病院帰りはママとのお約束
病院帰りの桜並木は、すっかり緑の葉っぱに覆われた。
車内には西陽が差し込む。
二人の子ども達は、ピコラというストロー状のチョコスナックを咥え、食べてみたり、食べるのをやめてみたりしている。
バックミラーに映り込む2才のピコラからは、チョコが溶け、茶色に染まった液体が滴り落ちていた。
もはや何も言う気になれなかった。
早く帰りたい。
チャイルドシートは後で洗えばいい。
私は、もうこのお菓子は買わないと誓った。
帰ったら、妻にも同じ誓いをさせよう。
今回で、私たち夫婦の、何度目の誓いになるのだろうか?
破られた誓いもあれば、守られ続けているものもある。
大抵、そんな事を忘れているのは妻の方。
私はいつも、ママの願いを忠実に守った結果、
『まだそんな事いってるの?』
などと文句を言われる係なのだ。
妻のごはんはいつも美味しかった。
私はそんな事より、いつも優しくして欲しかったけど、洗濯物はいつも綺麗だし、お財布はいつも無駄がないし、子ども達のイベントはいつも準備万端だった。
だから、私一人で、二人の子ども達を耳鼻科に連れていく事なんて、何でもない事なんだ。
私は、力を振り絞って、言葉を発する。
『お菓子をお口に溜め込んでると虫歯になるから、ちゃんと飲み込むんだよ。』
子ども達はトムとジェリーに夢中で、返事もしなかった。
私はため息をつきたい気持ちをグッと堪えて、家の方が車に近づいてこいって思った。
今日の晩御飯はなんだろう?
何もかもめんどくさくて、妻とピコラの件を誓いあうのは明日にしようと思った。
妻のごはんはいつも美味しい。
きっと今日だって美味しいだろう。
今日の晩酌は、レダイグ10年のハイボールにしてやる。
こんなに頑張ったんだ。
2杯飲んでやる。
こんな毎日に生きているんだ。
お酒を控える誓いなんぞ忘れちまえって思った。
だから私は、妻の事を何一つ責める気になれずに、左目を細めてアクセルを踏み続けた。
