ロシア経済の転機とリセッションの兆し
ロシア経済はリセッションに陥るのではないか、金融システムは大丈夫か。最近、こうした不安の声が目立つようになってきました。これまでロシア経済に対して厳しい見方をしてきた識者や評論家だけでなく、ロシア政府の高官自身が自国経済に対して厳しい認識を示しており、注目を集めています。この記事では、ロシア経済の最新動向をデータとあわせてご紹介します。
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムでの異例の発言
注目すべき発言があったのは、2025年6月18日からロシア・サンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムです。このフォーラムは1997年から毎年開催され、今年はグローバルサウスを中心に144カ国から参加者が集まりました。

この会合の場で、ロシア経済発展省のレシェトニコフ氏は「ロシア経済はリセッションの瀬戸際にある」との見解を示しました。また、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁も「経済成長は減速しており、過熱状態からの脱却が進んでいる」と述べました。
ロシア経済は、高い政策金利とインフレ、そして深刻な人手不足という三重の問題を抱えています。特に、労働市場の逼迫が賃金の急上昇を引き起こし、さらなるインフレを招いている状況です。
こうした発言がロシア政府の高官から出ること自体が異例であり、これまで悪化が疑われながらも表立っては語られてこなかった経済の実情が、いよいよ隠しきれなくなってきたという見方も出ています。
GDP成長率は急減速
足元のGDPデータを確認すると、ロシア経済の減速は明らかです。2024年第4四半期の成長率は前年比+4.5%でしたが、2025年第1四半期には+1.4%にまで急減速しています。現時点でプラス成長は維持しているものの、このままいけば近い将来にマイナス成長、すなわちリセッション入りする可能性が高いと見られています。
インフレ率は高水準に
インフレについてはどうでしょうか。2025年5月の消費者物価指数は前年比+9.9%でした。2025年3月には+10.3%でしたが、高止まりの状態が続いていると言えるでしょう。
2022年のウクライナ侵攻直後には+17.8%までインフレ率が跳ね上がりましたが、その後は徐々に落ち着き、2023年4月には+2.3%まで低下していました。それがここにきて再び上昇傾向にあり、現在はおよそ10%程度の水準に戻っています。
戦時経済とインフレ
このインフレ高止まりの背景には、いわゆる「戦時経済」の影響があります。徴兵によって労働力が不足し、人手不足がサービス価格の上昇要因となっているほか、軍事関連需要の増加により、一般社会では供給不足が慢性化し、モノの価格が上がりやすい状況が続いています。
さらに、政府の景気刺激策によって住宅ローンの金利が優遇された結果、都市部では不動産バブルも発生。これによる資産効果がインフレを加速させたと見られています。
政策金利は20%へ
インフレ抑制のため、ロシア中央銀行は政策金利を21%まで引き上げました。2025年6月6日にはわずかに引き下げ、20%となっていますが、依然として極めて高い水準にあることは変わりません。高金利政策が長期化することで、企業活動や家計支出への圧迫が続き、景気悪化のリスクが高まっています。

失業率は過去最低、人手不足が深刻
失業率は2025年4月時点で2.3%と、統計上は過去最低の水準となっています。2022年1月時点では4.4%だったことを考えると、大きく改善しているように見えますが、これは裏を返せば「戦争によって人手が奪われている」という現実の表れでもあります。人手不足により、昨年12月には賃金上昇率が前年比+11.3%という高水準でしたが、今年3月には+0.1%にまで鈍化。
景気悪化の影響で賃金の伸びが抑えられるようになってきており、賃上げ圧力よりも景気の下押し圧力が勝りつつあります。
インフレか景気後退か
2022年以降のロシア経済は、戦争による需要増と景気刺激策により加熱傾向が続いてきましたが、足元ではインフレと高金利がその加熱を冷ましつつあります。景気を下支えしようとして金融緩和や追加の景気刺激策を行えば、再びインフレが悪化するリスクがあります。
一方で、今のような引き締め的な金融政策を続ければ、景気後退は避けられません。つまり、ロシアは「インフレか、景気後退か」という選択を迫られる局面に入ったといえるでしょう。
政府内での評価のズレ
今回の経済フォーラムでは、同じ会場で6月20日にプーチン大統領が「ロシア経済は世界経済を上回る成長を遂げてきた」と強調しました。しかし、その同じ場で経済高官たちが相次いで厳しい認識を示したことは、ある種の異常事態です。これまでのように経済の実態を覆い隠すことが難しくなってきたことを示しているとも受け取れます。
ロシア経済の見立て
私の見立てでは、ロシア経済が今後直面するのは「構造的な変化」です。戦争が始まった当初は、政府支出と軍需によって景気は一時的に上向きましたが、インフレの影響が時間とともに蓄積し、いよいよ経済に深刻な打撃を与え始めた段階に入ったのです。特に人手不足は今後数十年にわたって深刻化する可能性があり、これは構造的に経済の下押し要因として作用し続けるでしょう。
こうした状況から「ロシア経済はもう終わりだ」といった極端な見方も出てきていますが、私自身はそうしたシナリオには懐疑的です。
なぜなら、ロシアはエネルギーや食料の自給が可能な国であり、国内で必要なカロリーやエネルギーをまかなえるという点で、経済の耐久力があるからです。たとえば、ドイツがマイナス成長となっても破綻していないように、ロシア経済も一定の耐性を持っていると考えられます。
とはいえ、戦争の継続はインフレをさらに悪化させるため、長期的に見ると非常に難しい舵取りが求められるでしょう。
私の考え
ウクライナ戦争を終結させることは容易ではないでしょう。今のところ戦争終結の兆しは見えず、そうした中でロシア経済はじわじわと厳しさを増してきています。今回、ロシア政府の高官から経済に対する異例の厳しい見解が相次いで示されたという事実は、まさにロシア経済の転機を象徴していると言えるかもしれません。
ご参考
現在の市場の動きはウクライナ戦争の行方に大きく左右されるものの、ウクライナ戦争がどうなったとしても、今後欧州各国の防衛費が増大するのはほぼ間違いありません。
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