通じ合った二人の想い 始まった二つの国の悲劇 青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第11巻
ついにこの時が訪れました。宋崩壊の時――正確には宋崩壊の始まりの時が。自分の信念を貫いた末に周囲の人々から裏切られ、毒を盛られた白凛之の運命は。そして宋の金への裏切りが何をもたらすのか――いよいよ物語は終局に向かいます。
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金を裏切る宋と遼の間の密約の背後にいた蔡大学士一派。しかし君側の奸と思われていた彼らこそは徽宗皇帝の忠臣――すなわち、すべては徽宗の命で行われていたことでした。
そして地龍を金との国境に配置するという徽宗に諫言し、金との和を説いた凛之は、皇太子とも決裂し、ついに金との内通の罪を着せられて流刑となります。
しかしこの時代の政治犯の流刑の定番として、凛之は途中で毒を飲まされて川に放り込まれ……
かくして絶体絶命の窮地に陥った凛之ですが、そこに愛鳥のエルの導きで駆けつけたのはアイラ。そして彼女の看護で目を覚ました凛之――というのは、これはこの物語の冒頭で、エルを追って川に落ちたアイラを凛之が助けたくだりの裏返しというべき展開であることは言うまでもありません。
しかしその時と大きく異なるのは、単純に二人の立場が入れ替わったということだけではありません。その後、凛之がアイラという人間のことを知り、そして心身共に傷ついてすべてを失った中で、(無意識とはいえ)己の想いに素直になった凛之の口から発せられた言葉は……
かくして、思わぬドラマチックな形で、二人の想いは通じ合うことになります。ここで二人の物語は、一つの落着点を迎えたといえますが、しかしその一方で、二つの国の間の悲劇はこれから始まるのです。
凛之が案じていたにもかかわらず、度重なる宋――というより徽宗の裏切りに怒り心頭に達し、ついに宋侵攻を決意した金。その東路軍として燕京を瞬く間に陥したオリブは、その勢いを駆って都に迫ります。そしてこの危急存亡の秋に、徽宗が取った行動は何であったか。
いやはや、その行動というのがあまりにも最低すぎる内容で、皇太子の「え? 何を言ってるんだ?」という言葉が読者の気持ちも代弁しているとしか言いようありません。それが史実とはいえ、これは宋の斜陽も無理はない、と思わされるのですが――しかしたまったものではないのは、そこに巻き込まれた人々です。
皇太子はもちろんのこと、アイラを引き止めることも凛之も救うこともできなかった康王、そして(徽宗の行動の前だったとはいえ)凛之の同僚であった天鼓院の人々――己を頂点と信じて疑わない「皇帝」の行動によって、運命を狂わされた人々の姿は悲惨というほかありません。
とくにこれまで等身大の、ごく普通の気の良い人々として描かれてきた天鼓院の人々に関する描写には、ただ言葉を失うばかりです。
あるいは本作において凛之の存在は、人としての理性――あるいはあるべき道の象徴だったのかもしれません。そして心ならずとはいえそれに背を向けた人々の辿る運命は、もちろん歴史に翻弄された結果とはいえ、当然の帰結だったのかもしれません。
しかし、彼らをこの悲劇に追い込んだ者たちは、まったくそれを気に留めていないことが、この巻のラストで明らかになります。そしてそれこそは、本当の、最後の悲劇の引き金となるのですが――本作がそれをいかに描くのか。そこにわずかでも希望が残ることを期待したいところではあります。
(それにしても徽宗は何か成算があるのか、それとも単なる勘違いおじさんなのか――後者だとは思うのですが)
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