見出し画像

30年債の金利上昇がマーケットに与える影響


 2025年11月20日、為替市場では1ドル157円台まで円安ドル高が進み、日本の10年国債の利回りは1.8%台まで上昇しました。

 円安によって当然プラスの影響もあればマイナスの影響もあるわけですが、特にマイナス面に注目されている方も多いと思います。円安によって輸入物価が上昇するという影響がある一方で、金利の上昇によって問題視されているのが、超長期債を保有している機関投資家の含み損の問題です。この記事では改めて、この超長期債の含み損の状況についてアップデートします。

債券の含み損記事まとめ

■ 債券投資の収益と会計の解説(農林中央金庫の件)
■ 福岡県宗像市に見る自治体の債券運用と含み損
■ 今さら聞けない債券の含み損の開示
■ 農林中央金庫の注記情報と含み損の分析
■ 債券の含み損と減損会計とIFRS

超長期債の利回りが急上昇

 10年国債の利回りが1.8%まで上昇してきたというのは多くの方が知っているかもしれませんが、「1.8%ってそんなに高くないよね」と感じている方も多いと思います。では20年や30年、そして40年ではどうなっているのでしょうか。
 20年は2.85%、30年は3.385%、40年債は3.74%まで上昇しています。国際的な比較で言うと、アメリカの30年は4.75%、ドイツの30年は3.3%となっていて、30年債だけで比較するとドイツより日本の方が高くなってきています。

 利回りが上昇すれば債券価格は下落しますが、債券価格は一般的に期間の長いものほど大きく動きます。つまり10年より20年、20年より30年、30年より40年の債券の方がより大きく価格が下落するということになります。では実際にどれくらい下落しているのかというと、最も下落しているのは2020年頃に発行された銘柄です。

価格下落が最も大きいのは2020年発行の40年債

 なぜ2020年の銘柄が最も下落しているのかというと、当時はマイナス金利とイールドカーブコントロールが実施されていた時代で、コロナパンデミックが始まって景気回復の見通しも立たず、金利が当面上がりそうもないとみられていた時期でした。
 
長期債の利回りにも強い低下圧力がかかっていた時代で、その頃に発行された債券は半年に1回入ってくる利子(クーポン)が低いことから、今の金利上昇局面では敬遠され、より大きく価格が下落しています。その結果、2020年発行の銘柄の中で40年が最も大きく価格が下落しているというわけです。
 具体的に見ると、2020年に発行された40年13回債(2060年3月償還)の価格は11月19日時点で42.97です。発行価格は100ですので、そこから半値を下回り、57%下落したことになります。この40年13回債が現状最も価格が下落している国債です。

長期債の評価に使われる「売買参考統計値」

 この価格は証券業協会が毎日公表している「売買参考統計値」と呼ばれるもので、国債は300銘柄以上ありますが、そのすべてが毎日取引されているわけではありません。投資家は保有している債券を毎日評価する必要がありますが、取引のない銘柄は価格が分からないと困る。そのため証券業協会が取引された銘柄からイールドカーブの形状を推定し、取引のない銘柄の推定価格として公開しているのがこの売買参考統計値です。

出所)日本証券業協会

30年債にも下落が波及し始めている

 では30年債はどうなっているのか。最も価格が下がっている銘柄は、これも2020年に発行された銘柄で2050年3月償還の30年66回債、価格は53.94まで下落しています。30年債で60を割り込んでいる銘柄はなんと13銘柄に上ります。30年62回債から74回債まで、2019年3月から2022年3月までに発行されたすべての30年債が価格60を割り込んできているという状況です。

 金融機関にとってこれは非常に厳しい状況です。なぜかというと、価格が50を下回ると会計処理の面で岐路に立たされるからです。

減損か満期保有か、金融機関に迫られる厳しい選択

 債券の会計処理は保有目的によって異なりますが、通常は債券を簿価で貸借対照表に計上し、時価が下落しても会計上は影響しません。含み損はあくまで含み損であり、決算には現れないのが普通です。しかし価格が著しく下落した場合、将来価格が回復する見込みがないと判断されると、含み損を「減損」として計上しなければなりません。この「著しい下落」に該当するのが50%下落です。
 ただし国債の場合は保有し続ければ償還時に元に戻るので、減損を計上しないためには「満期まで売らない」と宣言する必要があります。つまり価格が50%下落してくると、多くの金融機関が「減損として損失を計上するのか」、「満期まで20年30年と塩漬けにして低収益を受け入れるのか」の苦しい選択を迫られることになります。

30年債の発行量の大きさがマーケット全体に影響

 40年債の発行量はそもそも多くなく、2020年頃は1回の入札で6,000億円、年間3兆6,000億円ほどでした。40年債を保有しているのはカタカナ系の生命保険会社や外資系の生命保険会社が中心で、影響を受けるのは限られた企業です。

 カタカナ生保は比較的新しい会社が多く、会社ができた時からALMという概念があり、最初からALMをしっかりやってきているところが多いです。カタカナ生保の資産運用は、円で保険金を支払う保険の運用は国内債で、外貨保険の運用は外貨で徹底し、ALMもしっかりやってきています。

ソニー生命の損失の発生原因とALMの解説

 一方30年債は発行量が非常に多く、2019年から2022年に発行された今価格60を割り込んでいる30年債は合計で30兆円近く発行されています。全てを日本の機関投資家が保有しているわけではありませんが、30年債はほぼ全ての生命保険会社が大量に保有していると言って良いでしょう。したがって30年債の多くが価格50を下回ってくると、一部の企業だけではなく多くの生命保険会社が損失の計上か長期塩漬けかの選択を迫られることになります。

今後の焦点は金利の上昇がどこまで進むのか

 今30年国債の利回りは3.385%程度ですが、これが3.5%、3.6%、3.7%まで上昇してくると、30年債の多くの銘柄が価格50を下回ってくる可能性があります。おそらくそこまでには日銀がオペを増額し、利回りの上昇を抑えるなどの対応措置を実施してくるだろうと予想されます。
 
今後も動きがありましたらしっかりお伝えしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

ソニー生命は、資産と負債の「デュレーション・ミスマッチ(満期のずれ)」を抱えており、これが金利変動時に大きなリスクとなっています。

ソニー生命の損失とESRと再上場のための課題

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー