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【連載長編ミステリ】 「雪の地図の終端(仮題)」6

「雪の地図の終端」あらすじ

早春の深山温泉スキー場を突然の地震が襲い、ゲレンデは混乱に沈む。それは地下で進行していた火山活動の前兆にすぎなかった。中腹のロッジには、店主と店員・スキーヤー・ボーダー・地元住民など二十代から八十代までの二十一人が避難し、ひとまず身を寄せ合う。しかし直後に大噴火が発生し、ロッジは電気だけを残して完全に孤立する。固定電話も携帯電話も使えなくなる。外界との連絡は断たれ、救助の見込みも立たない極限状況の中で、不可解な死がひとり、またひとりと続いていく。事故か、自殺か、あるいは他殺なのか。なぜ死は連鎖するのか。恐怖と疑念が人々を蝕み、宗教・科学・心理が交錯する閉ざされた空間で、退任化学教授斎間礼子は静かに推理し、やがて“この連鎖の意味”に辿り着く。


草津温泉日記 2026年6月23日

8時に草津温泉を出て、埼玉の家族の家に移動しました。100kmちょっと、約3時間です。少し前に、 オーディブルで『デスチェアーの殺人』を聞き終わって、数日前から谷崎潤一郎の『細雪』を聴いています。オーディブルは、運転中の眠気を払ってくれます。

では「雪の地図の終端」続きです。


2

4時に起きた高木正悟は、火のついたハイライト片手に、ハンドドリップで数杯分のコーヒーを淹れた。カップに半分ほど飲み、残りは保温ポットに入れる。

4時半より、徹夜したらしい副住職たる息子と朝の勤行を行う。欠伸を押し殺す副住職は頼りない。妻の実家の跡継ぎが少々羨ましい。読経と日課の坐禅を済ませ、渡り廊下経て、自宅に移動した。

煙草に火をつけ、メールチェック。カレンダーに5月の法要のメモを書き加える。正悟は自宅の方でしか、正悟は煙草を吸わない。

7時には愛妻静香の手料理をたっぷり摂った。最近、腹回りが気になってはいるのだが、妻の料理は旨いし、残すと責めるような眼で見られるので、結果、腹一杯毎食たべてしまう。修業時代の粗食は辛かったが、懐かしさも感じる。

食後、腹が落ち着くと、愛車パジェロに向かった。10年以上乗っているが、最近の車に魅力的なものがないので、買い替える予定はない。助手席の床に置いた、生ゴミをゴミ捨て場に投棄して、深山温泉スキー場には9時過ぎに到着した。

レストハウス横の駐車場に、パジェロを置き、年期の入ったノーブランドのウエア姿でこちらも年期入りのフィッシャーの板を担いで、レストハウスの中央を通り抜けて、ゴンドラ乗場へ向かう。ゲレンデを眺めた。

ゴンドラに乗ろうとすると、係員に止められた。
「ああ。これ」ポケットからケース入りのリフトシーズンパスを出した。つい装着を忘れてしまう。「新しいウエアを買うときは、リフト券ポケットのあるものにしなくては」と考えるが、たぶん忘れてしまうだろうとも考える。

正悟の学生時代は、スキーブームとも重なる。あの頃は、リフト・ゴンドラに30分並び、リフトで1本煙草を吸い、5分でゲレンデを滑り降り、またリフトの列に並ぶ、そんな光景であった。タイミングで、他人とペアリフトに乗ることになり、かわいい女の子だとドキドキしたりしたものだ。「修行が足らんな」20歳の自分に心の中で話しかけた。

大学時代、実家の寺に戻る冬休みと春休み。さらに、副住職時代もごく最近までインストラクターをしていた。「どこのスキー場も、ゴンドラや数人乗れる高速リフトを建設したころ、ブームは終わった。皮肉なものだな」正悟は思った。彼自身に関しては、そのころには、インストラクターとしてはリーダー格のひとりだったから、働けない訳ではなかったが。

5歳くらいの女の子を含めた家族連れと一緒に乗ったゴンドラを降りると、準備運動を軽く行いまず一回、下まで滑る。雪も自分の体もコンディション上々であることを確かめ、次はリフトを乗り継いで、山頂へ向かう。

3

四万彰子は、夫・順と和食の朝ご飯を食べていた。本来、朝はパンであったし、今のスキーシーズン以外は洋食なのだが、ロッジでの賄いがパンかパスタとなるので、この季節は和食だ。夫の日常は、退職後は碁会所に通うか、植物をいじっているかである。いずれにしても、マメな男だから、彰子が昼ご飯の心配をする必要はない。

「行ってきます」ほがらかに、彰子が言いながら玄関のドアを開けると、ほのかに何かが香った。
「順くん、蝋梅が咲いたわね」屋内に声をかけて、バス停に向かった。

いつもの時間のいつものバスで、ドライバーに会釈してバスに乗る。そして、いつもの席・ドライバーの真後ろが空いていたのでそこに座る。スキー場までは30分かからないが、急勾配を一気に上っていくので、鼓膜の調整をしなくてはならない。

時々、唾液を飲み込みながら、趣味で続けている翻訳のために、英国のミステリーをkindle端末で開く。どこに発表するというものでもないのだが、ブログに概要を載せたりするのは楽しい。もちろん、まだ日本人のほとんどが読んでいないミステリーを読めるのも楽しい。

電子書籍の中で、2番目の殺人が発見されたところで、スキー場に着いた。直子とタパ君と店を開けると、9時、いつも通り開店だ。

4

落合庸二と妻澄子は、食後のコーヒーを飲んでいた。
「ゴンドラ降りたところに、小さなロッジがあるでしょう?」澄子が話しかける。
「クロワッサンが美味しいんですって。昨日、ゴンドラの中で誰か話してたわ」
そういえば、そんな気もする。庸二はパンに拘りはないので気にとまらなかったか。
「今日のお昼、あそこ行ってみましょうよ」

庸二は、温泉街の蕎麦の老舗に未練があったが、顔には出さず同意した。妻に気を使っているつもりである。
「1日滑るのも疲れるな。昼前に出るか」
「そうね。散歩でもします?」
「いや、風呂に入ってくる」
「そう。じゃあ、私はお土産みてきますね」

澄子は大浴場が好きではない。だから、温泉旅行では浴場付きの部屋をとることにしている。しかし、庸二は違う。来年80歳という年齢にしては、破格の体格を持っているからだ。全体的に弛みはみえるが、180cm近い身長に、筋肉質の体を持っている。温泉は大浴場で体を思いっきり伸ばせるのがたまらなく好きなのだ。わけても深山の湯は熱くて、これも庸二好みである。
「車、手配しておいてくれ」言うと、庸二は大浴場へ向かった。

最後に


そういえば、夕べからNHKオンデマンドで、大河ドラマで『風林火山』を観ています。ああああ「ご先祖さま(伝)」などと呟きながら。

亀治郎(現・猿之助)の、初々しい武田晴信は、恵林寺のお不動様とよく似てて。推しの高橋一生が近習で出ています。

ではまた。


これまでの 「雪の地図の終端(仮題)」はこちら。

これまでの草津温泉日記はこちら。

著書。いずれもkindle会員ならば、無料で読むことができる設定にしてありますので、よろしくお願いいたします。

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