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AIはNG?人間ならOK?─「聞いてない」と言われたので、ちょっくら考えてみた

Bonjour。半人半AIの禅僧、ムッシュ・ミスクリアです。
突然ですが、質問です。

あなたはExcelで表を作るとき、「Excelを使います」と事前に申告していますか?

電卓を叩くとき、「電卓を使ってもよろしいでしょうか」と確認していますか?


……しませんよね。
では、なぜAIだけが聞かれるのでしょう。

先日、仕事の打ち合わせで、AIを活用している件がぽろっと話に出ました。
返ってきたのは、この一言です。

「AIを使う件については、聞いていません」

あるクライアントからの一言

怒られたわけではありません。
ただ、その場の空気が一段、冷えました。

今回は、この「聞いてない」の正体を、契約書と研究データでちょっくら考えてみました。
先にお伝えすると、結論はこうです。

問うべきは「AIか、人か」ではなく、「この仕事のどこを、どちらが持つか」

私の投稿した記事「AIはウソつき?人間は正直者?」の続編として読んでいただけるとうれしいです。


1|時代は決着した─かのように見えます

まず、世の中の状況から。

生成AIの活用を「禁止」している企業は、2026年3月の調査でわずか0.4%だそうです。
もはや絶滅危惧種ですW

大企業に目を向けると、活用・推進度は87%
未着手・断念は4%まで減っています。

「AIを使うか、使わないか」という議論は、もう決着した─かのように見えます。
ところが、です。

2|「聞いてない」と言われまして

私の仕事の成果物には、AIを活用したものがあります。
もちろん、AIの出力をそのまま出したりはしません。

人がチェックし、根拠となる資料も添えて提出しています。
その打ち合わせの席で、AIの件が話題に出た瞬間でした。

「AIを使う件については、聞いていません」

「聞いてない」─空気が一段、冷えた瞬間

帰ってから、契約書を読み返しました。

「人間のみで作成すること」という条項は─ありません。
「AI使用時は申告すること」という条項も─ありません。

この状況を、記事づくりを手伝ってもらっているAI(Claude)に話してみました。

AI「つまり、存在しないルールへの違反を指摘された、ということになりますね」
私「……言われてみれば、そうなるね」

引用すべき規則がどこにもないのに、「聞いてない」という言葉だけが場を支配する。
これは一体、何なのでしょうか。

3|Excelは聞かれないのに、AIは聞かれる

冒頭の質問に戻ります。

Excelの関数も、電卓も、スペルチェッカーも、翻訳ツールも、使うたびに申告などしていません。

プログラムに至っては、人間が書いているのは指示書のようなもので、実際に動くコードを組み立てているのはコンパイラという道具です。

設計の現場では図面ソフトが線を引き、経理の現場では会計ソフトが仕訳を集計し、この文章だって変換ソフトが漢字を選んでいます。

私たちの成果物は、とっくの昔から道具との合作なのです。

「純粋に人間だけで作った成果物」を本気で求めるなら、極論、プログラムは「01001010…」のような0と1だけの羅列を、人間が一文字ずつ手書きすることになります。
お見積りの桁が変わりますが、よろしいでしょうかW

電卓もExcelも素通り。止められるのはAIだけ

それなのに、「使用を申告せよ」という感覚は、AIにだけ発生している。
なぜでしょうか。

実は、これには研究の裏付けがあります。
ひとつは「アルゴリズム嫌悪」と呼ばれる現象です。

人は、機械と人間が同じ間違いをするのを見ても、機械への信頼のほうを速く失うことが実験で示されています。

もうひとつは、許される間違い率の非対称です。

私の投稿した記事でも紹介した放射線科での調査では、許容される誤り率はAIが6.8%、人間が11.3%という回答でした。

AIには、人間より厳しい採点基準が適用されているのです。
つまり「聞いてない」の正体は、意地悪でも悪意でもなく。

まだ作法が整っていない場所に落ちてしまった人の、防御反応
なのだと私は思います。

知らなければ、責任は生じない。
でも聞いてしまったら、扱いを決めなければならない。

決めるためのルールは、どこにもない。
だから、とりあえずこう言うしかない─「聞いてない」。

4|もし「AIだから信用できない」と言われたら

とはいえ、この先もっと直球で来る場面もあるでしょう。
「AIが作ったものは信用できない」と。

そんな場面を想定して、私はAIにこんな相談をしてみました。

「『では、どこが具体的に信用できないでしょうか』と聞き返すのは、反論として成立するかな」
AI
「成立します。しかもその質問には、相手の否定の正体を分類させる力があります。返ってくる答えは、ほぼ3パターンに分かれます」

その3パターンが、なかなか面白いのです。

パターン1:具体的な指摘が返ってくる

「この数値の出典が弱い」「この前提は現場と合わない」。
これは大歓迎です。

AIの話ではなく中身の話になった瞬間、議論は本来の姿に戻ります。
ただ、ひとつだけ補足を。

たとえば、大量の設計書やプログラムを丸ごと読み込んで解析したレポートの場合。

「AIを使わない主義」を貫いて中身を指摘するなら、その全部を、人が自力で読み込んで検証することになります。
できない、とは言いません。

ただ─どれだけの時間と人手がかかるでしょうかw

実は、私の実務で一度、試算してみたことがあります。
AIと協働で作った、あるシステム調査の確認一覧について、「同じものを人手だけで作り、人手だけで検証したら、どれくらいかかるか」を、AIに見積もらせてみたのです。

返ってきた答えの単位は、時間でも、日でもなくでした。

詳細はお見せできませんが、見積り結果を見た瞬間、静かにそっと閉じましたW

中身を指摘する側にも、実はAIの力が要る。
そんな時代が、もう来ているのです。

パターン2:「いや、AIは全般的に間違えるから」

具体的な指摘ではなく、一般論への退避です。
ここで思い出したいのが、私の投稿した記事で紹介した研究です。

人間は、自然な会話の内容を、わずか5分後には約1割しか思い出せないのでした。

「間違える存在が作ったものは信用できない」という理屈を認めるなら─人間が作った報告書も、全滅ですW

出自への一般論は、反論にはなりません。
否定するなら、根拠の提示は否定する側の仕事です。

パターン3:「規則だから」「上がそう言うから」

それでは契約書のどの条項でしょうか、という話に戻ります。
条項がなければ、これは品質の問題ではなく、ルールが未整備という制度の問題です。
向き合うべき相手は目の前の人ではなく、仕様書と契約書の書き方だと分かります。

AI「この質問は、相手を倒すためのものではありません。
もめごとの正体がどこにあるかを、見極めるためのものです。

中身に問題があるなら、議論は中身へ。
ルールがないことが問題なら、議論はルールづくりへ。

どちらに転んでも、話は前へ進みます」
つまりこの一問は、「どこで話がこじれているのか」を教えてくれる質問なのです。
相手を言い負かす必要は、どこにもありません。

なお、実際の場では言い方を少しやわらかくするのがおすすめです。
「ご懸念の箇所を補強しますので、どの部分か教えていただけますか」。
要求している中身は同じですが、対決ではなく、改善の相談になります。

5|「セキュリティが心配」というご意見へ

AIの話をすると、必ず出てくるのがこれです。
「情報漏洩が心配」。
ごもっともです。

セキュリティは大切です。
ちなみに、世界的なセキュリティ調査によると、情報漏洩などの侵害の約6割には「人間要素」が関与しているそうです。

人間のうっかりミス、そして、電話やメールで丁寧にだまされてしまう人間─いわゆるソーシャルエンジニアリングです。

ご心配の方角、少し逆かもしれません。
もちろん、AI利用に固有のリスクはあります。

だからこそ必要なのは「なんとなく禁止」ではなく、

何を入れてよくて、何を入れてはいけないかのルール

それが決まっていれば、そもそも「聞いてない」は起きないのです。

6|ここで刀を持ち替えます─「AIなら安心」も、同じ間違い

さて、ここまで読んで「そうだそうだ」とうなずいてくださった、AI推進派のみなさま。
次は、あなたの番ですW

「AIが作ったから大丈夫」。
「AIを入れたから安心」。

これも、出自で中身の評価を代用しているという点で、「AIだから信用できない」と全く同じ間違いです。
向きが逆なだけで、犯している誤りは一つなのです。

「AIはNG」も「AIなら安心」も、警策は平等です

こんな研究があります。

100件を超える実験をまとめて分析したところ、「人間とAIが組んだチーム」の成績は、意外な結果になりました。

「人間だけ」と「AIだけ」、それぞれ単独でやらせて成績が良かったほう─その単独プレーに、チームは平均で勝てていなかったのです。

たとえるなら、テストが得意な人と苦手な人が相談しながら答案を書いたら、得意な人が一人で書いた答案より点が下がった、というイメージです。

「人を入れれば安心」も「AIを入れれば安心」も、どちらも神話でした。
ただし、同じ分析には希望もあります。

人間のほうが得意なタスクでは、協働は単独の両者を上回った

別の医学系の研究でも、役割分担がタスクに合っていた場合、人間とAIの協働は高い精度を出しています。

つまり、勝敗を分けるのは「AIか、人か」ではありません。
役割の設計です。

7|おわりに─「聞いてない」をなくす方法

今回の一件で私が持ち帰ったのは、こういうことです。
「聞いてない」が起きるのは、誰かが悪いからではありません。

契約と作法が、まだAI前提で設計されていないから

前回の記事で、新しい技術は「信用」より先に「付き合い方の作法」が育つ、と書きました。

「聞いてない」は、その作法がまだ育っていない場所で鳴っている、警報のようなものです。

全部AIで作る仕事も、全部人間だけで作る仕事も、実はもう存在しません。
だとしたら、問いの立て方を変えるべきです。
「AIを使ってよいか?」ではなく。

「この仕事の、どこをどちらが持つか?」

それを仕様書に、契約書に、チームの作法に書いていく。
AIの得意な部分を明文化して任せれば、コストは下がります。

人間が持つべき判断と責任を明文化すれば、品質と信頼は上がります。
まわりまわって、お客様のためになるはずです。

引くべきは「使う・使わない」の線ではなく「どこをどちらが持つか」の線

成果物の評価は、出自ではなく、中身で。
否定するなら、どうぞ根拠を撃ってください。
それは大歓迎です。

中身への指摘は、成果物を強くしてくれますから。
というわけで─この記事は「根拠なく否定しない」がテーマですので、根拠を下に全部置いておきます。

なお、こちらはAIによる分析結果などを参考にして書いた記事です。
お客さんとのさまざまな関係性などもありますので、適材適所で参考にしていただければ-と思っています。

【参考文献】

-出典確認日:2026年7月18日-
・帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月調査・5月公表)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260514-genai/
・PwC Japan「生成AIに関する実態調査2026 春」(2026年6月公表) https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2026.html
・Lenskjold, A. et al. (2023). Should artificial intelligence have lower acceptable error rates than humans? BJR|Open, 5(1).(AIと人間の許容誤り率)
https://academic.oup.com/bjro/article/5/1/20220053/7468261
・Dietvorst, B. J., Simmons, J. P., & Massey, C. (2015). Algorithm aversion. Journal of Experimental Psychology: General, 144(1), 114–126.(アルゴリズム嫌悪) 
https://doi.org/10.1037/xge0000033
・Stafford, L., & Daly, J. A. (1984). Conversational memory. Human Communication Research, 10, 379–402.(会話は5分後に約1割) https://doi.org/10.1111/j.1468-2958.1984.tb00024.x
・Verizon「Data Breach Investigations Report(DBIR)」2025/2026年版(侵害の約6割に人間要素が関与) https://www.verizon.com/business/resources/reports/dbir/
・Vaccaro, M., Almaatouq, A., & Malone, T. (2024). When combinations of humans and AI are useful. Nature Human Behaviour, 8, 2293–2303.(人間とAIの組み合わせのメタ分析)
https://www.nature.com/articles/s41562-024-02024-1

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