20.何でもない日記【朝マズメを追い越していく】
枕元には穏やかな光。
私は目を覚ます。
娘たちはまだ眠っている。
私は、そっと身を起こした。
『気をつけてね。』
妻の声だ。
『うん、行ってくる。』
起こしてしまったみたいだ。
でも、謝ったりもしない。
その方が結果的に、より早く眠れる事だろう。
外に出ると、真っ黒だった。
ひんやりとした、湿った空気。
深い霧は、月や星の光を遮って、闇の向こうに何があるのかを教えようとしなかった。
玄関の開く音が届いたのか、向こうの荒れた土地でキジが鳴く。
今起きているのは、私と君だけかもしれないね。
そんな事を思い、しかし、そんな事はないか、とも思った。
スマートフォンのライトをつけて、あたりを照らす。
細やかに舞う水蒸気の粒子達は逃げ惑う。
私は闇を押し除けて進んだ。
車のバックドアを開ける。
釣竿とタックルボックスは、昨日のうちに積んであった。
あとは、このクーラーボックスだけ。
エンジンをかけて走り出す。
私のお気に入りの堤防まで、およそ一時間。
途中、コンビニでおにぎりとカップコーヒーを買って、コーヒーはドリンクホルダーに収める。
深夜の田舎道は国道さえ静かで、私はこの広くもない道を突き進んだ。
自由だ。
こんな夜は、いつもあいつが一緒だったな。
私は性懲りもなく、死んだ友達の事を思い出した。
悲しくない訳ではなかったけど、私はもう、ある程度の整理がついていた。
だからもう、あいつのいない海から逃げる事をやめたんだ。
新しい釣竿を買ったんだ。
シマノの、ソアレbbというモデル。
リールは、メバリングで使ってた、レブロス2004h。
エステル0.3号を200mも巻いて、フロロカーボン 0.8号をリーダーに選んだ。
お前に自慢したかった。
でも、俺が喜んでアジングをやってる横で、お前はきっと、スプーンで小型青物を釣って見せるとか言い出すのだろう。
そしたら俺はきっと、
『まだ青物情報は上がってないけどな。』
とか言うんだ。
で、あいつは、
『いや、いるんだよ。』
などと根拠のない強気な発言をして、謎にホッケとかを釣り上げるに違いない。
私は寂しくて、だけど少し可笑しくて、コーヒーを一口飲んだ。
東の空が、ぼんやり明るくなっていく。
もうすぐ朝だった。
だけど海はまだ遠くて、私は夜の闇を走り抜けたんだ。
