24.私の日記【オニタビラコは顧みない】
白い雲が少し早く流れていき、庭先の草花はざわめいた。
黄色いペプラムのカットソーを風にはためかせて、2歳の娘は日差しから逃れようともせずに走っていく。
『おりょうりするー!』
娘が言う。
そして私は、
『いいよ、やろっか。』
と短く答え、後ろを付いていった。
娘はしゃがみ込んで、木の枝を集める。
多分、それが食材なのだろう。
目線をずらし、横を見る。
娘のカットソーと同じ色。
枝分かれした茎をいくつも伸ばし、その先にぽつぽつと細かい花を咲かせていた。
鋭い太陽光は容赦なく首筋を突き刺すだろうに、いつも娘は意に介さず、帽子をかぶる事を嫌がった。
4歳の娘もこの子と同じ頃、同じように帽子を嫌がっていた。
目を細めて空を見ると、白い雲は高い木の向こうに流れていって、きっともう戻ってこない。
どこかで千切れ、形を失い、それでも水は循環するだろう。
面影を重ねても、それは違う人で、君はあの子ではなかった。
私はいつも、4歳の娘も2歳の娘も、同じように叱った。
まだ娘が一人しかいなかった頃は、その苛立ちを草薮に向けられたのに。
『そっちには行かないで、蚊に刺されるよ。』
そう言葉をかけると、ぴたりと遊びを中断して引き返す。
2歳の娘と私は、二人でいると穏やかだった。
妻を相手に取ると、何もかもを拒絶して、天井を仰いでは泣き乱れる。
『なんでパパの言う事は素直に聞くの?』
妻はそう愚痴をこぼしたけれど、私は知ってる。
妻は2歳の娘に、一人の存在として向き合うからだ。
私は区別をできず、無理を強いては、声で人を従わせている。
穏やかな関係の先に、支配があった。
私はすでに気づいていたが、それをどうしたら良いのかが分からなかった。
『できたよー!』
言葉が通じる。
お話ができる。
娘達は二人とも、同じ言葉を使って、同じ遊びをした。
だけど、同じようには考えていない。
それを正しく理解できているのは、妻の方だった。
『美味しそうだねー。』
私が手を伸ばすと、
『たべちゃダメ!』
と、ほっぺたを膨らませる。
4歳の娘の事なら、何でも分かってこれた。
なのにこの子の事は、いつも見誤る。
それでもいつだって、駆け寄ってきては私の両足にしがみつき、私を見上げて笑うから。
君を守っているのは私ではない。
逆なんだ。
日差しに疲れ、だるそうな身体をベッドに横たえて、眠ってしまう君。
4歳の娘なら、暑がりだから布団をかけなくて良かった。
君はどっちだい?
私は少し迷って、お腹にだけ布団をかけた。
もっと君の事を、良く知りたい。
娘が二人になってから、私はいつだって間違えている。
そっとベッドから抜け出して、庭を歩くと、オニタビラコはもう花を閉じ、綿毛を湛えていた。
まだ、半日も経っていないのに。
花はいつだって瞬間だった。
私はいつまでも、人の愛に甘えてはいられなかった。
けれど、風は絶え間なく新しい綿毛を運んできて、新しい花を咲かせた。
私は木々の向こうに去っていく雲を見送って、娘の眠る布団に帰ろうと思ったんだ。

