見出し画像

NMNを飲んでいない理由|飲むべきか迷っている人へ

NMNの話をするインフルエンサーが、やたらと多い時期がありました。

自分もまんまと乗せられました。ただ、インフルエンサーだけのせいではありません。

デビッド・シンクレアさんの『LIFESPAN(ライフスパン)老いなき世界』を読みました。すごく面白い本でした。老化をただ受け入れるのではなく、科学で変えられるかもしれない。そのワクワクする世界観にかなり引き込まれました。

この本の中には、NMNで代謝や持久力が改善し、DNA修復も活性化するなど、若返りの可能性を示すような、信じられないような動物実験の結果がいくつも紹介されていました。

理屈も通っています。NMNは体内でNAD⁺を作る材料になります。NAD⁺はエネルギー代謝に欠かせません。いわゆる「長寿遺伝子」として語られるサーチュインという酵素群が働くためにも必要です。

加齢で減るとされるNAD⁺をNMNで補えば、老化にブレーキをかけられるかもしれない。そんな話を読んで、すぐに買いました。当時、品質を信頼していたメーカーのNMNです。少し高めのやつを選びました。

1日400mg前後。月1万円近く。3カ月続けました。

ただ、体感は正直なところ全くありませんでした。なんとなく飲むと気分がよかったので、プラセボくらいはあったのかもしれません。でも、少なくとも、そのサプリのおかげだと言える変化は思い当たりませんでした。

今回は、いただいたこちらの質問に沿って、皆さんが気になっているNMNについて改めて考えてみたいと思います。

NMNに何を求めているかで、答えは変わります。

NMNがNAD⁺を増やす作用は、かなり再現されています。

ただ、その先の筋力、持久力、血糖、認知機能、病気の予防、寿命を期待するなら、今のヒト研究で確認されている効果はかなり限定的です。

400mgが多いか少ないかを考える前に、何を得たくて飲むのかを決める必要があります。


NMNは血中NAD⁺を増やす。ここまでは本当

NMNは、体内でNAD⁺を作る材料の一つです。

NAD⁺は、体のほぼすべての細胞で使われる補酵素です。食事から得た栄養をエネルギーへ変える反応に欠かせません。DNA修復や細胞のストレス応答に関わる酵素にも使われます。

NMNそのものが若返り物質というより、 NAD⁺を作るための前駆体 です。

実際に、NMNを飲むと血液中のNAD⁺は増えます。

健康な成人30人に1日250mgを12週間飲んでもらった試験でも¹⁾、健康な中年80人に300〜900mgを60日飲んでもらった試験でも²⁾、血中NAD⁺は上がっています。平均34.7歳の健康な成人を対象にした2026年の試験でも、1日1,000mgを14日飲むと全血のNAD⁺がおよそ2倍になりました³⁾。

NMNを飲んで血中NAD⁺が増えるという結果は、かなり確かのようです。

NMNでNAD⁺が増えたあと、人に何が起きたのか

問題は、その先です。

NMNに期待されているのは、こういう流れだと思います。

  1. NMNを飲む

  2. 血中NAD⁺が増える

  3. 筋肉や脳、代謝がよくなる

  4. 病気が減り、健康寿命が延びる

今のところ人で比較的しっかり確かめられているのは、主に2段目までです。

血中NAD⁺は、飲んだNMNが体内で作用したかを確かめる指標としては使えます。

ただ、血中NAD⁺が高ければ病気が減る、寿命が延びると予測できる指標としては確立していません。

NMNを飲んでNAD+が増えることと、人が健康になることは別です。

効果が出たヒト試験もある

代表的なのが、2021年にScienceへ掲載された試験です。前糖尿病があり、過体重または肥満の閉経後女性25人が、NMNを1日250mg、10週間飲みました。骨格筋のインスリン感受性はNMN群で改善し、プラセボ群では変わりませんでした⁴⁾。

ただし25人の小規模試験で、対象も限られます。体重、体脂肪、肝脂肪、血圧、空腹時血糖、脂質が広く改善したわけでもありません。

質問者さんに年齢が近い研究もあります。平均およそ35歳のアマチュアランナー48人を4群に分け、NMNを飲んでもらった研究です。高容量のNMN群では、換気性閾値付近の酸素摂取量とパワーが改善しました⁵⁾。

ただ、この試験でもVO₂max、最大パワー、体組成は改善していません。参加者は週5〜6回走るランナーでした。週2回の筋トレと有酸素運動をする人とは、運動量も体の使い方も違います。

この2本を見ても、良くなったのは筋インスリン感受性と、換気性閾値付近の一部指標です。一方、体重、空腹時血糖、脂質、VO₂max、最大パワー、体組成は変わっていません。

良かった項目だけを拾えば、NMNはかなり効いているように見えます。変わらなかった項目だけを並べれば、「何にも効かない」とも書けます。

都合のいい研究や評価項目だけを選び、それを全体像のように見せる。これを チェリーピッキング と呼びます。

研究を評価するときには御法度です。でも、サプリの広告やSNSのマーケティングでは珍しくありません。

だから、一本の陽性試験だけでは決めません。うまくいかなかった試験も含め、複数の試験をまとめたメタ解析で、全体として効果が残るかを確かめたいです。

メタ解析では血糖・脂質・筋力への効果は一貫しない

代謝については、2024年に8件のランダム化試験をまとめたメタ解析が出ています。調べたのは、空腹時血糖、空腹時インスリン、HbA1c、総コレステロール、LDL、HDL、中性脂肪です。

いずれにも有意な改善はありませんでした⁶⁾。

筋肉については、2025年のメタ解析があります。骨格筋量の指標、握力、歩行速度、5回立ち上がり、膝伸展筋力を調べています。

どの項目でも改善は支持されませんでした⁷⁾。
ただし、どちらのメタ解析も対象は中高年以上が中心で、筋肉のほうはNRという別のNAD⁺前駆体も含みます。

心筋梗塞、脳卒中、認知症、がん、寿命。こうした結果を確かめた長期試験も見つかりません。2026年に113件の研究をまとめた総説でも、NAD関連指標への作用は比較的一貫していました。一方で機能、代謝、血管、健康寿命に関わる結果はばらつきが大きく、臨床的な抗老化効果はまだ確定していません⁸⁾。

血中NAD⁺は増える。けれど、筋肉や脳、代謝が広く改善し、病気が減って健康寿命が延びるところまでは、今のヒト研究で確認できていません。

健康な30代にNMNを勧める根拠はまだ弱い

健康な30代で運動している人に、NMNを積極的に勧めるだけの根拠は、まだそろっていません。

効かないと証明されたわけではありません。

質問者さんに近い人を対象に、筋力や持久力など欲しい結果まで調べた研究が、ほとんどありません。

ここまでが、一般論としての答えです。

🚩ここから先はメンバーシップ限定です。自分がNMNを今は選ばない理由。クレアチンを残して、NMNを後回しにした判断の差。そして400mgを続ける、減らす、やめるべきかを考えます。

自分がNMNを今は選ばない理由

ここから先は

5,933字 / 1画像

メンバーシップ ¥ 1,000 /月

経営者のパーソナルドクターとして外来で話していることを、ほぼそのまま書いています。病気ではない。でも…

スタンダードプラン

¥1,000 / 月

いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!