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猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹【読書記録】-記憶のなかの猫と父と、私の今

✳︎衣咲(えさき)です

子どものころの、記憶なのか想像なのかもあいまいな、小さな思い出。

村上春樹さんが「いつか書きたかった」と語る父の話は、静かに胸の奥に染み入るようでした。親子の時間と、時代を生きた一人の男としての父の人生。自分の父や母の過去を、私はどれだけ知っているのだろう…そんな問いが、読後にそっと残ります。

父と猫、そして遠い記憶

物語は、村上春樹さんが子どものころ、父と一緒に猫を棄てに行ったという一場面から始まります。
「確かにあったような気がする」―そんな、胸のどこかに残っている記憶。
誰しもにあるような、けれど特別な時間です。

私自身も、幼いころの父との記憶をたどろうとして、ふわっと浮かんでは消えていく断片に似た感覚を覚えました。

その出来事をきっかけに、物語は父の人生へと遡っていきます。
徴兵され、軍馬の世話をする兵士として過ごした日々、戦後の混乱、そして出会いと結婚。
まるで父をひとりの「人間」として見つめる旅のような章立てに、私は自然と引き込まれていました。

戦中の描写は、先日読んだ『星の牧場』のモミイチの姿とも重なり、また『ねじまき鳥クロニクル』に描かれた戦争のシーンに、村上春樹さんの父の経験が投影されていたのかもしれないと、ふと思ったりしました。

偶然めぐってきた一冊

じつはこの本は、読みたくて探していたわけではなく、村上春樹氏の「カンガルー日和」を探していたときに出会ったものでした。

メルカリで21冊セットで出品されていた村上作品の中に含まれていた一冊。
どの本もカバーはとても綺麗な状態で、本体には読んだ跡がちらほら…たぶん前の持ち主の方は、カバーを外して読むタイプだったのでしょう。

本を大切にされていた方なのかな、と想像して少し心が温かくなりました。

さらに、私のお気に入りのYouTubeチャンネル「本と暮らす女でも、村上春樹さんと高研さんによるピクチャーブック『四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』が紹介されていて、ちょうど興味を持っていたところでした。
まさかその前作ともいえるような作品に偶然出会えるなんて、なんだか不思議な縁を感じました。

メルカリで譲っていただいた村上作品21冊

「今」をどう生きるかを静かに教えてくれた

読み終えたあと、ふと考えました。
私は両親の若いころの話を、どれだけ知っているんだろう?
自分が悩んだり、嬉しかったりしているように、両親にもそんな時代が確かにあったはずで、それは二人の命と一緒に、やがて静かに消えていく。

それは少し切ないけれど、「誰かの記憶に残るかどうか」にとらわれることなく、自分の時間を生きようと思わせてくれました。

今を大切にすること。
家族と過ごす時間を慈しむこと。
読みたい本を読み、行きたい場所に行くこと。

それで、じゅうぶん。
そんな気持ちにさせてくれた一冊でした。


#猫を棄てる  父親について語るとき
#村上春樹

ある夏の午後、僕は父と一緒に猫を海岸に棄てに行った。家の玄関で先回りした猫に迎えられた時は、二人で呆然とした。寺の次男に生れた父は文学を愛し、家には本が溢れていた。中国で戦争体験がある父は、毎朝小さな菩薩に向かってお経を唱えていたー。語られることのなかった父の経験を引き継ぎ、たどり、自らのルーツを綴る。

内容紹介(「BOOK」データベースより)


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