BMI正常なのに、内臓脂肪だらけだった|TOFIというリスク
体重が変わっていないから大丈夫。 そう思っている人が、一番危ない。
ある経営者にこう言われたことがある。
「俺は太ってないから健康だよ」
BMIは22、見た目もふつう体型、スーツの着こなしもいい。自分もその場では「そうですね」と返した。でも人間ドックで撮った内臓脂肪CTを見たら、内臓が脂肪にびっしり囲まれていた。
自分がパーソナルドクターとして診てきた中で、BMIが正常なのに内臓脂肪がびっしりという人は何人もいた。健診で「異常なし」をもらって、安心していた人たちだ。
今回は、BMIが正常でも内臓脂肪が危険レベルにたまっている「TOFI」と呼ばれる状態について書く。やせ型の脂肪肝・隠れ肥満・健診はA判定なのに中性脂肪やALTがじわじわ上がっている人には、そのまま使える内容にしたつもりだ。
体重計は、内臓脂肪を映さない
医学の世界には、TOFIという概念がある。外は細いのに、中は脂肪だらけ。そういう状態を指す言葉だ。

見た目はふつう。体重も正常。BMIも基準値内。でも内臓脂肪や肝臓など、外から見えない場所に脂肪がたまっている人がいる。
この概念を論文として明確に示したのが、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームだ。477名をMRIで調べ、BMIや見た目だけでは内臓脂肪や肝臓内脂肪を拾いきれないと報告している。TOFIは、代謝リスクの高いタイプとして提案されている¹⁾。
体重計の数字は正常なのに、身体の中ではすでに危険な状態が進んでいる。
自分が診てきた範囲では、このパターンは少なくない。特に40代以降の男性経営者。食事は外食メイン、運動はゼロ。でも食べる量は少ないから体重は変わらない。このパターンが一番多い。
体重やBMIの「中身」を筋肉と脂肪に分ける指標に、FFMIがある。30秒で計算できて、減ったのが脂肪か筋肉かを追える。この指標の話は、メンバー限定記事「俺、肥満っすか?」加藤浩次さんに聞かれて考えた、BMIの盲点|FFMIのススメで書いた。
少食なのに、内臓脂肪が増える理由
冒頭の経営者の生活はこうだった。運動はしない。食事は外食と酒がメイン。でも食べる量は少ないから太らない。
本人は「少食だから大丈夫」と思っていた。実際、体重はずっと変わっていなかった。気持ちは分かる。食べる量が増えていないのなら、太る理由がない。普通はそう考える。
でも問題は「量」じゃなくて「中身」だ。
食べる量が多くなくても、糖質・脂質・アルコールに寄った食生活と運動不足が続くと、脂肪のたまる場所が変わることがある。これは体重だけでは見えない問題だ。ここを多くの人が勘違いしている。
運動をしていないと、筋肉量が年々減っていく。筋肉が減ると、糖を受け止める場所も減る。そこへ会食・締めの炭水化物・寝る前の酒・甘い飲み物が入り続ける。
体重は増えない。でも内側では、余ったエネルギーの行き場が少しずつ変わっていく。皮下脂肪は見た目に出る。だから「太った」と気づける。
内臓脂肪は体重計にも鏡にも映らない。
だから危ない。
ちなみに自分はトレーニングが長いので「筋肉で重い」側の人間なんだけど、それでも一時期、減量をサボって内臓脂肪がえらいことになったことがある。筋トレ歴が長くても油断した瞬間にたまる。
内臓脂肪は、ただの脂肪ではない
TOFIの状態を放置するとどうなるか。
内臓脂肪は、ただそこにあるだけじゃない。増えすぎると、脂肪そのものが炎症を起こす物質(アディポサイトカイン)を出し始める。これが全身に回って、少しずつ悪さをする。
その結果、インスリン(血糖を下げるホルモン)が効きにくくなり、糖尿病のリスクが上がる。同時に、この炎症がだらだらと続いて、血管の内壁にダメージを与える。
動脈硬化は、こういうところから静かに進む。
2013年のメタ分析(内科学の専門誌Annals of Internal Medicine)がある。体重が普通でも血液検査や血圧の数字が悪い人は、同じくらいの体重で検査値がきれいな人と比べて、 死亡や心血管イベントのリスクが約3.1倍だった ²⁾。

ただ、これは観察研究のメタ分析だ。死亡だけを追った数字ではなく、死亡と心血管イベントを合わせて数えた数字だ。「代謝異常が直接の原因で死亡や心血管イベントが増えた」とまでは言えない。それでも、BMIだけで安心するのは危ないということははっきりしている。
「太ってないから糖尿病にはならない」
「何も感じないから大丈夫」
どちらも危険な思い込みだ。
無自覚になりがちなこのパターンは逆に一番怖い。体調に異変を感じないまま突然倒れる。事業の継続にも直結する。自分がパーソナルドクターをやっていて、このリスクだけは何度でも伝えるようにしている。
痩せていても脂肪肝になる
内臓脂肪が多い人は、肝臓にも脂肪がたまりやすい。いわゆる脂肪肝だ。
脂肪肝は昔、「まあ大したことないでしょ」くらいの扱いだった。自分が学生のころも、教科書の記載は軽かったと記憶している。
ところが近年の研究で、この認識が大きく変わった。脂肪肝の一部は肝炎(MASH⁷⁾)に進み、肝硬変、肝臓がんに至る。
そしてこのMASHは、太っている人だけの病気ではない。BMIが正常でも、肝臓に脂肪がたまり、代謝異常が重なれば起こりうる。
2020年に世界中の研究を集めた解析では、太っていない人の脂肪肝が、世界全体で無視できない割合に達していると報告された³⁾。
酒を飲まなくても脂肪肝になる。太っていなくても脂肪肝になる。
この事実をまだ知らない人が多い。
しかも日本人の場合、やせ型の脂肪肝は珍しくない。2021年、73研究・約26万人を統合した日本のメタ分析では、脂肪肝の人の約2割がBMI23未満の「やせ型」だった⁴⁾。
5人に1人。
「やせているから脂肪肝じゃないだろう」は通用しない。
脂肪肝そのものの話は、痩せても脂肪肝が治らない人の共通点で新しい論文と一緒に掘り下げた。体重を落としても脂肪肝が残る人がいるのはなぜかが分かる。
健診票で、まず見返してほしい数字
TOFIのリスクを下げるために最初にやるのは、健診票を見返すことだ。
BMIが正常でも、次の数字がじわじわ悪くなっている人は注意してほしい。
中性脂肪
HDLコレステロール
HbA1c
ALT
γ-GTP
血圧
腹囲
ひとつだけで診断するのではなくて、総合的にみる必要がある。これらがそろって悪い側にずれているなら、「体重は変わっていないけど身体の中身は変わっているかもしれない」と考えたほうがいい。
外来で怖いのは、単発の異常値よりも、正常範囲の中でじわじわ悪くなっているパターンだ。去年より中性脂肪が上がった。HDLが下がった。ALTが上がった。HbA1cが少し上がった。腹囲が増えた。血圧が上がった。
全部A判定でも、並べると景色が変わる。
健診票の数字を横に並べて読むと、何が見えてくるか。TG/HDL比・ALTの前年差・eGFRの下がり方まで、健診オールAで、終わらせない理由で詳しく書いた。
内臓脂肪の量は、どうやって測るのか
体重計の数字だけでは、内臓脂肪の量はわからない。
ここで役に立つのが、健康診断の腹部エコーと採血だ。エコーで脂肪肝の有無がわかる。ただし軽度だと見逃すこともある。中性脂肪・HbA1c・ALTなどの採血データと組み合わせれば、内臓脂肪がたまっている可能性を拾える。
ただしエコーは「脂肪肝があるかどうか」はわかっても、内臓脂肪の量を正確に測る検査ではない。採血も、ALTが正常でも脂肪肝が隠れているケースはある。
だから自分が経営者にすすめているのは、必要な人にはもう一歩踏み込んで、人間ドックで腹部CTを撮ってもらうことだ。
臍の高さで1枚スライスを撮るだけで、内臓脂肪面積(VFA)が数値でわかる。日本では100cm²以上が内臓脂肪型肥満の目安として使われてきた⁸⁾。
もちろんCTには被ばくがあるので、全員が毎年やる検査ではない。健診票・腹囲・生活背景・家族歴を確認して、必要な人が選ぶ検査だと思っている。
VFA・空腹時インスリン・ApoB・高感度CRP・頸動脈エコー。こういう項目は、標準の健診には入っていないことが多い。 調べていないものは、見つからない。
この中のApoBは、LDLが正常でも動脈硬化のリスクを拾える指標だ。なぜLDL正常でも測るべきかは、この記事で書いた。
健診の「異常なし」では拾えない検査項目をどこまで追加すべきかは、メンバー限定記事オールAの死角。血管を本当に守るための検査と生活プロトコル完全版でかなり細かく書いた。
まずは「自分の内臓脂肪がどれくらいありそうか」を数字で疑う。そこからがスタートラインだ。
食事の量を減らせば、解決するのか
じゃあ、食事の量を減らせばいいのか。TOFIの原因は、単純な食べすぎだけではない。食事の中身・運動不足・筋肉量の低下が重なって起こる。
外食中心の経営者は、食べる量は少なくても、糖質・脂質・アルコールに寄りやすい。昼は丼もの。夜は酒と刺身少々。締めに麺。朝はコーヒーだけ。これだと体重は増えにくいのに、内臓脂肪と脂肪肝はたまりやすい。
外来で食事の話をするとき、自分は最初に「3つだけ変えてください」と伝える。全部は無理だから、効くところから3つだ。
①タンパク質を増やす
外食中心の人は、思っているよりタンパク質が足りていない。腎機能に問題がない人なら、1日あたり体重×1.2gが目安になる。体重70kgなら84gくらい。なおこれは運動習慣がない人のラインなので、筋トレを始めた人は、そこからさらに増やす(体重×1.6g)。
タンパク質が足りないと、体は不足分を求めて食べすぎるという説がある。プロテイン・レバレッジ仮説と呼ばれるもので、ポテチが止まらなくなる話と一緒にこの記事で書いた。
②アルコールの頻度を下げる
アルコールは肝臓での脂肪合成を促す。「量は少ないから大丈夫」ではなく、総量と頻度で考える。毎日飲んでいるなら、まず飲まない日を週に数日つくるところからでいい。
③甘い飲み物と精製糖質を減らす
白米・パン・麺類・甘い飲料を完全にやめる必要はない。主食の量を2から3割減らす、甘い飲み物を水やお茶に置き換えるだけでも、肝臓への負担は変わる。
特に見落とされるのが、清涼飲料水やエナジードリンクに入っている果糖ブドウ糖液糖だ。果糖は肝臓に入りやすく、脂肪合成に回りやすい。毎日飲んでいる人は、ここから変えるだけでいい。
内臓脂肪に、なぜ筋トレなのか
有酸素運動も大切だが、TOFIに対して自分が強く話すのは筋トレだ。
理由はシンプルで、筋肉は血糖の大きな受け皿だから。

筋肉量が増えれば、基礎代謝だけでなく、血糖を受け止める力も上がる。インスリンも効きやすくなる。筋トレは、内臓脂肪がたまる根っこに効く。
2022年のメタ分析では、筋トレだけでも内臓脂肪が減ったことが確認されている⁵⁾。RCT(ランダム化比較試験)の統合なので、観察研究より「効いた」と言いやすい。
もう一つ、34研究・2,285名を集めた2021年のメタ分析では、食事制限なしの条件でも筋トレだけで内臓脂肪が減ったと報告されている⁶⁾。
TOFIだけを対象にした研究ではないが、内臓脂肪を動かす手段として筋トレに期待する根拠にはなる。
ただ、「食事を変えなくても筋トレだけで全部解決する」という意味ではない。効果は劇的というより、小から中等度。それでも、食事をすぐ変えられない時期でも、筋トレから始める意味はある。食事改善と組み合わせれば、効果はもっと大きい。
自分がよく伝える最低ラインは、週2回、1回30分。
ジムに行けるならスクワット・レッグプレス・ラットプルダウン・チェストプレスあたりでいい。ジムに行けないなら、自重スクワットと腕立て伏せからでもいい。
完璧なメニューより、ゼロにしないことのほうが大事だ。
体重が変わっていない人ほど、身体の中身を見る
「太ってないから大丈夫」は、一番危ない思い込みだ。
体重計の数字は正常でも、身体の中では静かに脂肪がたまり、血糖の異常・動脈硬化・脂肪肝のリスクが進んでいるかもしれない。
ここが厄介だ。見た目にも、体重にも、自覚症状にも出ない。だからこそ、数字で確かめることが必要になる。自分はパーソナルドクターとして、経営者にこう伝えている。
「会社の決算書は毎年見るでしょう。 自分の身体の決算書も、年に一度は開いてほしい 」
体重が変わっていないから大丈夫。
その感覚自体は、間違いではない。ただ、確かめる場所が違う。
答えは体重計にはなく、健診票の中身にある。
まとめ
TOFIは、BMI正常でも内臓脂肪や脂肪肝が見た目以上に隠れている状態
BMIが正常でも血液検査や血圧の数字が悪い人は、心血管疾患のリスクが高い群に入ることがある
日本の脂肪肝の人の約2割がやせ型。痩せていても脂肪肝は起こる
健診票では、中性脂肪・HDL・HbA1c・ALT・γ-GTP・血圧・腹囲を追う
気になる人は腹部エコーと採血、必要なら腹部CTや追加検査を考える
筋トレ単独でも内臓脂肪が動く余地はあるけど、有酸素や食事改善と組み合わせれば効果はもっと大きい
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
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Schulze MB. Metabolic health in normal-weight and obese individuals. Diabetologia. 2019;62:558-566. doi:10.1007/s00125-018-4787-8.
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