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Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 6回目:レビ記16章とミシュナ「Yoma」 4~5章における祭儀空間の法理――血の攪拌、炭の採取、および両手いっぱいの香の規定

*本稿は「ヨム・キップール(Yom Kippur:贖罪日)」の祭儀構造を、旧約聖書(トーラ)レビ記16章と、その実効的解釈を規定する口伝律法ミシュナ「Yoma(ヨマ)」篇の原典に基づき解明するシリーズである。

 第6回となる本論では、祭壇の炭の採取、金のシャベルの仕様差、及び『両手いっぱいの香』の計量法理を扱う。日常のtamid(タミッド)奉仕と贖罪日特有の規定を比較し、神殿内における方位と大理石の配置が持つ法理的意味を詳述する。


前回の振り返り


 前回は以下の内容を確認した。

【1】白い祭服への着替えと厳格な聖別

 日毎の奉仕(tamid:タミッド)を終えた大祭司は、パルヴァの部屋で2回目のmikvehを行い、最高級の亜麻布で作られた「白い祭服」に着替える。

 この際も「手足を洗う→脱ぐ→mikveh→祭服を着る→手足を洗う」という順序が守られる。白い祭服は、1年でこの日特有の奉仕の為だけに用いられるものである。

【2】贖罪の雄牛の配置と方位の法理

 大祭司は、自分と一族(アロンの家)のために献げる雄牛の元へ向かう。

 雄牛は祭壇と神殿の入口の間に連れて来られる。

 雄牛の体は南向きだが、その顔は至聖所がある西に向けられる。

【3】第1の告白:自己と家族の浄化

 大祭司は雄牛の角の間に両手を置いて強く押し(按手)、自分と自分の一族の罪を告白する。

 告白の中で大祭司が「主(神聖四文字)」の名を唱えると、周囲の祭司や会衆は地にひれ伏し、「御名は祝福されている。その栄光は世々に及ぶ」と応唱する。

【4】2匹の雄山羊の選別と「くじ」

 祭壇の北側で2匹の雄山羊に対して「くじ」が引かれる。

 一方は「主のもの(いけにえ)」、もう一方は「アザゼルのもの(荒れ野へ追いやるもの)」として選別される。

 アザゼルの雄山羊には頭に、屠られる雄山羊には首に赤い羊毛が結び付けられる。アザゼルの雄山羊の羊毛は、罪が赦された印として赤が白に変わると信じられており、東(追いやられる方向)に向けて配置される。

【5】二重の按手の論理:全祭司共同体への拡大

 大祭司は再び雄牛の元に戻り、2回目の按手と告白を行う。

 1回目は「自分と家族」のため、2回目は「アロンの子孫(全祭司)」のために告白する。これは、まず自分自身を清めてから他者のために執り成すという、贖いの順序性に基づいている。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造(5回目):ミシュナ「Yoma(ヨマ)」篇第3〜4章に基づく大祭司の清め、および雄牛への二重の按手とアザゼルの雄山羊における祭儀構造の規定

https://note.com/mishnah/n/n05784a95be57

雄牛の屠殺と血の攪拌:神殿内4列目の大理石における空間規定


 今回はその続きである。雄牛に2回目の按手と告白をした後、雄牛を屠る場面である。

 大祭司は雄牛を屠り、その血を祭器具で受け、誰か他の祭司に渡す。その祭司は神殿から4番目の列の石の上に立ち、血が固まらないようにかき混ぜる。

(Yoma 4:3)

 大祭司は雄牛を屠る時、完全に刃を通さない。これはtamidの小羊の場合と同じである。他の祭司がやり遂げる。

 大祭司は、首から噴き出した血を祭器具で受け、これを「誰か他の祭司に渡す」。血を使うまで少し時間があるので、その間に凝固しないように、他の者がかき混ぜるのである。

 この時、かき混ぜる役割の祭司は「神殿から4番目の列の石の上に立ち」とある。神殿の床は大理石で敷き詰められており、神殿側から4つ目の列の石の上に立つのである。

4列目の大理石

 この写真では細いスペースにしか見えないが、階段側から祭壇側へ数えて、4列目の大理石の上でかき混ぜるとイメージして欲しい。

 次である。大祭司は祭壇の上に上る。

 大祭司はシャベルを持ち、祭壇の上に上って炭を脇に寄せる。最も内側の炭から取り出し、それを4番目の列の石の上に置く。

(Yoma 4:3)

 他の祭司に血をかき混ぜてもらっている間、大祭司はシャベルを持って、祭壇上の炭を脇にどけ、中の炭を取り出す。

 この炭を使って、聖所の中で香を焚くことになる。

 大祭司は炭をシャベルに盛り、祭壇を下りる。それから神殿の床の4列目に炭を載せたままシャベルを置く。これは血をかき混ぜている祭司の隣に置くような形になる。

 次節に進む。この箇所では毎日の炭を取る奉仕と、ヨム・キップールにおける炭を取る奉仕を比較している。

 毎日祭司は炭を銀のシャベルですくい、金のシャベルに移す。しかし今日大祭司は金のシャベルですくい、炭を持って行く。
 毎日祭司は4カブのシャベルですくい、3カブのシャベルに移す 。しかし今日大祭司は3カブのシャベルですくい、炭を持って行く。

(Yoma 4:4)

 「毎日祭司は炭を銀のシャベルですくい、金のシャベルに移す」とは、最初炭を取る時には、通常銀のシャベルで取り、それを金のシャベルの中に移して、聖所の中に持って行くことを言っている。

 ヨム・キップール当日には、大祭司は金のシャベルを直接炭の中に突っ込み、取り出し、それを聖所へ運ぶ。しかも後述つの通りこのシャベルはヨム・キップールの為だけのもので、最高級のものである。

カヴの容量解析:日常の奉仕と贖罪日における計量比較


 「毎日祭司は4カブのシャベルですくい、3カブのシャベルに移す」とは、銀のシャベルで4カヴ取り、3カヴの金のシャベルに移すことを言っている。

 1カヴで卵24個分とあるので、3カヴで72個分、4カヴで96個分である。このように卵の数だけ見ると、大量に感じる。

 これは割った後の中身の分量について言っている。以下のように箇条書きに出来る。

① 卵1個分:2オンス(60mL)
② 卵24個分:1カヴ(1,440mL)
③ 卵96個分:4カヴ(5,760mL)

 シャベルについては、次のようにまとめられる。

金のシャベル:3カヴ(4,320mL)
銀のシャベル:4カヴ(5,760mL)

 そこで通常の日とヨム・キップールは次のように比較される。

【1】通常の日

 銀のシャベルで炭を5,760mLすくい、4,320mLを金のシャベルに移す。

【2】ヨム・キップール

 金のシャベルで炭を4,320mLすくい、4列目の床に置く。

 通常の日は1カヴ小さいシャベルに移すことになるので、1カヴは床に落ちる。

 この辺りの状況は、下の記事に詳しくまとめている。不安な方はそちらを確認して欲しい。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第10回:金銀のシャベルの容量差と安息日の制約、sherertz(シェレツ)の死骸を覆う銅のポットの多目的運用(5章4節〜5章5節)

https://note.com/mishnah/n/n48516d829eb8

 次に進む。

祭壇からの炭火採取:金のシャベルの物理的特性と法理的差異

 毎日、それは重い。しかし今日、それは軽い。
 毎日、そのハンドルは短い。しかし今日、それは長い。
 毎日、その金は黄色である。しかし今日、それは赤い。

(Yoma 4:4)

 これは通常の日とヨム・キップールでは、「金のシャベル」も別々の仕様であったことを言っている。

 「毎日、それは重い。しかし今日、それは軽い」とは、ヨム・キップールの日に使う金のシャベルは、大祭司の体力を考慮して、軽めに作られていることを言っている。

 「毎日、そのハンドルは短い。しかし今日、それは長い」。ヨム・キップールのシャベルが長めに作られているのは、至聖所の中でする奉仕の都合である。これについては、その箇所で検討する。

「毎日、その金は黄色である。しかし今日、それは赤い」とは、ヨム・キップールのシャベルで使われている金は最も純度が高く、最高級という事である。

 今の状況を確認する。

① 4列目に祭司が雄牛の血をかき混ぜている。

② 4列目に炭を盛った金のシャベルが置かれている。

 ここで香を準備する。次のように書かれている。

レビ記16章12節の具現化:両手いっぱいの香と二重構造の匙

 彼らは大祭司にkaf(カフ)とbazich(バズィーフ)を渡す。大祭司は両手でカップを作り、出来るだけ多くの香を取って kaf(カフ)の中に入れる。大きな者はその大きさに従い、小さな者はその大きさに従う。

(Yoma 5:1)

 kafとbazichについては以前に解説した。前者は大きなスプーンであり、後者は小さなスプーンとして、前者の中に嵌っている。その中に香を入れる。

このように2重構造であることで、もし小さなスプーンから香粉がこぼれても、外側の大きなkafがそれを受け止める仕組みになっていた。

 次の記事からも確認出来る。

◉ミシュナ『Tamid(タミッド)』篇・逐条完全解説第10回:金銀のシャベルの容量差と安息日の制約、sherertz(シェレツ)の死骸を覆う銅のポットの多目的運用(5章4節〜5章5節)

https://note.com/mishnah/n/n48516d829eb8#5987524a-29a1-48ac-b2dd-c817012420d6

 「大祭司は両手でカップを作り、出来るだけ多くの香を取って kaf(カフ)の中に入れる。大きな者はその大きさに従い、小さな者はその大きさに従う」とは、大祭司が手でカップを作り、そこに香を受け取ることを言っている。

 分量が決まっているのではなく、「両手いっぱい」という点が基準になっている。これは次のトーラの規定に拠っている。

 ・・次に、主の御前にある祭壇から炭火を取って香炉に満たし、細かい香草の香を両手にいっぱい携えて垂れ幕の奥に入り・・

(レビ16:12)

 祭壇から炭を取った後、「両手いっぱい」の香を取るのである。それをkafの中に入れる。これを左手に持ち、右手に床に置いた金のシャベル(炭の入ったもの)を持つ。

 次のようにまとめられる。

【1】右手

 金のシャベルを持つ。中には祭壇の炭が入っている。

【2】左手

 kafを持つ。中にはbazichがはめ込まれている。そこに香が入れられている。

 今回の解説は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Yoma』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n7222129b891f

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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