
現在はともに文化庁登録有形文化財となっています。
レーモンドは、帝国ホテル建設のために来日した
フランク・ロイド・ライトのもとで活動した建築家としても知られています。
チャペル内に入ると、まず目を奪われるのが
42色ものガラスが使われたステンドグラスです。


デザイン自体は、東京女子大学のアイコンにも使用されている菱形や円、十字架をモチーフとしたシンプルなものですが、例えば同じブルーのガラスでも、それぞれ微妙に色味が異なるため、全体としては美しい虹色のグラデーションが生まれています。
上空に浮かぶかのような円形の照明もシンボリックで、このチャペルならではの幻想的な空間を作り出していました。

続けて、後ろを振り返ると、2階にはフランス・ヘルプフェル社製のパイプオルガンがあります。三段鍵盤・35ストップを備えたオルガンで、流線型のケースはモダンなデザインです。
照明のデザインとも調和し、どこかレトロなSF映画に登場する宇宙ステーションを思わせるかのような、そんな独特な面白みも感じました。
今回のコンサートのプログラムでは、メゾソプラノの向野由美子さんを迎え、オルガンと歌が披露されました。
なかでも印象に残ったのは、
J.S.バッハ《安らかな憩いよ、魂のよろこびよ!》BWV170でした。
このカンタータが初演されたのは、
1726年7月28日、三位一体節後第6日曜日。
そして、今回の東京女子大学での演奏会の翌日、2026年7月5日は、
ちょうど同じ三位一体節後第6日曜日にあたっていました。
つまり教会歴としては、およそ300年前とほぼ同じタイミングで、
このバッハの作品を聴く機会に恵まれたのです。
松浦さんが配布された日本語訳を以下に引用させていただきます。
BWV170より第1曲 「安らかな憩いよ、魂のよろこびよ!」
安らかな憩いよ、魂のよろこびよ!
安らかな憩いよ、魂のよろこびよ!
あなたを地獄の罪のもとには見出せず、天の和合にこそ見出します。
あなただけが強めてくださいます、弱い胸を。
安らかな憩いよ、魂のよろこびよ!
それゆえ、徳の賜物だけを私の心の中に住まわせましょう。
冒頭で繰り返される三連音の穏やかなリズムは、
天上の世界を思わせるような静けさに満ちていて、
チャペルには柔らかな光が差し込み、
オルガンの響きとも重なり合って、
「魂のやすらぎ」という言葉が自然と心に染み込んできました。
コンサートが始まる前に、漠然と思っていた
「オルガンと独唱だけで音量のバランスは取れるのだろうか?」
という心配は、演奏が始まるとすぐに消えて無くなりました。
歌声はチャペル全体へと自然に広がり、オルガンが温かな響きで支えます。この曲におけるオルガンの音の設定は、低音から中音域がしっかりと土台をつくりながらも決して主張しすぎないもので、ストップの選択も絶妙で、歌声を包み込むような柔らかな響きがとても印象的でした。

▼下記の動画は、今回の演奏と同じように、オルガンと独唱によるBWV170の演奏です。ご参考までにどうぞ。
大学のチャペルで聴くパイプオルガンには、コンサートホールとは異なる「静けさ」が感じられます。ある意味、その静けさを体感することが、大学のチャペルでパイプオルガンの響きを聴くということの本質のような気がします。
歴史ある建築のステンドグラスから差し込む穏やかな光、そして、空間全体に響く厳かな音色。それらが一つになって生まれる「静けさに満ちた音楽」は、まさに大学のチャペルだからこそ味わえるものなのだろうと思います。
さらに今回は、まるで贈りものであるかのように、時を超え、300年前と同じ教会暦の日曜日に響いた、バッハのカンタータBWV170を聴くという、とてもありがたい、貴重な体験までさせていただきました。

なお、東京女子大学では、
この秋にもパイプオルガンの演奏会が予定されています。
※詳細はここをクリック
日常とは異なる空間で、チャペルならではの「静けさ」を味わうために、
一度訪れてみるというのはいかがでしょうか。
プログラム
1. J.S.バッハ/前奏曲とフーガホ長調 BWV566
2. J.S.バッハ/「おお神の小羊、罪もなく」 BWV656 (Ms)
3. J.S.バッハ/フーガ ロ短調(コレッリの主題による) BWV579
4. J.S.バッハ/「安らかないよ、魂のよろこびよ」BWV170より第1曲(Ms)
5. M.デュリュフレ/メディタシオン(遺作)
6. M.デュリュフレ/『レクイエム Op.9』より「ピエ・イエス」
7. R.ヴォーン=ウィリアムズ/『『5つの神秘的な歌曲』より(Ms)
第3曲「愛は私にようこそと言ってくださった」
第4曲「招き」
8. F.リスト バッハのカンタータ「泣き、嘆き、生え、案ずる」と口短調ミサ曲「十字架につけられ」の通奏低音による変奏曲 S.678
松浦 光子 プロフィール
高校在学中よりオルガンを始め、佐野直子氏に師事 国立音楽大学オルガン科にて吉田實氏に師事 卒業時、武岡賞受賞 卒業演奏会、日本オルガニスト協会主催新人演奏会に出演。同大学大学院音楽研究科(オルガン専攻)修了。大学院新人演奏会に出演。その後、ミュンヘン音楽演劇大学にてエドガー・クラップ氏に師事。同大学院オルガン科をディプロマ取得修了。
在学中より、国内外のオルガン・アカデミーに参加 教会やコンサート・ホール、ミッション・スクール等におけるソロ活動をはじめ、オーケストラ、合唱などとの共演を行う。帰国後は、所沢市民文化センター(ミューズ)パイプオルガンスクールの第7期、第8期の講師を務めた。
日本基督教団神戸栄光教会オルガニストを経て、現在、日本基督教団松沢教会オルガニスト。青山学院大学オルガニスト、同大学オルガニスト養成講座講師。一般社団法人 日本オルガニスト協会会員、日本オルガン研究会会員。
共訳書に『バッハ=カンタータの世界』全3巻(監訳 / 礒山雅 東京書籍)がある。
向野 由美子 プロフィール
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。在学中より宗教音楽を中心に演奏活動を開始。バッハ《マタイ受難曲》《ヨハネ受難曲》、ヘンデル《メサイア》、ベートーヴェン《第九》、モーツァルト《レクイエム》などの主要な声楽作品においてソリストを務めるなど、豊富なレパートリーを持つ。オペラではモーツァルト《フィガロの結婚》ケルビーノ、《コジ・ファン・トゥッテ》ドラベッラ•デスピーナ、J.シュトラウス《こうもり》オルロフスキー、ヴェルディ《ナブッコ》フェネーナ等、幅広い役柄を演じてきた。2025年には、現代邦人オペラ《みづち》(作曲:富貴晴美、台本:丹治富美子)にて黒姫役を務め、古典と現代作品の両面における柔軟な音楽表現が高く評価された。豊かな音楽性と確かな技術に裏打ちされた演奏は、多くの聴衆の共感を呼んでおり、コンサート、オペラ、宗教曲など多岐にわたる分野で高い評価を得ている。また、演奏活動の傍ら、後進の指導にも力を注いでおり、声楽講師や合唱団のヴォイストレーナーとして教育活動にも精力的に取り組んでいる。現在、都留文科大学・共立女子中学高等学校にて講師を務める他、各地での演奏・指導活動を通じて日本の音楽文化の発展に寄与している。
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