サウジアラビアのビジョン2030の現実と投資停滞
再びサウジアラビアの話題を取り上げます、サウジアラビアが掲げる「ビジョン2030」の計画について、以前から「非現実的で無謀だ」と解説してきました。日本のオールドメディアでは「サウジはお金持ちの国」といった表層的な解説が多いのですが、実際には計画の多くが行き詰まりを見せており、最近もその厳しさを示す新しい情報が出てきています。この記事ではそのアップデートをお伝えします。
最近ではビジョン2030という巨大プロジェクトに莫大な資金を投じていたり、かつてトランプ政権に取り入ろうとアメリカに6,000億ドルの投資を約束したりと、投資資金をかき集めるのが難しくなってきているのが現実です。
サウジアラビアの情報の不透明性
サウジアラビアは典型的な権威主義国家であり、王族にとって不利な情報は基本的に国内では出てきません。計画の修正があっても政府は説明を行わず、国内メディアも追及しないため、進捗がどうなっているのか掴みにくいのが現状です。したがって、外部からの衛星写真や海外メディアの報道、あるいは一部公的機関が公表するレポートを通じて「うまくいっていない」兆候を拾うしかありません。
私がYouTubeでこうした話題を取り上げると、時にはアラビア語で怒りのコメントが届くこともあり、扱う上での難しさを感じます。それでも現状を伝える必要があると考えています。
トロヘナ計画の遅延と困難
2025年8月20日にブルームバーグが報じたところによれば、NEOM「ネオム」の目玉プロジェクトの一つTROJENA「トロヘナ」が大幅に遅延し、大きな困難に直面しているといいます。トロヘナは砂漠の山岳地帯にスキー場や高級ホテルを建設し、ウィンタースポーツを楽しめるリゾートにする計画です。完成イメージには雪山や巨大な湖、高層ビルが描かれ、2029年には冬季アジア大会の開催地となる予定ですが、現実は厳しいようです。

衛星画像からは一応建設が始まっている様子は確認できますが、関係者によれば2026年完成の予定には到底間に合わないリスクが高まっているとされます。総事業費は190億ドルと巨額で、施設建設が進んでいないだけでなく、最大の課題は「水」の確保です。降水量がほとんどない場所に人工湖を作り、さらに人工雪を降らせる必要がある。標高1,500~2,600mの山岳地帯に海から50km以上離れて水を運び、淡水化した上で供給するというのは極めて困難です。面積も東京ドーム約1,300個分に相当し、これに雪を積もらせることを考えれば、当初から無理がある計画だと私は見ていました。結果として、張りぼてのような縮小版に終わる可能性が高まっていると考えます。
もし本当に「地上300mのサッカー場」、「砂漠の中のスキー場」や「砂漠の中の巨大な湖」、「高さ500mで長さ24kmのビル」が完成したら、その時は私の予想が完全に外れたことになります。その場合、サウジアラビアに行き、実際にそれらを見てレポートする動画を配信しようと思います。
国際大会への影響と信頼問題
サウジは2034年にサッカーワールドカップ開催を予定しており、こちらも奇抜なスタジアム案が示されています。まだ時間はありますが、2029年の冬季アジア大会が遅れれば、その後の国際大会の準備も疑問視されるでしょう。国際的な信用に直結するため、サウジにとっては大きなリスクです。
2029年冬季アジア競技大会の開催国であるサウジアラビアとアジア・オリンピック評議会(OCA)は、開催地変更の可能性を検討し、他国との接触を始めた。競技会場として計画されているサウジのスキーリゾートの建設が難航していることが背景にある。
PIFの減損処理と投資停滞
さらに注目すべきは、サウジアラビアの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」がネオムの評価額を80億ドル引き下げたことです。これは実質的に減損を意味し、一部プロジェクトが成果を生まず、事実上中止されたことを示唆しています。PIFは150ページ以上にわたるアニュアルレポートで投資状況を開示していますが、そこでも純利益は減少し、政府からの資金移管などで資産を膨らませているのが実態です。
中東の情報プラットフォームMEEDによれば、2024年以降PIFはネオムにほとんど新規投資をしていないとされます。総額1.5兆ドルが必要とされながら、追加投資が止まっている現状は「資金不足」の表れにほかなりません。
サウジ財政と国外投資の矛盾
サウジ政府は財政赤字が続くなか、国内プロジェクトの資金をPIFに依存させ、「政府財政は健全」という体裁を保とうとしています。しかし、米国には過去に6,000億ドル規模の投資を約束しており、外貨準備だけでは足りないためPIF資金も投入せざるを得ません。こうした二重負担は明らかに無理があります。資金が枯渇すれば、国内プロジェクトの中止や延期は避けられないでしょう。
他の湾岸諸国への波及リスク
私がサウジアラビアに厳しい視点を向けるのは批判のためではありません。サウジアラビアのビジョン2030は「石油依存からの脱却」を掲げていますが、同様の計画は湾岸諸国全体で進められています。
カタールの「ナショナルビジョン2030」、バーレーンの「エコノミックビジョン2030」、クウェートの「ビジョン2035」など、似た取り組みは数多く存在します。サウジアラビアが失敗すれば、他国も同じ轍を踏む可能性が高く、中東産油国マネーが世界市場に与える影響も大きいため、国際的に無視できない問題です。
総括と今後の見通し
以上のように、サウジの巨大プロジェクトは次々に困難に直面しており、資金不足や工期遅延から「取捨選択」が避けられない段階に入っていると考えられます。2029年の冬季アジア大会、2034年のワールドカップといった国際大会は、サウジの国際的評価を左右する試金石となるでしょう。サウジアラビアの未来だけでなく、中東全体の動向を占う上で、今後もこのビジョン2030の行方を注視する必要があります。
ご参考(サウジアラビア記事のまとめ)
■ サウジ政府系ファンド、任天堂株式の一部を売却(2024/10/9)
■ サウジアラビア経済と欧米企業の関係(2024/10/27)
■ サウジアラビアの観光政策の現状(2024/12/27)
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