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口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』の全法理 第6回: 「着用」の厳格な境界線と、衣類を売る商人・仕立て職人の商行為における「自己利益」排除の法理(9章2節〜6節)

*本稿では、口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』第9章2節から6節を扱い、衣類の異種混交(shaatnez:シャアトネズ)に関する禁止と許容の厳格な境界線を解き明かす。

 トーラの文言が禁じる「着用」の本質について、家の中でのカジュアルな着用、重ね着の一番上、あるいは不当な没収に対抗するための着用等、ミシュナで禁止される具体的事例を検証。

 他方でトーラの巻物用タオル、死者の経帷子、あるいは衣類を売る商人や職人が業務上扱う生地など、例外的に許容され、または禁止される事例や条件を網羅。

 Rambam(マイモニデス)やRav、Roshらの伝統的な註釈を紐解きながら、「自己の利益(防寒・遮光)を兼ねているか否か」というミシュナ特有の法理の核心を提示しつつ、2,000年前の「律法の現場」を蘇らせる。


前回の振り返り


 前回は、口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』第8章1節から第9章1節に基づき、kilayimの4大原則と、特に衣類の異種混交「shaatnez(シャアトネズ)」の詳細な法理について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】kilayimの基本4原則(8章1節)

 ミシュナは、対象によって禁止の厳格さが異なることを定義している。

①ぶどう畑

 栽培・維持だけでなく、収穫物の使用や利益を得ることも禁止され、焼却義務がある。

②植物(穀物・野菜)

 栽培・維持は禁止であるが、食べること・使うことは許容される。

③衣類

 作ることや所有は許されるが、身に着けること(着用)のみが禁止される。

④動物

 飼育は可能であるが、異なる種類同士を交配させることが禁じられている。

【2】衣類のkilayim「shaatnez(シャアトネズ)」

 衣類における異種混交はshaatnez(シャアトネズ)と呼ばれ、厳密な定義がある。

①定義

 「羊毛(ウール)」と「亜麻(リネン)」の組み合わせのみを指している。

②根拠

 レビ記19章19節と、その具体的な素材を限定する申命記22章11節から演繹されている。

【3】神殿奉仕における例外規定

 原則として禁じられている羊毛と亜麻の混用であるが、神殿における祭司の装束には例外がある。

 祭司の飾り帯については亜麻の糸に加え、青・紫・緋色の「毛糸(羊毛)」が使われており、これは神の命令(出エジプト記39章29節による例外とされる。

【4】第3の素材による「無効化」の法理(9章1節)

 異なる繊維を混ぜる際の判定基準として、混合比率による「無効化」という考え方が示されている。

①ラクダの毛と羊毛の混合例

 大部分がラクダの毛であれば、羊毛の存在が「無効化」され、亜麻と併用しても許容される。

 羊毛が過半数、あるいは半分半分である場合は、羊毛が無効化されないので、亜麻との併用は禁止される。

②麻(hemp)と亜麻の混合例

 上の原則は、麻と亜麻を混ぜた繊維を羊毛と用いる場合にも適用される。

 以上により、衣類のkilayimはぶどう畑のような農業上の掟と異なり、「多数派による無効化」といった法理も適用しつつ運用されていたことが分かる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』の全法理 第5回:衣類の異種混交「shaatnez(シャアトネズ)」の定義と、神殿祭司の例外および素材混合比率の無効化法理(8章1節〜9章1節)

https://note.com/mishnah/n/n6aa5286c7a61


ミシュナ『Kilayim』9章2節:状況・環境に依存しない着用禁止の絶対性


 今回は「Kilayim」9章2節から開始する。次のように書かれている。

 カジュアルなkilayimは許容されるということはない。たとえ10枚重ねの一番上であっても、それをまとうことは許されないし、不当な取り立てにおいてもそうである。

(Kilayim 9:2)

 「カジュアルなkilayimは許容されるということはない」とは、家の中で着るものであるなら、またはプライベートで着る程度なら、shaatnezが許されるという事ではないことを言っている。

 公の場に出る衣装であろうと、プライベートであろうと、shaatnezを着用することは許容されない。

 「10枚重ねの一番上であっても、それをまとうことは許されない」とは重ね着して、直接肌に触れなくても、kilayimは許されないことを言っている。

 「不当な取り立てにおいてもそうである」については、若干の解説を要する。

 前回見た通り、衣類のkilayimで禁止されるのは着用だけであり、作ることも可能であった。

 衣類を商売している者が違法な取り立てを受けた時、商品を私物と見せかける為に、自ら着用することがあり得る。

 ましてその取り立てが不法なものであるなら尚更だが、商品がshaatnezである場合、着用することは禁止される。

 次節に進む。

ミシュナ『Kilayim』9章3節:使用目的(非着用)による例外規定とラビ・エルアザルの異論

 トーラの巻物の為のハンドタオル、ハンカチ、バスタオルはkilayimに該当しない。ラビ・エルアザルは禁止する。
 床屋のエプロンはkilayimに該当する。

(Kilayim 9:3)

 この節ではまず、衣類のkilayimに該当しないものを挙げている。それはトーラの巻物のハンドルを包むハンドタオル、ハンカチである。

 朗読する時に、巻物に直接触れることのないように、使われるものである。

 「バスタオル」は文字通りに解されているが、Rambamは皿をふく為の「ふきん」や床をふく為の雑巾のように理解しているようである。

 どちらにしても、これらは着用するものではない。そこで亜麻と羊毛で作られた布地であっても禁止されない。

 ラビ・エルアザルはこの点で異論を唱えており、ハンドタオル、ハンカチ、バスタオルはkilayimに該当すると解釈している。

 寒い日には小さい布でも手に巻いたり、膝の上に載せたりすることがあり、逆に暑い日には裸でいる時にバスタオルを腰に巻くことがある。

 ラビ・エルアザルはそのような用途に使う場合、ハンドタオル等もkilayimとして許されないとする。

 他方でラビたちは、ハンドタオル等の元々の目的は別のところにあるのだから、たとえそのような使い方をしてもkilayimの掟に抵触しないとする。

 「床屋のエプロン」は客が身にまとうカットクロスである。カットクロスの目的は寒さを和らげる為でもなく、日差しから守る為でもない。

 客の衣類に髪の毛が付着しないようにするだけである。しかし元から体にまとう衣類のような仕様で作られているので、kilayimの掟の適用対象になっている。

 次節に進む。

ミシュナ『Kilayim』9章4節:律法遵守義務の喪失(死者)と身体接触リスクの遮断(ロバの鞍)

 死者の為の経帷子、ロバのサドルのブランケットはkilayimの禁止に触れない。サドルのブランケットを肩にかけてはならない。たとえゴミを取る為であっても。

(Kilayim 9:4)

 トーラの掟に従うのは生きている者である。死者にshaatnezの経帷子を着せて埋葬することは許される。

 次に「ロバのサドルのブランケット」についてだが、トーラの次元では、座ることは衣類のkilayimに抵触しない。しかしラビたちによって禁止されている。なぜなら糸が出て皮膚に触れる恐れがあるからである。

 この点ロバの鞍は非常に硬い作りであるので、人が上に座っても糸が露出して皮膚に触れる心配がないとされている。

 あるいは、鞍はマットやクッションと同じく座る為に作られたものであるので、肌に振れない限り座ることは問題ないともされている。

 しかし「サドルのブランケットを肩にかけてはならない」とある通り、体の上に纏うことは許されない。

 この点、次節の内容は意外に見える。

ミシュナ『Kilayim』9章5節〜6節:商業行為(衣類を売る商人・仕立て職人)における「自己の便益」排除の法理

 衣類を売る人たちは普通の仕方で売ってよい、彼らが太陽の下において太陽から自分たちを守る為、雨において雨から自分たちを守る為でない限り。熱心な者たちはそれらを竿にかける。

(Kilayim 9:5)

 RavやRoshによると、衣類を売る者は顧客に見せる為に自らshaatnezをまとってよい。それは自らの利益の為ではなく、顧客に具合を見せる為の便宜である。

 しかし寒さを和らげるとか、日差しから肌を守るといった自分への利益を兼ねている場合、自ら身にまとうことは許容されない。

 「太陽の下において太陽から自分たちを守る為、雨において雨から自分たちを守る為でない限り」とは、自分の利益を兼ねない場合に限り、このような商売方法が許されることを言っている。

 「熱心な者たちはそれらを竿にかける」とは、上のように商売の便宜の為にshaatnezを着用することは許されても、敬虔な者はそのように行わないことを言っている。

 むしろ、顧客に見せるなら、吊るして見せるべきである。

 次節は本節と似た内容である。

 衣類を作る人たちは、通常の方法で縫ってよい、もしも彼らが太陽の下において太陽から自分たちを守る為、雨において雨から自分たちを守る為でない限り。熱心な者たちは地面に置いて縫う。

(Kilayim 9:6)

 度々確認した通り、shaatnezの衣類を制作することは認められる。「通常の方法で縫ってよい」とは、生地を膝や「もも」の上に置いてよいことを言っている。

 ただしそれが寒さを和らげる為など、自らの利益を兼ねていてはならない。また、敬虔な者は、たとえ是認されるような状況でも、あえて行わない。

 敬虔な者はshaatnezの布地を織る時には、自分の体の上ではなく地面の上に置く。

 今回の解説は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Kilayim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nbf78cc478503


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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