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青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第12巻 靖康の変の地獄と、もはや無力な主人公二人

 北宋末期を舞台に、金の皇女・アイラと宋の技術者・白凛之の愛を描く本作も、いよいよクライマックスです。二人の想いが通じ合ったのも束の間、始まってしまった金の宋進攻。一度は戦いは収まったものの、宋の愚かな行動が金の怒りに火をつけ、ついに崩壊の日が……

前巻の紹介記事はこちら。

 皇帝から疎まれた末に無実の罪を着せられ、毒を盛られた白凛之。そんな凛之を奇跡的に助けたアイラは、献身的に看病する中で、ついに互いの想いを確かめるのでした。
 その一方で、度重なる宋の違約に怒ったオリブ率いる金軍はついに南進を開始。腐敗しきった宋に抗う力はなく、使者に立たされた康王は、死ぬような思いをしながらも辛うじて和議をまとめます。

 しかしそんな状況で、自分だけ都を脱出していた徽宗が和議を反古にすると言い出したことから、事態はいよいよ避けられない破滅へと突き進んでいくのでした。


 自分は上皇の身で皇帝(欽宗)の陰に隠れ、寵臣であった蔡京と童貫に国内のヘイトを集めさせて生贄にする。そして自分はお気に入りの蔡攸を手元に残し(史実では蔡攸も流刑になりましたが、本作では替え玉を使用したという設定!)、いまだほしいままに振る舞う徽宗。
 そして徽宗に心酔する蔡攸は、この隙に金に打撃を与えるべく、意表をついた策を企てるのですが……

 他の巻の表紙とは明らかに違うノリで、この巻の表紙を飾っている蔡攸。史実でも徽宗に寵愛された蔡攸ですが、本作では奸計を巡らせるだけでなく、自ら刀を手に動くというはっちゃけた活躍ぶりで、物語冒頭からアイラたちの前に立ち塞がってきました。
 この巻の前半では、そんな蔡攸の徽宗への忠誠心が大暴走することになります。その結果、大金星を挙げたといえばいえますが、豈図らんや、それが徽宗と宋の命脈を断つ引き金となるとは!


 かくして、この巻の後半からは、様々な形で「靖康の変」による地獄が始まります。
 物語が始まった当初の、緊張を孕みながらも、それでもなんとか歩み寄りを見せようとしていた両国の姿はなく、あるのはただ、復讐に燃えて宋を叩き潰そうとする金と、その金の前に右往左往する宋のみ。
 これまで両国の複雑な関係性の象徴ともいうべきアイラと白凛之は互いに寄り添っているものの、しかし事ここに至れば、二人はあまりに無力としかいいようがありません。

 本作においては、アイラがその自由な精神と立場から様々な場に姿を見せ、両国の間の溝を最小限に防いできたといえます。
 しかしこの巻においても同様の行動に出たアイラ(さすがに終盤の展開にはちょっと無理があったような気もしますが)の努力が、ほぼ全てにおいて徒労に終わっているのは、これもまた象徴的というべきでしょう。

 そしてあるいは戦いを終える力を持っていたかもしれない凛之の方もまた、自分の生み出した地龍という兵器の罪深さと、父の仇討ちという目的の虚しさに沈むばかり。
 いわば本作の原動力であった二人の行動が全て裏目に出た形となった今、救いがどこにあるかは全くわかりません。

 それどころか凛之の地龍は思わぬ人物に受け継がれ、とんでもない役割を果たすのですが――これはこれで、痛快に感じてしまうのも申し訳ない話ですが――その行き着く先が、明るいとも到底思えないのです。


 はたしてこのまま物語は悲劇と惨劇のみで終わってしまうのか? アイラ、そして凛之と並んでもう一人、金と宋を結ぶ人物であり、この巻のラストで大きな運命の変転を迎えた康王に、最後の希望が託されたという感すらあります。
(とりあえず、本作には洗衣院は登場しないようなのは救いですが……)


前巻の紹介記事はこちら。


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