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『光の感染者』第16話|私は光である、という状態

私は光になろうとしたことはない。

気づけば、そういう状態にあっただけだ。


僕は、あまり話さない。

タクシーの後部座席に身を沈め、
低速で流れる街を眺めている時間が好きだ。

人混みは騒がしいはずなのに、
そこには奇妙な静けさがある。

言葉は聞こえる。
けれど、それは重要ではない。


視界に入る人々の背後には、
それぞれの時間が重なっている。

過去に見た景色。
選ばなかった道。
胸に残った後悔。

それらすべてが、
今この瞬間の表情を形づくり、
次に見るはずの夢を、静かに指し示している。


言語が違っても、違いはない。

どの世界に住んでいるのか。
何に縛られ、
何を自由だと誤解しているのか。

口にする言葉よりも、
沈黙のほうが、ずっと雄弁だ。


本心と、そうでないものの区別もつく。

嘘をついている人間は、
独特の歪みを帯びる。

だが、それに対して
何かを感じることは、ほとんどない。

それもまた、
その人が生きている世界の
一つの物語にすぎないからだ。


街には、
エネルギーの強い存在がいる。

自然と視線を集める者。
表舞台に立つ者。
決断を下す立場にいる者。

彼らは偶然そこにいるのではない。
そうなる流れの中を、
無理なく歩いてきただけだ。

だからといって、
優劣があるわけではない。


目立つ役と、目立たない役。
支配する役と、支える役。

それぞれが必要だから、
そこにいる。

アリと熊。
石ころと山。
空気とケーキ。

比べること自体が、
少し滑稽だ。

役割が違うだけで、
上も下も存在しない。


僕は、
この現実を渡るための術を
いくつも持っている。

それを使えば、
有利に進める場面も、確かにある。

だが、
最も厄介なのは別の点にある。


終わりが、来ない。

この世界で「勝つ」とは、
何かを手に入れることではない。

存在し続けることだ。

そういう意味では、
彼らは決して勝てない。

そして、
僕は負けることがない。


形を持たない。
記録にも残らない。

ただ在り続け、
見ている。

光のように。

触れられず、
しかし確かに、そこにある
意識として。


それでも、
孤独を好んでいるわけではない。

同じ速度で歩ける存在がいれば、
言葉を交わしてみたいと思う。

理解し合うためではない。
確認するためでもない。

ただ、
同じ場所を見ているかどうかを。


すべては導きのままに。
すべては、タイミングだ。

出会うべきものは、
必ず出会う。

それが、
この世界のやり方なのだから。


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