ママは幽霊を信じない。
私は夕食後、ウイスキーを飲んで一息ついている。
すると、妻がテーブルの向こう側に座って、話しかけてきた。
妻『ねぇパパ。』
わたし『なに?』
妻『会社のスズキさんさ、ちょっと前まで元気ないって言ってたじゃん。』
会社のスズキさん。
2年くらい前に入社した、20代の女性スタッフだ。
私と妻は同じ会社で働いているので、部署は違ったが、スズキさんの事は知ってた。
どうやら元気がなかったらしい。
わたし『そうなんだ?元気なかったの?』
妻『そうなの。
なんだけどさ、なんかね、お祓いしたら最近すごく元気が出てきたんだって。』
なんだそりゃ。
オカルト話か?
わたし『…ふーん、お祓いって何?どういう事?』
妻『なんかスズキさんの友達に、霊感の強い人がいるんだって。
でね、その霊感の強い友達がさ、スズキさんに言ってた事があったんだって。
私に憑いてた霊、スズキさんに憑いちゃた。
私が帰ったら塩撒いてね。
ってさ。』
わたし『……ふーん。』
妻『スズキさん、その事をすっかり忘れて過ごしてたんだけど、元気が無くなったのってそのあたりからなんだって。』
わたし『……うん。』
妻『それでね、この前、その事を思い出して、塩を撒いてみたんだって。
そしたらさ、なんかそれから元気が出てきたんだって。』
わたし『……ふーん。』
妻『……。』
わたし(え?おわり?)
わたし『え、塩を撒いたら、霊がいなくなったって事?』
妻『そうなんじゃない?』
え?
だからなんなの?
そう思ったけど、そんな言い方をすれば雰囲気が悪くなるのは分かりきってたので、私は聞いてみた。
わたし『そんなシロウトが塩撒くだけで、霊っていなくなるもんなの?』
妻『えー、わかんない。』
わたし『なんか清めの塩とか、そういうやつあるんじゃないの?』
妻『わかんない。普通の塩撒いたんだって。』
話題を持ってきたのは君だろ。
分かんない事ばっかりじゃねーか。
わたし『……まぁ俺は、そういう話、あんまり信じてないからな。
そもそも、霊なんていないって思ってるし。』
妻『そうなの?』
私は、2年前に死んだ親友を思い出す。
わたし『…だって、ぶっころの奴、死んだくせに俺に会いに来なかったもん。
あいつ、幽霊はいるって言ってたくせに。』
妻『あなたが幽霊を信じてないから見えないんじゃない?』
えっ?
わたし『え?
俺が幽霊を信じてないから、会えないって事?』
妻『そうなんじゃない?
信じてないと見えないんだよ。』
わたし『……じゃあもしかしたら、俺が幽霊を信じたら、ぶっころは会いに来るかもしれないのかな?』
妻『もう49日過ぎてるから会いに来る訳ないでしょ。』
なんなんだよ。
わたし『ていうか、ママは幽霊信じてる派なんだ?』
妻『わかんない。』
君はさっきから何にも分かんねーな。
ていうか、わかんないってなんだよ。
いると思うならいる。
いないと思うならいない。
そういう結論を出さないで生きてるの?
妻『私のお婆ちゃんも、一回も私に会いに来てくれないな。
夢に出てきた事もないよ。』
君にも見えてねぇじゃねーか。
妻『お盆になれば、ぶっころさんにも会えるよ。』
いや、だってアナタはお婆ちゃんに会えてないんでしょ??
わたし『……お盆になるまでに幽霊を信じたら、ぶっころに会えるのかな?』
妻『わかんない。』
オメーさっきから分かんなすぎるだろ。
支離滅裂が過ぎる。
ていうか自分だって何にも分かんねーのに、
俺に教えを説く側にいるのおかしいだろ。
わたし『……あーあ、ぶっころに会いてーよ。』
妻『そうだね、なんでよりによって、ぶっころさんだったんだろうね。』
わたし『…………わかんない。』
私たちには、何にもわからなかった。
妻『パパ、子ども達がいるよ。私もいるよ。』
わたし(……そういう事ではないんだけどなぁ。)
わたし(…まぁいいや。)
わたし『そうだね。みんながいるね。』
妻『うん。』
わたし『ママにもハイボールつくろうか?』
