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『現代文学風土記』の名作/恩田陸『蜜蜂と遠雷』/西日本新聞社/静岡県浜松市

『現代文学風土記』(西日本新聞社)から現代文学の名作を取り上げて、簡潔に紹介するnote連載。
 第2回は、恩田陸の直木賞受賞作『蜜蜂と遠雷』です。作品の舞台は、静岡県浜松市で、西日本新聞の連載では、浜松国際ピアノコンクールが開催されているアクトシティ浜松の写真をご掲載頂きました。表題は「土着性回復する過程も描く」です。

西日本新聞「現代ブンガク風土記」(第53回 2019年4月7日)*記事はぼかしています

『蜜蜂と遠雷』は浜松国際ピアノコンクールをモデルとした小説です。恩田陸さんは小説の執筆にあたり、第6回からこのコンクールを取材し、ほぼすべての演者の曲を聴いてきたらしいです。
 この小説は「第6回芳ヶ江ピアノコンクール」の第1次予選〜本選を描きながら、主要な4人のピアニストたちの、コンテストの舞台に上がるまでに経験してきた時間や、音楽に対する価値観を描いています。

 恩田陸著『蜜蜂と遠雷』の概要は、下の通りです。

 近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。
 
 2次予選での課題曲「春と修羅」。この現代曲をどう弾くかが3次予選に進めるか否かの分かれ道だった。マサルの演奏は素晴らしかった。が、明石は自分の「春と修羅」に自信を持ち、勝算を感じていた……。12人が残る3次(リサイタル形式)、6人しか選ばれない本選(オーケストラとの協奏曲)に勝ち進むのは誰か。そして優勝を手にするのは――。

恩田陸
 一九六四年宮城県生まれ。九二年『六 番目の小夜子』でデビュー。二〇〇五 年「夜のピクニック」で吉川英治文学 新人賞と本屋大賞、〇六年「ユージニ ア」で日本推理作家協会賞、〇七年 「中庭の出来事」で山本周五郎賞、一 七年「蜜蜂と遠雷」で直木三十五賞と 本屋大賞を受賞。主な作品に『球形の 季節』『三月は深き紅の淵を』『光の帝 国』『ライオンハート』がある。

『蜜蜂と遠雷(上)』 (『蜜蜂と遠雷(下)』 幻冬舎文庫

 この作品は、演奏者たちの内面を、曲の世界を生きた人間として、空想的に描いている点が面白いです。作中では宮沢賢治の作品世界を参考にして作られた「春の修羅」という「オリジナル曲」が重要な役割を果たしています。
 物語に様々な仕掛けがある点が、直木賞を受賞し、本屋大賞でも一位になった秘訣なのだと思います。全体を通して読みやすい文章ですが、リズミカルな宮沢賢治の詩を「オリジナル曲」として登場させ、その音楽世界を小説らしい言葉で描くなど、実験的な文章表現も魅力的です。

 映画版は、石川慶監督、松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィンの出演で公開されています。この小説は映像化が非常にむずかしい作品ですが、個性的な登場人物たちが奏でる音楽の世界を、四人の人生を通して上手く表現していると思います。

 作中に記されているように、ヨーロッパ発祥のクラシック音楽は、二つの大戦を経てアメリカに多くの人材が流出し、良くも悪くも大衆化されてきました。
「世界はボーダレスに見えても、やはりルーツからは逃れられない。育った風景や風土は確実に身体に刷り込まれている」という今日のクラシック音楽のあり方を問う文章は、文明批評としても本格的なものだと思います。
 この作品についての『現代文学風土記』の書き出しは下記です。

「この小説で直木賞をとれて本当に良かった」と恩田陸は述べている。『蜜蜂と遠雷』は実在する浜松国際ピアノコンクールをモデルとした小説である。静岡県浜松市はピアノの生産量で世界一を誇るヤマハ本社が立地する場所でもある。恩田は執筆にあたり、第6回からこのコンクールを取材し、ほぼすべての演者の曲を聴いてきたらしい。
 この小説は「第6回芳ヶ江ピアノコンクール」の第1次予選~本選を描きながら、主要な4人のピアニストたちが、コンテストの舞台に上がるまでに経験してきた時間や、彼らの音楽に対する価値観を描く。ピアノやクラシック音楽が好きな人にとって至福の現代小説と言えるだろう。

酒井信『現代文学風土記』西日本新聞社、2刷 初稿より

 恩田陸の『蜜蜂と遠雷』についての批評の詳細は、『現代文学風土記』(西日本新聞社)でお読み頂けます。この作品を含め、全国各地を舞台にした現代文学の名作180作品を取り上げた本です。

『現代文学風土記』については、宇野常寛さんの「遅いインターネット会議」でもお話ししています。ご関心が向きましたら、ぜひお目通し頂ければ幸いです。

風土から考える現代日本文学|酒井信
https://www.youtube.com/watch?v=g1soOU0YQbw&t=946s

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酒井信 『松本清張の昭和』講談社現代新書『吉田修一と『国宝』の世界』朝日新聞出版 ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!

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