【ランチタイム読書その11】 「アルテミス」 アンディー・ウィアー 【いい意味で普通】
まえがき:傑作に挟まれた、知る人ぞ知る極上のエンターテインメント
読中も読後も爽快感が駆け抜ける、極上のランチタイム読書
アンディ・ウィアーの小説を手に取るとき、私はつい息をのむようなサバイバルを期待してしまいます。
本作『アルテミス』もまた、私たちの期待を裏切らない見事なエンターテインメント作品でした。
お昼休みの限られた時間を利用して読み進めるには、これほど贅沢で相応しい一冊はありません。
ページをめくるたびに月の世界が広がり、日常の忙しさを忘れさせてくれる爽快感に満ちています。
読み進める手が止まらなくなるほど、読者を物語の世界へと引き込む力があるのです。
2大巨頭に隠れた「著者の一番のお気に入り」に触れる贅沢
世間では『火星の人』や『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が世界的な大傑作として騒がれました。
それら2つの怪物的な作品に挟まれているため、本作への評価は少し厳しくなりがちかもしれません。
しかし、誤解を恐れずに言えば、これは極めて良質で親しみやすい「めっちゃ普通のSF」なのです。
何より、執筆している著者が一番楽しそうに筆を動かしている雰囲気が紙面から伝わってきます。
作者自身がこの世界を愛しているという事実は、読者にとっても心地よい救いとなるでしょう。
リアルな月面都市「アルテミス」が教えてくれる経済と生活
なぜそこは基地ではなく「都市」として成立しているのか
物語の舞台となるアルテミスは、単なる宇宙飛行士たちの研究基地という枠に留まりません。
直径500メートルのスペースに建造された5つのドームで、2000人が生活を営む完全な都市です。
ここでは物資の運搬や日々の労働が存在し、人々がそれぞれの目的を持って暮らしています。
単なるSFの夢物語ではなく、リアルな生活感がそこかしこに描かれているのが特徴です。
私たちがいつか迎えるかもしれない未来の生活様式を、生々しく想像させてくれます。
緻密に練り上げられた、大国主等ではない新しい社会システム
この月面都市が興味深いのは、アメリカやロシアなどの大国主導で建設されたのではない点です。
経済的な合理性と独立したシステムによって、一つの社会として見事に成立しています。
都市の存続を左右する裏社会のルールや、そこではびこる犯罪の種類までもが緻密に計算されていました。
徹底的に練られた世界観に触れることで、私たちの社会を見る視野も自然と広がっていきます。
新しい仕組みを作り出すことの難しさと面白さを、この作品は改めて教えてくれるのです。
物理と科学、そして「職人技能」で挑む不可能ミッション
地球の6分の1の重力下で繰り広げられる、手に汗握るサスペンス
主人公のジャズが引き受けるのは、大物実業家から依頼された企業買収が絡む破壊工作でした。
普段の運び屋仕事とは一線を画す危険な内容に、彼女は戸惑いながらも破格の報酬のために動きます。
舞台となる月面は地球の6分の1の重力しかなく、一瞬の油断が死へと直結する過酷な環境です。
そのような極限状態の中で展開されるミッションは、まるでハリウッド映画を観ているように躍動します。
映像化が進行中という話にも深く納得できるほど、スリリングな映像が脳裏に浮かぶはずです。
頼れるのは己の溶接技術と、信頼できるオタクな仲間たち
過酷な状況を打開していくのは、魔法のような超科学ではなく、泥臭い物理現象と職人技能です。
ジャズは溶接工である父親譲りの技術と、船外活動の心得を武器にして計画を練り上げます。
さらに、優秀で少しオタクな科学者の友人スヴォボダの協力が、不可能を可能へと変えていくのです。
自らの知識と確かな技術を総動員してトラブルを解決していく姿には、胸が熱くなります。
特別な能力がなくても、磨き上げたスキルと知恵があれば難局を乗り越えられると確信させてくれました。
不完全だからこそ愛おしい、人間味あふれるキャラクターの魅力
密輸をしながら上を目指す、タフで不器用な主人公ジャズ
主人公のジャズ・バシャラは、清廉潔白なヒーローとは程遠い、ちょっと悪いことをしている女の子です。
合法や非合法を問わずに品物を運ぶポーターとして働きながら、なんとか上流階級へ這い上がろうとしています。
その少しハングリーで打算的なキャラクター造形は、人間らしさに溢れていて非常に魅力的です。
最初はどこか掴みどころがない印象を受けるかもしれませんが、読み進めるうちに愛着が湧いてきます。
泥をすすりながらも前を向いて生きる彼女の逞しさは、現代を生きる私たちにも勇気を与えてくれるでしょう。
父親や友人との関わりの中で変化していく、エンタメとしての人間ドラマ
物語が深まるにつれて、彼女を取り巻く人間関係が立体的かつ丁寧に描写されていきます。
地球にいるペンフレンドとの絆や、ハッカーの友人、かつてのライバル(彼氏を寝取った男など)たちの存在が物語を彩ります。
特に、ちょっとすれ違ってしまった実の父親との複雑な親子関係の描写は、胸に迫るものがありました。
これらの人間ドラマは一見するとSFの本筋ではないように思えるかもしれません。
しかし、エンターテインメントとして物語を最高に面白くしているのは、この血の通った繋がりでした。
おわりに:物語の熱量をそのままに、明日からの仕事へ挑むために
ハリウッド映画さながらの爽快な読書体験がもたらすエネルギー
本書を読み終えたときに心に残るのは、濁りのない非常に爽やかで晴れやかな読後感です。
著者の圧倒的なストーリーテリングが、月面での大冒険を最後まで一気に駆け抜けさせました。
歴史的名作に挟まれて目立たないという立ち位置であっても、この作品が持つエンタメの質は一流です。
複雑なプロットに頭を悩ませる必要はなく、ただ純粋に物語の勢いに身を任せる快感がありました。
エンタメとしての楽しさが、読者の心に明日への活力となるエネルギーをしっかりと充填してくれます。
自分の「職人技」を研ぎ澄まし、今ある壁を突破する行動へ
もしあなたが、日々の仕事で行き詰まりを感じているなら、ぜひジャズの戦いを見てください。
彼女が月の砂にまみれながら溶接工具を握る姿は、プロフェッショナルのあるべき姿を体現しています。
道具を使いこなし、科学の法則を味方につけて逆境を覆すアクションは、今すぐ真似できる仕事術です。
本を閉じた瞬間、あなたも自分の専門分野で新しい工夫を試したくてウズウズしていることでしょう。
まずは明日からのタスクに職人のようなこだわりを持って、泥臭く挑戦を始めてみてください。

ーー INDEX(まとめ記事)のINDEX ーー
INDEX:私の読書術と書評
INDEX:集中に集中シリーズ
INDEX:Obsidian記事まとめ
INDEX:【脳健康】
INDEX:【腸健康】
INDEX:【大人の勉強】
INDEX:【勉強法TOP7】
