遠い花火の音
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iさん お世話になります。
よろしくお願いします。
お題:”遠い花火の音”がテーマ
締切:7月27日(月)23:59
参加方法: あなたの作品に #風まかせ文芸部 のタグをつけて投稿
毎年この日を楽しみにしている。
早目に風呂を浴び、ビールとつまみを用意して、しばし縁側で待つ。
日が沈み、山の端が藍色に溶けるころ、遠くで花火が上がる。
だが、ここからは見えない。
遅れて届く「ド~ン」という低い音だけが、小さな山間の町を揺らす。
「今年も始まったな」
この音を聞くたび、脳裏には一人の少女が現れる。
終戦から数年後、川向こうの花火大会へ二人で出かけた夜。
私の浴衣の袖をつまみながら、「来年も一緒に来ようね」と笑った少女は、その約束を果たせないまま病に倒れた。
あれから七十年。
山間とはいえ町は様変わりし、人もずいぶん入れ替わり、川には新しい橋が架かった。
花火大会も場所を移し、この縁側からは輝きは見えなくなった。
それでも音だけは、昔と同じように山を越えて届く。
ド~ン
胸の奥へ響く音を堪能するため目を閉じる。
不思議なことだが、音だけを頼りにすると、その時の景色まで蘇る。
屋台の甘い匂い。
川面に映る大輪の花。
朝顔柄の浴衣。
赤い鼻緒の下駄。
少女の横顔。
笑い声。
存外、耳に残る記憶の方が、目に宿る記憶より確かなのかもしれない。
やがて花火は終わりを迎え、虫の声だけが夜を満たした。
「また来年じゃな」
誰に向けた言葉でもない。
だが、その声は夜風に乗って遠くへ流れていった。
翌朝、近所の人が庭先で眠るように息を引き取った老人を見つけた。
穏やかな顔だったという。
次の夏も花火が上がった。
遠くに鳴る音は、ゆく夏を、ゆく人を、その名残りを惜しむように山間に響いた。
柳ジョージ / 時は流れて
