線香花火|風まかせ文芸部
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風まかせ文芸部・第66回お題企画
お題:”線香花火”がテーマ
締切:8月17日(月)23:59
夏祭りの帰り、彼女は誰もいない河原に僕を連れてきた。
コンビニで買った線香花火を一本ずつ手にする。
湿った夜風が吹くたび、二人の浴衣の袖が揺れた。
「これ、最後まで落とさずにできたら、願い事が叶うんだって」
彼女は笑って、火をつけた。
小さな火の玉が、赤く燃える。
やがて細い光が四方へ弾けた。
「きれい」
そう呟いた彼女の横顔を、僕は見ていた。
来年も、その次の夏も、一緒に祭りを見に行こう。
ずっと隣にいてほしい。
けれど…………彼女が先に口を開いた。
「私ね、来月引っ越すの」
学校も住む場所も、全部変わるのだという。
「そっか」
それだけしか言えなかった。
線香花火は、最後の力を振り絞るように火花を散らした。
「じゃあね」
彼女が突然立ち上がる。
僕も笑って手を振った。
その瞬間、線香花火の火玉が、ぽとりと落ちた。
地面には、燃え尽きた黒いかたまりだけが残った。
あの夏から何年経っても、線香花火を見るたび思う。
好きだった。
最後まで、ずっと。
けれど、あの夜の僕は、その一言さえ言えなかった。
aiko / 花火
