ポテチが止まらないのは意志じゃなくてホルモンだった|プロテイン・レバレッジ仮説
ポテチを一袋食べて「自分は意志が弱い…」と落ち込んだこと、ありませんか?
安心してください。あれは意志の問題じゃありません。 体のホルモンが出している「まだ足りない」というアラームです。
今回は、ポテチやスナック菓子が止まらない原因として注目されている「プロテインレバレッジ仮説」について、最新の論文まで含めてまとめてみる。タンパク質と食欲の関係、超加工食品がタンパク質を薄める構造、そしてFGF21というホルモンの役割。このあたりを、なるべくわかりやすく。
体には「タンパク質を死守する仕組み」がある(プロテインレバレッジ仮説)
まず、ひとつだけ覚えてほしいこと。
人間の体には、タンパク質の摂取量を一定に保とうとする仕組みが備わっている。
「プロテインレバレッジ」と呼ばれるこの現象は、2005年にシドニー大学のSimpson教授とRaubenheimer教授が提唱したもので、ざっくり言うと
「タンパク質の比率が低い食事を食べると、体がタンパク質を確保するまで食欲を止めない。結果として総カロリーが増える」という話。
メカニズムの核にいるのがFGF21というホルモンだ。肝臓が「タンパク質が足りない」と感知すると、FGF21が血中に放出されて脳に届く。すると脳が「もっと食べろ」という指令を出す。カロリーが足りていても関係ない。タンパク質が来るまで、食欲のブレーキがゆるいままになる。
ポテチは、そのアラームを鳴らしっぱなしにする。
ポテチや菓子パンは「低タンパク・高カロリー」のかたまりだ。ポテトチップスは100gあたり541kcalで、タンパク質はたった4.7g。仮にポテチだけで1日ぶんのタンパク質(約60g)を満たそうとすると、コンビニのふつうサイズの袋で20袋以上、7,000kcal近く食べることになる。
もちろん実際に20袋食べるわけじゃない。ただ、体が「タンパク質不足だ」と感じている限り、食欲のブレーキがゆるい状態がずっと続く。気づかないうちにカロリーだけが積み上がっていく。だから「一口だけ」のつもりが、一袋なくなる。
意志が弱いんじゃない、FGF21というホルモンが、正常に働いているだけだ。
22人に、味の同じ食事を3種類食べてもらったら(低タンパク食と過食)
「本当にそんなことが起きるの?」と思いますよね。
シドニー大学の研究チームが、これを実験で検証している。痩せ型の健康な22人(女性16人、男性6人)に、見た目も味もほぼ同じ食事を出した。ただし中身のタンパク質の割合だけを10%、15%、25%と変えてある。同じ人が3パターンすべてを4日ずつ、1週間以上あけて順番に食べる。どの期間も好きなだけ食べていい。被験者は自分がどの条件か知らない。
・タンパク質10%の食事の期間は、15%のときより1日の総カロリーが12%多かった
・その増えた分の約70%が、食事と食事のあいだの間食。とくに塩味系のスナック
・タンパク質25%の食事の期間は、15%と変わらなかった
増やしても、食べる量は減らなかった。
つまりこれは「タンパク質を増やすほど食欲が止まる」という話ではない。「割合が下がりすぎると止まらなくなる」という話だ。

この実験でタンパク質を減らしたぶんは、炭水化物で埋めてある。だから「犯人は炭水化物のほうでは」という疑いは残る。著者自身もそこは限界として書いている。ただ、その後に38の試験をまとめた解析では、薄めたのが糖質でも脂質でも同じように総カロリーが増えていた。動いていたのは、やはりタンパク質の割合のほうだった。
もうひとつ。カロリーを12%多く食べても、とれたタンパク質の量は15%の期間に届かなかった。体は、足りないぶんを全部は埋めきれなかった。レバレッジは「不完全」だ。
だから「タンパク質が満たされるまで食べ続ける」というほど激しい話ではない。ブレーキがゆるんで、じわじわ余計に食べてしまう。それくらいが正確だと思う。
動いていたのは、食欲のホルモンではなかった
同じ22人のデータで、血液中のホルモンまで測り直した報告が2016年に出ている。食欲のホルモンといえば、まずグレリンだ。おなかが空いたと脳に伝える役をしている。逆に、もう満腹だと伝えるGLP-1やCCKもある。
そのどれも、動いていなかった。
代わりに大きく動いたのが、FGF21だった。タンパク質25%の食事の期間と比べて、10%のときは空腹時の血中濃度が6倍になっていた。同じ人が同じ日数、同じように好きなだけ食べて、そこだけが変わった。
食欲のホルモンは動いていないのに、別の仕組みが「足りない」と言い続けている。だから本人には、ただの意志の弱さに見える。
FGF21の差がはっきりついたのは、10%と25%という離れた条件を比べたときだった。10%と15%のあいだでは、差ははっきりしなかった。ホルモンの動きと食べる量の動きが、きれいに一対一で対応しているわけではない。
それでも、よく知られた食欲のホルモンでは説明がつかないというところまでは言える。
超加工食品がタンパク質を「薄めている」(食環境とタンパク質比率)
「別にタンパク質を避けてるつもりはないんだけど…」という人がほとんどだと思う。
問題は、避けているかどうかじゃない。コンビニやスーパーで手に取るもののほうが、勝手にタンパク質を薄めてくる。
米国の全国健康栄養調査(NHANES)9,042名のデータ分析では、超加工食品(コンビニ弁当、カップ麺、菓子パン、冷凍食品など)をたくさん食べる人ほど食事全体のタンパク質比率が下がっていた。最も超加工食品が多いグループでは、タンパク質比率が18.2%から13.3%まで低下。そしてタンパク質比率が下がるほど、総カロリー摂取量が増えていた。タンパク質の絶対量はほぼ一定のまま。

これは横断研究なので「超加工食品がタンパク質を薄めたから太った」とまでは言い切れない。ただ、プロテインレバレッジの予測と完全に一致するパターンではある。
外来で経営者の食事記録を見ると、朝コンビニのサンドイッチ、昼カップ麺、夜は接待で酒と揚げ物……みたいなパターンがかなり多い。本人は「ちゃんと食べてる」つもりなのに、計算するとタンパク質比率が13%台になっている。NHANESの最悪グループと同じ水準。忙しい人ほどこのワナにはまりやすい。
ちなみに超加工食品の怖さは、タンパク質を薄めることだけじゃない。別の記事で「超加工食品が心臓を壊す。『カロリー管理してるから大丈夫』では防げない」という話も書いた。カロリー管理してる「つもり」の人ほど読んでほしい。
心臓と血管に何が起きるかまで知っておくと、コンビニで選ぶものが変わる。
ゆで卵1個で、割合は動くのか
対策は、1日を通じてタンパク質の割合を保つこと。増やすことではなく、薄めないこと。
でも「割合を計算しろ」と言われても忙しい人には無理ですよね。そこで自分が外来で勧めている実践法が2つある。
1つ目は「プロテインファースト」。
食事のいちばん最初にタンパク質を入れる。肉、魚、卵。これを先に食べる。
プロテインレバレッジの研究自体は「1日の食事全体のタンパク質の割合」の話であって、1回の食事で何を先に食べるかを検証したものではない。ただ、タンパク質や野菜を先に食べて炭水化物を後にする食事法が血糖値を改善することは別の研究で示されていて、タンパク質を最初に入れることで満腹シグナルが早く立ち上がるという知見もある。プロテインレバレッジの知見と食事順序の研究を組み合わせた、臨床家としての提案だと思ってほしい。
2つ目は「間食をタンパク質に置き換える」。
自分が外来で経営者に必ず伝える言葉がある。
「おなかが空いたら、まずゆで卵を1つ食べてください」
「足す」と「置き換える」では、効き方がまるで違う。
1日2,200kcal、タンパク質13.3%の人で計算してみる。ゆで卵を1個「足す」と、割合は14%にしかならない。ほとんど動かない。同じゆで卵をポテチ1袋と 「置き換える」と、15%を超える。 実験で食べすぎが起きたのはタンパク質を10%まで下げたときで、15%では起きていない。その15%の水準まで、卵1個で戻せる。

効いているのは卵のタンパク質7gだけじゃない。ポテチの325kcalが消えたぶんも効いている。薄めているものを減らすほうが、足すより割合は動く。
まず一度、試す価値はあると思う。ポテチへの渇望が、落ち着く人はかなり多い。
まとめ
食べすぎの原因は「意志の弱さ」じゃなくて、タンパク質不足へのホルモン応答
ただし「増やすほどいい」ではない。実験では15%から25%に増やしても食べる量は変わらなかった
動いていたのはグレリンなどの空腹ホルモンではなく、FGF21だった
超加工食品中心の食生活は、自覚なくタンパク質の割合を13%台まで下げる
対策は「最初のひと口をタンパク質に」+「間食をゆで卵に置き換える」。足すのではなく、置き換える
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もっと深く知りたい方へ
この記事は「割合」の話でした。次に気になるのは「じゃあ量はどれだけ要るのか」と「食べたあと体の中で何が起きているか」だと思います。
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※本記事は一般的な健康・医学情報の提供を目的としたものであり、特定の個人に対する診断・治療・医学的助言を行うものではありません。健康上の懸念がある場合は、必ず医療機関を受診してください。記事の情報に基づく行動の結果については、筆者は責任を負いかねます。
参考文献
Simpson SJ, Raubenheimer D. Obesity: the protein leverage hypothesis. Obes Rev. 2005; 6(2): 133-142.Gosby AK et al. Testing protein leverage in lean humans: a randomised controlled experimental study. PLoS ONE. 2011; 6(10): e25929.
Gosby AK, Conigrave AD, Raubenheimer D, Simpson SJ. Protein leverage and energy intake. Obes Rev. 2014; 15(3): 183-191.
Shukla AP et al. Food order has a significant impact on postprandial glucose and insulin levels. Diabetes Care. 2015; 38(7): e98-e99.
Gosby AK et al. Raised FGF-21 and triglycerides accompany increased energy intake driven by protein leverage in lean, healthy individuals: a randomised trial. PLoS ONE. 2016; 11(8): e0161003.
Martínez Steele E et al. Ultra-processed foods, protein leverage and energy intake in the USA. Public Health Nutr. 2018; 21(1): 114-124.
Raubenheimer D, Simpson SJ. Protein appetite as an integrator in the obesity system. Phil Trans R Soc B. 2023; 378(1888): 20220212.
Honfo SH et al. Evidence for protein leverage on total energy intake, but not body mass index, in a large cohort of older adults. Int J Obes. 2024; 48: 654-661.
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