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科学的視点がしっくりくる〜『月まで三キロ』読書感想文


昨年秋に放送されたドラマ『宙わたる教室』原作は定時制高校の科学部を描いた、実話を元にした青春科学小説だった。著者の伊与原新さんは東大大学院で地球惑星科学を専攻した、理系の作家さんだ。だからか、『宙わたるー』は読んだだけでは理解しづらい、宇宙を模した実験の話が軸で、それだけだと読者を選びそうなものだがそうならなかったのは、科学が物語に融合していたからだと思う。ドラマ化によりその実験部分が視覚化されたことで、ますます面白い作品になった。

『月まで三キロ』/伊与原新

本書は短編集。どのお話にもちょっとだけ科学的な要素が出て来るが難しい話は一つも無い。
例えば地球から月までは実際は約38万キロなのだが、『月まで三キロ』の意味が分かって、さらに“月”をその人にとって大切な何かの象徴と考えると、三キロは近いと思える。

例えば、『星六花』に出てくる“首都圏雪結晶プロジェクト”は名称は違えど実際に行われている取り組みで、気温や水蒸気量で変化する雪のカタチ(結晶)を観察することで大気の状況を把握し、より正確な雪予報を目指すものだ。そこに“黒い傘”のエピソードが加わると途端に切なさが込み上げる。

『エイリアン食堂』で展開される138億年前の水素の話は壮大で温かい。

海になり、雲になり、生き物の体もつくりながら、地球を巡っている。あなたもわたしも、138億年前の水素でできている。

『エイリアン食堂』より

これ自体は科学というより、科学的視点の心情を描いているだけだ。でもその視点(考え方)があることで救われる人もいる。

本作には子どもが“科学に目覚める瞬間”がある。それは頭の上に電球が灯るような、頭からピンク色の雲がふわふわと出てくるような、そんな出来事だ。誰とどんなタイミングで出会うかでその子のさいわいの道(幸いの道=この言い方は、あるドラマから拝借してます)が見えて来るのだろう。

私が一番共感出来たのは『山を刻む』主人公は私と(多分)同年代の女性で、言い方は悪いが家族に“いいように使われて(刻まれて)いる”ことに気づき傷つきながらも積極的に変えようとしてこなかった自分を悔いている。自分が動けば運命が変わる。私はつい最近それを経験した。それはあれこれ考えるより案外簡単だったりする。少しの勇気と覚悟。いや、彼女の場合は大きな覚悟だったけど。

科学と聞くと研究室にこもって実験の繰り返しかと思いきや、山を歩いたり、空を見上げたり、土を掘ったり、

単なる肉体労働ではないし、机に向かってうんうん唸っているのとも違う。頭と体を同時に使うってことが、人間という動物の性に合ってるのかもしれん

『アンモナイトの探し方』より

その労働から得られた情報の積み重ねこそが、何かを解き明かすための鍵になる。

わかるための鍵は常に、わからないことの中にある。その鍵を見つけるためには、まず、何がわからないかを知らなければならない。つまり、わかるとわからないを、きちんとわけるんだ

『アンモナイトの探し方』より

科学的な視点は意外にも日常に、私の心情にしっくりくる。科学は難しいという思い込みから今までは科学を敬遠してきた。私は科学のことを何も知らなかった。

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