社会の壁を壊すこと
「請求書が欲しいって言ってくれています」
その日、私にこういう連絡が来た。
「ほう」
「ほう」とは、言ってみたものの、どういう意味だかいまいち理解出来なかった。
彼女は、「なんのはなしですか」を広めたいという気持ちだけで、ZINEを書店に営業したいと言ってくれた人だ。
名を紫吹はるという。
またの名を「なんのはなしです課」切り込み隊長という。というか、誰か肩書付けてあげて欲しい。
彼女の営業のおかげで、「なんのはなしです珈」ZINEは、とある書店で販売されることになるのだが、それはまた別の日に、きちんと記事にすることにする。
私が今日、どうしても皆さんにお伝えしたいことは、この請求書に於ける事件だ。
請求書。見たことはあるのだが、常に恋心や溢れてしまう下心か、他の何かを請求される側の私にとっては、縁遠いものだった。
それは内訳や掛率に沿ったものを明示し、振込先を登録する魔術書みたいなものだ。
こんなものは、作れない。
私の脳裏には、拒否反応とも呼べるべき事態が起きていて、全身でそれを否定していた。
話が通じない。それをすぐに察知した紫吹はるは、すぐさまマイトンとシゴデキOLリィに連絡を取り、私と話したことは無かったことのように秒で解決にいたることになる。
マイトンは、雛形を用意し、リィは社会の仕組みを私に説く。
「社長、しっかりしてください」
まばゆい社会の光を浴びながら、リィは、そう私に問いかけてきた。
私は、一晩考えることにした。
開業して良かったのかと。
開業すれば、打合せと称したデートのコンタクトが来るものだとばっかり思っていた。駄菓子菓子、来る連絡といえば社会人としてしっかりすることを求められているようなことばかりだ。
私は、そもそも社会でしっかりしていないから、「なんのはなしですか」と叫んでいる。もしかして、路地裏の人たちは、実は社会でしっかりしている人たちなのかと少し不安になってきていた。
思えば、変態道を高らかに掲げているマイトンも、普段は素敵なサラリーマンだ。
どんどん、どんどんと不安になっていった。
藁にもすがるように、アホな記事を読み返していたのだが、そこにいる人たちは、いつも通り「なんのはなし」か分からない人たちしかいないので、何の役にも立たなかった。
もう、開業やめようかなと考えていた。そんな時、最後にマイトンの記事が頭に浮かんだ。
私は、請求書という社会の壁に早くもぶち当たって泣いていた。
この記事を読み返してみて、一つ気になることが書いてあった。それは、光のような一言だった。
どこまででも一緒に壁をぶち壊していこうと思います。
こう書いてある。念のためもう一度記す。
どこまででも一緒に壁をぶち壊していこうと思います。
これを読んだ時に、閃いた。
頭にはリィの言葉が萌え袖姿で鳴り響く。
「社長、しっかりしてください」
コニシ木の子は、本当にしっかりすべきなのだろうか。
しっかりしてしまったら、コニシ木の子ではないのではなかろうか。
私は、しっかりすべきではない。
「社長、しっかりしてください」
の本当の意味は、
もしかして「私たちがいます」では、なかったのか。
社会の壁にぶち当たり、言葉の裏を読むことを、すっかり忘れていた。世の中は、表裏一体のはずだ。
そうなると、なんだか腑に落ちてきた。
しっかりしなくて良いんだコニシ木の子。
そのままデレデレフフフしたまま、進む道を探すんだ。
壁が、壊れた気がした。
私は、マイトンに連絡を取った。
「マイトン、覚悟したって言ったじゃない?俺、社会人の日本語とか分からないから、マイトンに翻訳されないといつも判断出来ないじゃん?」
「そうですね。めんどくさいです」
「覚悟をさ、やっぱりカタチにした方が良いと思うんだよね」
「何言ってるか分からないです」
「俺、一回マイトン通さないとやっていけない気がするのよね」
「え」
「だからさ、『なんのはなしですか』の窓口してよ。舵取り」
「え」
「書いてあった。どこまででも一緒に壁をぶち壊していこうと思います。って」
「はい」
「嘘?」
「嘘ではないです」
「じゃ、共同運営だね。俺はこのままで在りたい。これから、「なんのはなしですか」が、どういう方向になるのか分からないし、判断が難しい。すぐに『好きです』とか言ってしまったりしそうで、社会人として対応出来る自信がないんだ。これは、大きな壁だと思っている」
「それは、不安です」
「不安の壁を壊して欲しい。誰が壊せる?」
「私ですね。承りました」
解決した。これで、私は今まで通りに出来る。コニシ木の子としてしっかり生きていける。そして、「なんのはなしですか」が向かう方向に立ち塞がる壁を、きちんと社会人として対応出来る術を身につけた。
感謝します。覚悟はカタチにする。
どこまででも一緒に壁をぶち壊していこうと思います。
こういう人が現れるなら、一緒に夢を託します。
その方が、より面白いから。
今後、「なんのはなしですか」の窓口は、
謝罪取締役 えむのマイトンにすべて任せます。
これは、私がはじめて出来た「なんのはなしですか」を一緒に託すという意味になる。
何が起きるか分からないけれど、しっかり舵取りを任せたい。
もう一人ではなく、本気で動きます。
皆さん。どうかよろしくお願いします。
なんのはなしですか

本編に出てきた役者たち
敏腕営業マン役 紫吹はる
仕事人間と思われがちな役 彩野リィ
謝罪取締役 えむのマイトン
ここは実話です。
窓口は、えむのマイトンです。

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