【ランチタイム読書その9】1987年の予言書『ブラッド・ミュージック』を40年ぶりに再読してみた【前編】
1. 電子書籍セールがもたらした、40年目の再会
1-1. ランチタイムの積み本消化で見つけた『ブラッド・ミュージック』
日々の忙しい業務の合間に、ほっと一息を突くことができるランチタイムのひとときは、私にとってかけがえのない読書の時間となっています。
これまでにも様々な作品を読み進めてきましたが、今回のランチタイム読書シリーズ第9段として電子書籍本棚から選び出したのが、グレッグ・ベアの傑作SF小説『ブラッド・ミュージック』です。
実はこの作品、以前に早川書房の電子書籍セールが行われていた際に、こんなこともあろうかとあらかじめ購入しておいた、いわゆる積み本のひとつでした。
電子書籍のセールというものは非常にありがたいもので、かつての名作やいつか読もうと思っていた作品を、手軽に手元へストックしておくことができます。
だから「セールで安かったからとりあえず買っとけ」は絶対正義なのです!(断言
ということでいつか時間ができたら読もう、そう思いながらライブラリに眠らせていた一冊を、毎度おなじみランチタイム読書という絶好のタイミングで引き出すことになりました。
かつて紙の書籍で読んだ時の手触りを思い出しながら、画面をスクロールする指に少しの懐かしさと、それ以上の期待感が込み上げてくるのを感じます。
私たちは日々、新しい情報や話題のビジネス書に目を奪われがちですが、過去に購入したままになっている本の中にも、今の自分に必要なメッセージが隠されていることが往々にしてあります。
ランチタイムの限られた時間だからこそ、こうした過去の遺産に向き合う集中力が生まれ、贅沢な知的空間が構築されるのかもしれません。
1-2. 「なんか血がすごくてヤバい」から、一歩進んだ大人の読書へ
本作は1987年に日本版が発売され、私はほぼその発売と同時にリアルタイムで読んだ記憶が残っています。
つまり、今回の読書は私にとって実に40年ぶりの再読ということになるわけです。
40年という歳月は、人間の記憶を驚くほど曖昧に、そして同時に美しく濾過してしまうもののようです。
再読を始める前に私が覚えていた当時の感想といえば、とにかくすごい小説だったということくらいしかありませんでした。
ストーリーの記憶に至ってはさらに大雑把で、なんか血がすごいことになって全世界がヤバい方向へ向かっていく、というイメージだけが頭に残っていたのです。
余談ですが私の場合「読んだ記憶」があるだけでも凄いことです(@_@;)
それはさておき、昔から私は、SF小説における難解な科学理論や専門用語の部分は、なんかすごいシステムが動いているのだなと大雑把に解釈するスタイルをとっていました。
理論そのものを厳密に理解するよりも、その設定がもたらす圧倒的な世界観や独自の雰囲気、 センス・オブ・ワンダーに溢れた物語そのものを味わうことこそがSFの醍醐味だと信じていたからです。
しかし、40年という時を経て大人になり、様々な経験を積んだ今、少しは理論の部分も理解したいと今更ながら思うようになってきました。
年齢を重ねるにつれて、物事の背景にある仕組みやロジックへの興味が湧いてくるのは、読書人としての自然な変化なのかもしれません。
では、実際に今回の再読で、生体素子が知性を獲得していく詳細な理論が完全に理解できたかというと、やはりそう簡単にはいきませんでした。
それでも、かつてとは異なる視点で物語のディテールを追うことができ、理論の難解さを超えた先にある物語の力強さを改めて楽しむことができたのです。
若い頃には見落としていた登場人物たちの細かな心理描写や、舞台設定のリアリティが、大人の鑑賞眼によって鮮やかに蘇ってきます。
2. 1987年と2026年を繋ぐ、SF小説の予言力
2-1. 生体素子が知性を獲得するという、今なお色褪せない発想
『ブラッド・ミュージック』の核となるアイデアは、主人公である遺伝子工学の天才ウラムが、自分自身の白血球をもとにして、コンピュータ業界が切望していた生体素子を完成させるというものです。
1987年当時に描かれたこのバイオテクノロジーとコンピュータの融合という発想は、今読んでも全く色褪せるどころか、むしろ現在の科学動向に恐ろしいほど合致しています。
会社から実験中止と成果の廃棄を命じられたウラムは、自分が生み出した知能を持つ細胞ヌーサイトを捨てきれず、なんと自らの体内に注射して研究所から持ち出してしまいます。
この、あまりにも無鉄砲でマッドサイエンティスト然とした行動が、全人類の運命を狂わせる引き金となっていくプロットは、息をのむほどの緊張感に満ちています。
自分の身体を培養器代わりにして最高機密を持ち出すという狂気的な発想は、SF的なセンス・オブ・ワンダーに満ちあふれており、現代の視点で見てもその衝撃が薄れることはありません。
知性を持った細胞たちが、個々の小さな存在からやがて巨大なネットワークを形成し、人間の想像を絶するスピードで進化していく様子は、まさに圧巻の一言です。
理論的な部分が完全に理解できなくても、私たちの体内を流れる血のなかで、独自の意思を持った別の生命体が社会を築き始めているというビジュアルの不気味さと美しさは、読者の五感を強烈に刺激します。

続く後編では、現代の社会情勢から読み解く本作の恐るべき予言性と、物語の構造を大人の視点であえて疑う、さらにディープな楽しみ方へと踏み込んでいきます。
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